■1982年6月、インドネシア上空を飛行中だったブリティッシュ・エアウェイズ009便のエンジン4基全てがなんの前触れもなく突然停止した。機長以下、必死で策を探るが、次々に想定外のことが起こり、さらなるピンチへと追い込まれていく。
機長は機体を毎分500フィート(約152メートル)ずつ降下させた。計算では最大で140マイル(約224キロメートル)滑空できるはずだった。しかしジャカルタに向かうにはジャワ島の山岳地帯を超える必要がある。それには高度を1万1500フィート以上に保つ必要があった。高度1万2000フィートまで降下してもエンジンが再起動しない場合はサメが泳ぐ真っ暗な大海原に不時着水するしかない。その後もエンジンの再起動が試みられたがエンジンは沈黙を続けた。客室内は不気味に静まり返っていた。中には搭乗券に家族への別れのメッセージを書く人もいた。この頃、コックピットは更なるトラブルに直面していた。
航空史に残るアナウンス
エンジンが停止したことで機内の気圧が徐々に低下。酸素マスクを着用しようとしたが副操縦士のマスクが故障。マスクなしでは意識を喪失する恐れがある。酸素を吸入できる高度にまで降下せざるを得なかった。一気に高度を下げたことで滑空可能な時間が極端に短縮された。客室は降りて来た酸素マスクと急降下でパニック状態となっていた。ここで機長は乗客を安心させるため航空史上に残るアナウンスをした。
「こちらは機長です。4基のエンジン全てが停止するという小さな問題が生じました。現在全力で再始動を試みています。皆さんが過度に心配されていないと信じます」。
機長の落ち着き払った声を聞き、乗客はわずかに安堵した。アナウンスを終えると機長はすぐに主任CAに不時着水に備えるよう指示を出した。ジャンボ機がグライダーと化してから12分。高度は1万1400フィート(3400メートル)まで降下。もはや山岳地帯は越えられない。機長も不時着水以外ない、と覚悟を決めた次の瞬間、奇跡が起きた。ロールスロイス製の第4エンジンが突然唸り声を上げて再起動した。さらに他3基のエンジンも次々と再起動に成功。推力を取り戻した機体はたちまち高度を上げた。山岳地帯への衝突や不時着水の危険性は解消された。機長は落ち着いた声で「こちらは機長です。問題を乗り切り、エンジン4基全て回復しました。15分後にジャカルタに着陸します」とアナウンスした。機内に大歓声が起こった。しかし、まだすべての悪夢が終わったわけではなかった。(
)By 週刊ジャーニー (Japan Journals Ltd London)