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【キューバ編 第13話】奇妙な中華街

キューバ地図
石田ゆうすけ
旅行作家。7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

宿への到着が午後8時過ぎ、と遅くなったので、シャワーだけ浴びてすぐに外に食べにいった。
キューバの首都ハバナは想像していたとおり、壮麗なコロニアル建築の並ぶ美しい都市だったが、夜になると一変した。暗く陰惨な雰囲気に変わった。街灯が少なくて暗いうえに、古ぼけたアパートが多いからだろう。宿周辺は下町だから特に陰気なのかもしれないが、どうも薄気味悪い。暗がりには男たちが所在なくたむろしている。キューバは治安がいいと聞いていたので少々意外だった。
それでも店を探すために夜の町をあちこち歩きまわり、最終的に選んだのは中華料理店だった。なんとも情けない。世界中どこで食べても中華はまあ中華だ。日本人の舌には必ず合う。現地の料理が口に合わず、中華の店ばかり探す日本人旅行者も少なくない。僕はできれば現地に溶け込み、現地の文化になじみたいと思っている。食はその第一歩だ。でもこの日は初日で勝手がわからなかったし、どの店がキューバ料理を出しているのかもよくわからなかった。それに何よりこの日は宿探しで道にさんざん迷って疲弊し、旺盛な好奇心も失われていたのだ。結局安易な中華に流れてしまった。

奇妙な中華街で見かける観光客は西洋人ばかり

ただ、店はちょっとおもしろい場所にあった。ビルが並ぶ一角に、中華街がいきなり現れるのだが、なんだか妙なのだ。入り口には《中国城》と書かれたゲートがあるのだが、中国城という言葉からして変だし、文字も怪しい。いかにも西洋人が漢字を真似て書いた風だ。そのゲートをくぐって中華街の中に入ると、赤を基調にした店が並んでいる。瓦に提灯に雷文、とそれらしい世界は広がっているのだが、舞台のセットみたいでどこかわざとらしい。何より変なのが中国人をまったく見かけないことだった。従業員も客引きもみなキューバ人に見える。と思っていたら、ある店の客引きからとうとうこんなことを言われてしまった。
「うちの店はちゃんと中国人が料理してるよ」
「えっ、他の店は違うの?」
彼曰く、だいたいキューバ人が作っているらしい。世界各地に中華街はあるが、普通は中華系の人々によって形成されている。中国人のいない中華街を見るのは、僕は初めてかもしれない。
炒飯、チャプスイ、餃子、という貧乏旅行者ご用達の三点セットを頼んだ。チャプスイというのは、海外で初めて聞いた名で、最初はどんな料理か見当もつかなかったが、ようは中華丼の具だ。中国でもそんな料理は見なかったから、外国で作られた中華料理もどきだろう――そう思っていたのだが、実は広東料理にその名の料理があるらしい。

キューバ上陸祝いのごちそう(?)


ともあれ、中国人が作ったはずの料理は、正直どれも微妙だった。中華街全体の雰囲気同様、どこかエセっぽく、この味でトータル1400円か、と釈然としない思いがした(ちなみにローカルの食堂だと1食100円もしない)。キューバの上陸祝いとしてはどうもパッとしない。
あとで調べてみると、かつては中国人で賑わう巨大な中華街があったようだ。だが1959年の革命によってキューバが社会主義路線へと舵を切ると、金儲けのために移住してきた中国人たちは国外に逃げ、中華街が形骸化したらしい。舞台のセット風の街を思い返しながら、どうりで、と思わずにはいられなかった。

週刊ジャーニー No.1110(2019年10月31日)掲載