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◆◆◆《第512回》◆◆◆
トルコの独裁化

 先月二十四日、トルコで大統領と国会議員(一院制)のダブル選挙が行なわれた。大統領選挙では現職のエルドアン大統領が当選ラインをやや上回る五十二・五%の得票率で再選を果たした。これに対し最大野党の中道左派、CHP(共和人民党)のインジェ候補は三十・六%にとどまった。事前の予想ではエルドアン氏は過半数を確保出来ず、決選投票になると見られていたが、現職の強みを生かして一回目の投票で当選を決めた。また議員選挙でもエルドアン氏が率いるAKP(公正発展党)が連立のパートナーで右翼のМHP(民族主義者行動党)と合わせて過半数の議席を制した。エルドアン氏は首相時代も含めすでに十五年近く政権の座にあるが、今回の勝利で今後も引き続き政権を担うことが確実になった。

エルドアン大統領は昨年四月、権限拡大を狙って憲法改定の是非を問う国民投票を実施した。その結果は賛成が五十一%、反対が四十九%で賛成派が勝った。この時、大統領が多数のトルコの国民が住んでいる欧州各国へ教宣活動のために閣僚を派遣しようとしてドイツやオランダの政府から拒絶されたことは記憶に新しい。また改憲を是とする投票結果について、野党から政権側の不正行為を糾弾する声が相次いだが結果は覆らなかった。

 憲法改定の眼目は議院内閣制を廃止し、大統領制に移行することだった。これにより首相のポストが廃止される一方、大統領は多選が認められ、国家元首と行政の長を兼ねた大きな権力を持つことになった。さらに国会の解散や非常事態を宣言する権利のほか、司法機関の人事権も掌握し、独裁的な権力を手に入れることになった。

 新しい憲法は今回の選挙後に施行される。CHPなど野党は議院内閣制の廃止に反対し、強権政治に走るエルドアン大統領を批判している。今回の選挙の結果次第では改定された憲法が見直される可能性もあった。そうした重要な選挙にエルドアン大統領は勝利したのである。先述のように彼はすでに十五年近くトルコの政権を担って来たが、新憲法の規定により最長で二〇二八年まで政権の座に座り続けることが出来る。欧州諸国には「エルドアン氏はトルコ帝国時代の皇帝のような独裁者になるのではないか」と危惧する声があがっている。

トルコ国内には今回の選挙についても昨年の改憲投票の時と同じように、政権が不正を行なったと指摘する声が聞かれる。大統領選挙に敗れたCHPのインジェ氏は「選挙運動自体がエルドアン氏に有利になるように不公平な形で進められた」と語っている。政権の支配下にある国営放送のTRT(トルコ・ラジオ・テレビ協会)はエルドアン大統領の選挙運動の報道に百八十一時間を費やしたが、対立候補であるインジェ氏の選挙運動の様子はわずか十五時間しか報道しなかった。とくに投票前日、首都のアンカラで開かれたインジェ氏の集会には百万人の有権者が集まったにもかかわらず、TRTはこのことを一切報道しなかった。

 トルコの政治動向は欧州にとっても大きな関心事である。トルコは以前からEUへの加盟を望んでいる。二〇〇五年にEUとの間で加盟交渉が始まったが、一昨年の夏に起きた軍部によるクーデター未遂以後、エルドアン大統領の非民主的な手法が目立つようになり、加盟交渉は凍結された。しかし、クーデター未遂事件の半年ほど前、EUは欧州を目指してやって来る大量のシリア難民の水際対策をトルコに委ねる見返りとして、EU加盟の交渉加速を約束した経緯がある。EU内部には「トルコとの加盟交渉を打ち切るべき」との意見もあるが、中東難民の防波堤になっているトルコとの関係が悪化して困るのはEUの方だ。

 独裁化する一方のトルコの加盟を人権問題にきびしいEUが認めることは難しいが、トルコは一九五二年以来のNATOの古い加盟国である。地理的にも中東と欧州を結ぶ重要な地域に位置している。EUの加盟国で最も人口が多いドイツ(約八千三百万人)にほぼ匹敵する約八千万の人口を擁していることも無視出来ない。

 今年一月、エルドアン大統領と会見したフランスのマクロン大統領は「EUへの加盟ではなく連携協定という形」でトルコを受け入れる案を示唆した。これに対してエルドアン大統領はその後、トルコの地位と力を誇示しつつ、あくまでも正式な加盟を望む姿勢を崩しておらず、EUに対して速やかな交渉の再開を求めている。選挙に勝って大きな権力を手に入れたエルドアン大統領にEUはどう対処するのか。今後の展開が注目される。

週刊ジャーニー No.1042(2018年7月5日)掲載

くろだいぬひこ
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。