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◆◆◆《第556回》◆◆◆
スコットランドは独立するのか

スコットランドの自治政府首相でSNP(スコットランド民族党)党首のニコラ・スタージョン氏が再び独立の可否をめぐる住民投票に言及した。イギリスのEU離脱が正式に決まれば二〇二一年までに住民投票を実施するという。二〇二一年という時期を示したのはその年にスコットランド議会の選挙が行なわれるからだ。
「中央政府は前回の住民投票の時に約束したことを守っていない。スコットランドの自治政府は対等の立場を認められたはずなのに私たちの要求は受け入れられない。イギリスがEUを離脱すればスコットランドの経済は壊滅的な打撃を受ける。それを避けるために『独立』を目指したい」
先月二十七日に開かれたSNP(スコットランド民族党)の大会でスタージョン氏はこのように述べ、再び住民投票を実施する意向を示した。
二〇一六年に行なわれたEU離脱をめぐる国民投票ではスコットランドの有権者の約六割が「残留」に投票した。しかし国民全体では離脱派が残留派を上回り、イギリスのEU離脱が決まった。スタージョン氏はスコットランドの意思とは異なる結果に不満を募らせ、国民投票の直後にも「独立」の可否を問う住民投票に言及したが、その時はメイ首相が説得して立ち消えになった。しかし、EU離脱をめぐる政府の対応に業を煮やし、党大会で再び「独立」の旗を掲げた。
もちろん、住民投票の実施は彼女が言うほど簡単ではない。「一九九八年スコットランド法」の第三〇条の規定により、自治政府が独立に関する住民投票を実施する場合、中央政府の合意を得なければならないからだ。メイ首相は「独立しないという住民の意思はすでに確認された。住民投票を行なう必要はない」という立場だ。
スタージョン氏が「独立」に固執するのには理由がある。その一つはEU残留を求める世論を高めることである。EUを離脱した上にスコットランドが連合王国から独立すればイギリスの国力は一層弱まる。スタージョン氏は「独立」を公言することで、強硬離脱派に気を遣うメイ首相に圧力をかけるとともに、EU離脱をめぐる二度目の国民投票への道を開こうとしているのではなかろうか。SNPは今月二十三日に行なわれる欧州議会選挙でも多くの議席を確保して親EUの民意を高めようとしている。

もう一つの理由はSNP自身の影響力の強化である。二〇一五年の総選挙では大勝したSNPだが、二〇一七年の総選挙では十九議席減の三十五議席に終わった。しかも今年一月、サモンド前党首が強姦未遂などの嫌疑で逮捕される不祥事が発生した。サモンド氏は自治政府首相として中央政府と渡り合い、住民投票を実現させた立役者である。それだけに、彼の逮捕はSNPのイメージを大きく傷つけた。スタージョン氏は「独立」を党の大方針に据えてスコットランド住民の愛郷心に訴え、SNPの影響力を回復したいのであろう。
今回の党大会で注目されたのは「独立後に新しい通貨を導入する」という方針が採択されたことである。二〇一四年に住民投票が行なわれた時、サモンド自治政府首相(当時)は独立後もポンドを使用する意向を示したが、イングランド銀行にきっぱりと拒絶された。慌てたサモンド氏はドルやユーロにも言及したが、付け焼刃的な説明はいかにも苦しく、独立派の底の浅さを露呈した。
今回、SNPの執行部は党大会で「独立後、準備に数年を費やし、慎重に経済状態を見極めた上で新しい通貨に移行する」という方針を提案した。これに対し一部の代議員が「独立後すぐに新通貨に切り替えるべきだ」と主張したが、結局「準備が出来次第、速やかに新通貨に移行する」という方向でまとまった。
もっとも使用通貨は外貨準備や経済情勢や外国との関係が複雑に絡み合い、簡単には決められない。それ以前の問題として、スコットランドの独立に現実味はあるのだろうか。直近の世論調査によればスコットランド住民の賛否は拮抗している。SNPのキース・ブラウン副党首は「独立するには住民投票で前回以上の賛同を得る必要がある。そのために地道な議論を進めたい」と述べている。
私はスコットランドは独立すべきではないと思うが、今後の政治状況によっては独立を望む住民が増えるかも知れない。それを防ぐ唯一の方法はイギリスがEUに残留することである。今月二十三日の欧州議会選挙でイギリスの有権者が示す民意に注目したい。

週刊ジャーニー No.1086(2019年5月16日)掲載

くろだいぬひこ
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。