米に、緑茶に、日本生まれのホップ!

オカワリ クダサイ…!?

■英国では近年、小規模醸造所によるビール造りが盛んに行われ、それぞれが個性的で美味しい1杯を次々と生み出している。その粋を集めたイベント「ロンドン・ブリュワーズ・マーケット」(11月28日、オールド・スピタルフィールズ・マーケットにて)を覗いてみると、数あるラベルの中から「オカワリ クダサイ」とカタカナで書かれた1本が目に飛び込んできた。な、なぜ日本語…!? 早速、製造元へと向かった。


小規模醸造所のメッカといえば、ロンドン南部バーモンジーと、東部ハックニー。同ブリュワリー=写真=のほか、醸造所、専門店などが点在する。
ロンドン東部ハガーストン駅から徒歩5分。オーバーグラウンドが走る高架下に醸造所を構えるハックニー・ブリュワリーを訪れると、創業者のひとり、ジョン・スウェインさんが仕込み中のタンクの影から半袖姿で登場した。
同醸造所は2011年に創業し、定番のエール・ビール5種を軸に、常に新しい味を求めてビール造りが行われる。この夏、「一風変わったものに挑戦したい」と模索する中で、まず注目したのが「ソラチ・エース」と呼ばれるホップだった。
「このソラチ・エース、生まれは日本なんですよ」とスウェインさん。日本のサッポロ・ビールが1970年代後半に北海道の空知(そらち)地方で開発したという。現在、日本ではほとんど栽培されていないが、2000年代半ばに、ホップの収穫量が世界的に低下した際、米国のある農家が新しい品種を求めて栽培を開始した。
ビール造りにおいてホップは、苦み、香りを左右する重要な要素。ソラチ・エースは、レモンやディルの香りにたとえられるだけでなく、ホップにしてはかなり珍しい、ココナツ、そしてバブルガム(!?)の香りをもたらすこともある。そのことから、醸造家らの間では「曲者」として知られている。日本で作られなくなった理由の一端もここにあるのかもしれない。しかし、この型にはまらない個性ゆえに、世界各地の小規模醸造家らを魅了しているという。
このホップに合わせるにはどんな素材がよいか―。「ソラチ・エースが日本生まれならば、それに合うよう、日本らしい材料でビールを造りたい」。こう考えたスウェインさんらが行き着いたのが、大麦や小麦に加え、米と緑茶を使うアイディアだった。
米のスターチをしっかり引き出すこと、緑茶の渋みのバランス、ホップを入れるタイミングなど、レシピ開発が入念に行われ、商品が完成。この秋、数量限定で発売を開始した。
試飲してみると、ホップの苦味が程よく、口当たりまろやか。変り種のホップの香りも、緑茶の存在感も(良くも悪くも)感じられない、飲みやすい味わいだ。口にほのかな甘みが残り、後味もよし。これなら「オカワリ クダサイ」という言葉が聞こえてきてもおかしくない。あえてリクエストするならば、緑茶の味が際立つような、もっと個性的なビールを飲んでみたいかも。
スウェインさんもこの完成度に自信の笑みを浮かべ、「今のところは限定生産だけど、機会があれば今後も造っていきたい」と期待を寄せた。(文/本誌編集部 西村千秋)

 

ハックニー・ブリュワリーは、ガストロ・パブの草分け的存在「Eagle」でマネジャーとして働いていた
スウェインさん=写真=と、同店のシェフだったピーター・ヒルズさんが趣味で始めた
ビール造りがきっかけとなり、2011年に誕生した。
「オカワリ クダサイ」はハックニーのオフライセンス・ショップなどで購入可能。
Hackney Brewery http://hackneybrewery.co.uk


 

知る人ぞ知る!日本由来のソラチ・エース・ホップ
醸造家の間でも「好きか嫌いか」好みがはっきりと分かれるとされる北海道・空知由来のソラチ・エース・ホップ=写真右。米国に輸出され、2000年代後半に商用化された。米ニューヨークで人気のブルックリン・ブリュワリーによる「ブルックリン・ソラチ・エース」=同左=のほか、M&Sブランドの「ソラチ・サイソン」=同右=などで利用される。今年5月からは、本家本元の北海道空知地方で、米国産のソラチ・エースを使ったビールが製造販売されている