2016年6月9日 |
ご当地ワインと郷土料理&名産物⑮イタリア産スパークリング・ワイン その3
アルプスのふもとで生まれるワイン
時折とはいえ、夏の日差しを感じることもある今日この頃、スパークリング・ワインがますますおいしくなる季節の到来だ。今回もイタリアのスパークリング・ワインの説明を続けよう。
まずは、アスティAstiから。アスティはアルプス山脈の麓の州、ピエモンテ州(ピエとは「足」、モンテとは「山」という意味)で産出される、わずかに甘く、香の高いライトボディの発泡性白ワイン。モスカート種(マスカット種の一種)から造られ、モモやアプリコット、ブドウなどの豊かな風味を持つ。その甘さゆえ食事には合わせづらい一方、食後用とするには甘さが足りない。オペラやコンサート鑑賞の幕間時のリフレッシュメントとして、またはアプリコットやモモを使ったデザートのパートナーとして楽しむのがお薦め。この州では他にモスカート・ダスティMoscato d’Astiも造られている。アスティはスプマンテ(発泡性)でアルコール度が8%ほどと低い。モスカート・ダスティはフリッツァンテ(弱発泡性)で、アルコール度が5.5%ほどとさらに低く、アスティより甘みが強い。
マリア・カラスやパヴァロッティが愛飲したワイン
次はランブルスコLambruscoについて。これは、ボローニャを州都とするエミリア=ロマーニャ州で造られる。同州は古くから農業や畜産が盛んで、ボロネーゼ(ミート・ソース。州都名にちなんでいる)やパルマ・ハムをはじめ、パルミジャーノ・レッジャーノ(チーズ)、バルサミコ酢、ボローニャのモルタデッラ(太いソーセージ)等と世界的に有名な食材の宝庫として知られている。ランブルスコはこうした名産物にきわめて合わせやすく、飲みやすい早期消費用のワイン。白/ロゼ/赤ワイン、辛口~甘口までの広いレンジが揃い、非発泡性/発泡性ワインと、異なるタイプのいろいろなスタイルのワインを造っている。ちなみに、密閉タンク方式で造られるこの発泡性ワインは、1900年のパリ万博で賞を授与されたあと、1920年代から輸出がスタート。マリア・カラスやパヴァロッティが愛したワインとして知られた。しかし、その世界的な人気から1960年代に過剰な大量生産が行われた結果、品質を落とし評判を失ってしまったという過去がある。
最近ではランブルスコ・ディ・ソルバーラLambrusco di Sorbara DOCのような上質のフリッツァンテ(弱発泡性)赤ワインも出回るようになっており、三ツ星レストランにも置かれるに至っている。アルコール度が低く飲みやすく、爽やかな酸味と花の香が高い、フレッシュなワインで、パルマ・ハムをつまみながら飲むもよし、またタパスや、意外なところでは焼き鳥のお供に飲んでも見事に合う。
入手困難な辛口発泡性ワイン
続いてトレンティーノ・アルト・アディジェ州トレンティーノ県で造られるトレントTrento DOCについて。このワインは高品質志向の辛口発泡性ワインで、白とロゼがある。シャンパーニュと同様、瓶内2次発酵方式で、シャルドネ(白ブドウ品種)、ピノ・ネロ(黒ブドウ品種。ピノ・ノワール種と同じ)、ピノ・ビアンコ(黒ブドウ品種。ピノ・ブラン種と同じ)、ピノ・ムニエを使って造られる。生産量が少なく入手が困難だが、このワインのもつエレガントな味わいとなめらかな口当たり、凝縮された風味の醍醐味は、一度は試す価値がある。
さて、エミリア=ロマーニャの名産物のひとつモルタデッラmortadella=写真=について触れておこう。これは、精選した豚肉をひき肉にし、これにさいの目に切った脂身、スパイス、ピスタチオを加えて蒸してつくった太いソーセージ。うすピンク色で、塩味は強すぎず、優しい味がする。これからの時期、庭での家族団欒のランチやガーデン・パーティーで、薄切りにしたモルタデッラに、長めの短冊切りにしたキュウリやニンジン、セロリを添えて、イタリアン・スパークリング・ワインと楽しんではいかがだろう。