inuhiko_title.jpg

◆◆◆《第505回》◆◆◆
大型合併

食品スーパーのセインズベリーズとアズダが合併することに合意した。競争市場庁(CМA)の審査を受ける必要があるが、おそらく承認されるだろう。両社は業界で二位と三位の大手で店舗数を合わせると二千八百になる。新会社の市場シェアは三十一%を超え、僅差でテスコを抜き、一躍国内トップに躍り出る。

セインズベリーズは二〇一六年、カタログ販売のアルゴスと家具のハビタットを傘下に収めた。それからあまり時間が経っていないのに今度はアズダと合併する。その背景には同業者間の激しい競争がある。テスコやモリソンズなどイギリス系のスーパーだけでなく、近年は外国系のスーパーとの競合も熾烈を極めている。中でもシェアを伸ばしているのがドイツのアルディとリドルである。

一九四六年にドイツで創業したアルディがイギリスへ進出したのは一九九〇年だった。現在はイギリス国内で六百店舗を展開しているが、二〇二二年までに千店舗に増やす方針だ。リドルの創業はアルディより古く一九三〇年である。一九九四年にイギリスへ進出した。現在の店舗数は七百だが、こちらも販売網の拡張を図っている。

二十年以上も前にイギリスへ進出したアルディとリドルは最近までそれほど目立つ存在ではなかった。急速に店舗を増やし、シェアを伸ばしたのはこの四年ほどのことである。アルディの店舗数は二〇一三年から昨年までの間に二倍になった。それに伴ってシェアは直近の数字で七・三%に達した。リドルも二〇一七年と一八年の二年間でロンドンの店舗数を二百五十増やす計画を着実に進め、シェアは五・四%まで伸びている。

私が住んでいる地域でもアルディとリドルの看板を見ることが多くなった。両社の店舗を多くの買い物客が訪れていることは駐車場の込み具合から分かる。それに比べ、同じ地域の老舗スーパー、ウェイトローズは閑散としている。この光景からアルディとリドルがイギリスで急速に伸びた理由を知ることが出来る。それを端的にいえば消費者の「価格志向」である。十年前のリーマン・ショック以降、イギリスの景気には勢いがない。賃金の上昇が物価の上昇に追いつかず、家計は苦しいやり繰りを強いられている。当然ながら消費者は買い物をする場合、価格に敏感になった。

アルディとリドルは低価格で買い物客を呼び込む「ディスカウント・スーパーマーケット」である。品揃えは大手のテスコやセインズベリーズより劣るが、品目別の価格では互角以上の勝負をしている。陳列棚にはメーカーと独自に契約して製造した商品がずらりと並んでいる。それらの価格の安さと品質の良さがイギリスの消費者を引き付けている。

ドイツ系の二社の躍進に慌てたのがイギリスの四大スーパーと呼ばれるテスコ、セインズベリーズ、アズダ、モリソンズである。価格で勝負するには事業規模の拡大による仕入れ能力の増強が欠かせない。セインズベリーズとアズダの大型合併の背景にはそうした事情がある。

とはいえ、合併後の新会社とテスコのシェアが合わせて六十%を超える状況は異常である。これは明らかに寡占状態であり、これまで地道に営業して来た中小の食品スーパーは早晩立ち行かなくなってしまう。それだけではない。大手スーパーの価格競争のあおりを受けるのは商品を卸している業者たちである。大手スーパーは販売価格を下げても利益が減らないように仕入れ値を抑えようとする。納入業者は「値引き」の形で協力を要請される。何とか経費を削って対応出来るうちはいいが、対応出来なくなれば人員整理の必要が生じ、最悪の場合は経営が破たんする。

実際、イギリスのある調査機関はセインズベリーズとアズダの合併に関し、「商品の供給や運送に関わる業者の二千五百人の社員が職を失う恐れがある」という試算を発表した。こうした見方に対してセインズベリーズは「低価格商品の提供は販売量の増加にむすびつき、合併の弾力的な効果は顧客、納入業者、社員、株主の全てに利益をもたらす」と反論している。果たしてそのようにうまくいくのだろうか。

日本でもスーパーの上位二社(イオンとセブン&アイ)のシェアを足し合わせれば四十五%ほどになる。スーパーの寡占化は世界的傾向だが、それがあまり進み過ぎると最終的に商品の価格決定力は勝ち残った少数のスーパーだけが握ることになる。大型合併による巨大スーパーの誕生は消費者にとって本当にいいことなのか、じっくりと考える必要がありそうだ。

週刊ジャーニー No.1035(2018年5月17日)掲載

くろだいぬひこ
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。