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ぶらりんぐロンドン

ジャーニー編集部がロンドンの街をぶらりとレポート

「泣き屋」を集めた異色インスタレーションに行ってきた

ニューヨーク出身の女性アーティスト、タリン・サイモン氏(Taryn Simon)によるドキュメンタリー・インスタレーション、「An Occupation of Loss」に行ってきました。
徹底的なリサーチに基づくドキュメンタリー作品を数多く手掛けるサイモン氏による「喪失の職業」と題したこのインスタレーションは、世界各地の「Professional Mourner」を集めるという前例のないもの。「Professional Mourner」とは、葬式などで派手に声を上げて泣いたり、涙を流しながら鎮魂歌を歌ういわゆる“泣き屋”のこと。
サイモン氏は世界中の職業としての泣き屋の起源や音楽性などについて徹底的に調査し、今回のインスタレーションを完成させました。

会場となったのは、Angel駅にほど近いIslington Greenの側に人知れず広がる地下空間。
現在は「Unfinished concrete underground theatre. (Islington, London)」との通名で貸しスペースとなっていますが、「イブニング・スタンダード」紙(2008年3月12日付)によると、600席の地下劇場と、地上階にレストランやバー、その上に72のフラットを有する施設を、2800万ポンドを費やしてつくる計画が進んでいたようですが、後に計画が中断されたのだそうです。フラットは完成しすでに居住者がいるものの、劇場と地上階の商業施設は未完成のままで、コンクリートむき出しの状態で内装は一切整えられず現在に至っています。入口はEssex Roadに面したフラットとフラットの間にぽっかりと空いた空間。

インスタレーションの見学は午後7時、8時、9時の時間制。フラットのバルコニーに囲まれた不思議な円形の地上スペースに入場し、開始時間を待っていると、スタッフにより「電話の電源を切ってください。会場内では沈黙を守ってください」との説明を受け、地下へと続く階段に案内されます。来場者は100人ほど。
コンクリートに囲まれた薄暗い空間を、階段の鉄パイプの手すりをたよりに地下1階へと降りて行きます。一面灰色のその世界の中心にあったのは、ぽっかりと空いた地下3階まである吹き抜けの円形空間。円形劇場のようであり、都会の地下に眠る貯水槽のようでもあり、秘密結社の礼拝堂のようでもあり…。日常生活とかけ離れた異空間へ足を踏み入れただけで、胸が高鳴ります。

地下3階のバルコニー部分でライブ・インスタレーションの開始を待っていると、最下階から主役である“泣き屋”が次々と入場し、それぞれの位置にスタンバイします。
今回のインスタレーションに参加したのは、ルーマニア、中国、アゼルバイジャン、ガーナ、ギリシャ、ロシア、アルメニアほかの“泣き屋”の方々。沈黙の世界に太鼓の音が鳴り響き、誰からともなく嘆きの歌が開始されると、会場全体にハウリングを起こし、コンクリートの無機質な空間に嘆きの声が充満します。それぞれの泣き屋が数十メートルずつ離れたそれぞれの場所で同時に歌います。嗚咽、叫び、アコーディオンの調べ、太鼓の響き、女性の声と男性の歌声は、美しくも悲しげで、見るもののの感情を揺さぶります。

 

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来場者は、自由に歩き回ることが許されていて、泣き屋の目前まで行って見学することが可能。ある鎮魂歌は魂を天の川へと導き、ある鎮魂歌は死者の人生の物語を残された者へと語ります。
中国の泣き屋は白装束に身を包み、「お父さん! お父さん!! なぜ死んでしまったの? お父さんがいなくてはこの一家は成り立たないわ!」と、ひたすらに泣き叫びます。
「An Occupation of Loss - 喪失の職業」とのタイトルには、「人を亡くす喪失」と、時代の流れによる「泣き屋という職業の喪失の危機」という、ふたつの「喪失」の意味が含まれているのだと思います。

2016年にニューヨークで初めて公開されたこのインスタレーションは、ロンドンでの理想的な会場を探すのに数年かかったそうなのですが、この会場でしか成立しなかったのではないかと思えるほど、内容と会場が完璧に調和していました。20分強、鎮魂歌に包まれるというインスタレーションに参加した後は、決してネガティブなものでない強い余韻が残りました。残念ながらチケットはすでに完売していますが、今回のようなイベントがまたロンドンで開催されることがあれば、是非またご紹介したいと思います。(編集部H)

Taryn Simon
An Occupation of Loss

4月28日(土)まで、20ポンド
Essex Road, N1 8DU