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【キューバ編 第41話】無造作なごちそう

キューバ地図
石田ゆうすけ
旅行作家。7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

今日の宿泊予定地ラス・トゥナスまで、あと30キロほどのところで、粗末な小屋が現れた。食堂らしい。少し前にピザを食べたから、腹は減っていない。でもラス・トゥナスまで何もなかったら、と思うとちょっと怖い。
空腹で動けなくなる「ハンガーノック」を常に恐れていた。トラウマがある。何度も経験している。メキシコでは夜になり、すぐそこに町の明かりが見えているのに、空腹で道に倒れ、一歩も動けなくなったこともあった。ま、しばらく横になっていたら、体のどこかに残っていた力が僅かに充電され、多少は動けるようになるのだが。携帯電話みたいなものだ(いまだスマホを持っておらず、バッテリーの減り方がわからないので「スマホみたい」とは書けない)。ただ、あの動けなくなる絶望感はできれば味わいたくない。
ネットを駆使すれば、どこに食堂があるかわかるのだろうが、それだとつまらないから調べていない。もっとも、キューバだとネットの情報も限られるのかもしれないが。
ま、いいや、食べていこう。そう思い、小屋に入った。先客が食べているのを差して「これを」と告げ、「半分にできる?」と聞いてみる。店主は肩をそびやかせ、ぶっきらぼうな様子で、ご飯をお玉で半量すくい、その上におかずをのせていった。いかにもトラックドライバーが寄りそうな街道沿いの店だ。半分の量で、とお願いする客はいないのだろう。
出された料理は、昼に食べたものと同じく、1枚の皿にご飯、豚肉、野菜がのったワンプレートミールだった。手荒く盛られた料理が皿の上で散乱し、残飯のように見えるところまで一緒だ。値段は1CUC。約110円。半量だから半値とはなっていないようだが、さすがにそこまでは求めない。
食べてみると、驚いた。味付けが適正な一点で完璧に決まった料理の、あの膝を打ちたくなるようなうまさだ。さっき食べたピザはどこへ行ったのか、空腹すら覚え、ガツガツ平らげた。いやはやうまい。まだ物足りない。ええい行け。勢いのままお代わりを頼んだ。

見た目はアレだが美味なワンプレートミール

さっきまでちょっと感じの悪かった店主がそこで破顔した。半量にしてくれ、と注文したわけのわからないアジア人が、今度はお代わりを要求してきたよ、どうなってんだい、そういわんばかりだ。店主はニヤニヤ笑ったまま、ご飯をお玉でドカッ、ドカッ、と2杯皿にのせた。
「おいおい、そんなに食えるか!」と僕が突っ込むと、店主はさらに嬉しそうに笑う。キューバ人は茶目っ気たっぷりだ。
結局全部で2.5人前をぺろりと平らげ、走り出した。さすがに腹一杯だ。この分じゃ晩飯もいらないなと思った。西日が大地に近づき、影が長くなっている。
約1時間半後ラス・トゥナスに着くと、目を見張った。
「な、なんじゃこりゃ……」
通りという通りが満艦飾のように飾り立てられ、あちこちで豚の丸焼きが行われているのだ。なんと今日は祭りだったのか。
豚は脂でテカテカ光っていた。肉の焼ける香ばしいかおりが通りに充ちている。それを嗅ぎながら、顔が少々引きつるのを感じていた。な、なんで俺はさっきアホみたいに腹いっぱい食べたんじゃ……。

ラス・トゥナスで行われていた豚の丸焼きフェス(?)

週刊ジャーニー No.1138(2020年5月21日)掲載