
ギャラリーの空間を病棟に見立て、圧倒的な大きさとサイケデリックな色調のインスタレーションの数々は、彫刻、イラスト、アーケードゲームのようなインタラクティブなジオラマで構成されている。アーティストのジェイソン・ウィルシャー-ミルズのこれまでのエキシビションの中で最も記念碑的で個人的なものだという。彼が11歳の時、自己免疫疾患で首から下の運動機能を徐々に失い、病院で過ごした1年の記録と記憶を反映したユニークな作品群と共に、自身のアーティストとしての創造性がどこから来たのかについて考察している。
80年代のウエスト・ヨークシャー。サイケデリックな壁紙に囲まれた病室で、ジェイソン少年が動かない身体でできることは想像することだけだった。見舞いの家族が読み聞かせてくれる物語、大人の患者たちが語ってくれた驚きの戦争体験やちょっと下品なジョーク、つけっぱなしのテレビから流れる激動の世界、放送を心待ちにしたSFドラマ「ドクター・フー」。時に8人兄弟の中で病気の自分ばかりが注目を集めていることに罪悪感を感じ、院内学校に通う子どもたちの姿を見て車イスを渇望し、自分だけの特別な車イスを夢見る…。そんな日々が彼の類まれな想像力と創造力を育む。やがて車イスで院内学校に通えるようになった彼は、口で絵を描くことを習得。それは、その後の彼の人生を形作った。入院から1年後に念願の我が家に帰ったジェイソンは、上半身の機能を回復し、アーティストの道を歩んでいく。
胸が締め付けられる瞬間もありながら、大人も子どもも楽しめ・学べるエキシビションを、是非お見逃しなく。(写真・文/ネイサン弘子)




Jason Wilsher-Mills
Jason and the Adventure of 254
2025年1月12日(日)まで、無料Wellcome Collection
183 Euston Road, NW1 2BE
最寄駅:Euston
火~日:午前10時~午後6時
(木曜のみ午後8時まで)
https://wellcomecollection.org
週刊ジャーニー No.1341(2024年5月9日)掲載