
70年の歴史 マウストラップの魅力

『マウストラップ』(原題・The Mousetrap:日本では『ねずみとり』とも呼ばれる)は、1952年10月にノッティンガムで初演。同年11月25日にウェストエンドのアンバサダー劇場で公演がスタート、1974年3月25日から隣接するセント・マーティンズ劇場で上演されるようになった。2020年3月にコロナ禍で閉鎖を余儀なくされたが、およそ1年後に再開。上演回数は2万9000回を超え、現在もロングランは続いている。『マウストラップ』が誕生したのは、時の英国王ジョージ5世の妻メアリー王妃の80歳の誕生日を祝うため、クリスティが30分のラジオドラマを書き下ろしたことがきっかけ。1947年に『3匹の盲目のねずみ(原題・Three Blind Mice)』というタイトルでオンエアされた後に小説化され、1951年に改題・戯曲化されて『マウストラップ』が誕生した。当時の契約により、ウエストエンドで終演後半年経過しない限り、映画やTVドラマなどの映像化は不可となったため、現在クリスティ作品のなかで唯一舞台でしか見ることのできない作品になっている。キャストは定期的に交代し、リピーターの観客も多いという。
雪で閉じ込められた8人
舞台は第2次世界大戦直後の英南東部バークシャーに若夫婦がオープンしたばかりのゲストハウス「モンクスウェル・マナー」。雪のなか、宿泊客4人が次々に到着し、続いて車がスリップして立ち往生した外国人男性が急きょゲストハウスに現れ、さらにバークシャー警察の刑事がロンドンで起きた殺人事件とゲストハウスの繋がりを捜査するためにやってくる。やがて大雪のために道路が閉鎖され、電話も遮断されて完全に孤立状態になったホテルで殺人事件が起きる…。
リピーターも多い密室劇

密室で殺人事件が発生し、この場にいる誰かが殺人犯という、犯人探しを楽しむミステリー劇。いわゆる「フーダニット(whodunit)」と呼ばれる筋書き。8人の登場人物はそれぞれ訳ありだったり知られざる過去があったりで、誰もが犯人の可能性があるという、クリスティお得意の設定。さらにラストにはあっと驚く大どんでん返しが待っている。2部構成だが舞台転換はなく、物語はモンクスウェル・マナーの居間のみで展開していく。ナーサリーライム(童謡)の「3匹の盲目のねずみ」が事件の鍵をにぎっているところも注目だ。なお、毎回カーテンコールの際に真犯人の名前を絶対に明かさないように観客にお願いをするのが定例。これまで1000万人以上が観劇しているが、この緘口令(?)が徹底されているおかげで、犯人は誰なのか? という推理劇が70年経った今も楽しめるというわけだ。さて、あなたの推理は当たりましたか?
3匹の盲目のねずみ 3 Blind mice
明るい曲調の童謡だが、歌詞をよくよく見るとコワイ内容。歌詞が謎解きに関係するかどうかは…ここではノーコメント。
8人のうち、犯人は誰?

ゲストハウスの共同オーナー。モリーと1年前に結婚。

モンクウェルマナーを相続しゲストハウスをオープン。ジャイルズの妻。

宿泊客。落ち着きがない若い建築家。

ロンドンで起きた殺人事件捜査のため、ゲストハウスに来館。

宿泊客。元軍人で活動的な中年男性。

宿泊客。男性のような振る舞いの若い女性。出張中。

雪のため来訪した予約のない宿泊客。外国人風。

宿泊客。厳格で口うるさい年配の女性。
アガサ・クリスティ原作

世界的な人気を誇る英作家アガサ・クリスティは1890年9月15日誕生、1976年1月12日に85歳で没。長編66作、14冊の短編集を残し、「ミステリーの女王」と呼ばれる。代表作は『そして誰もいなくなった』『アクロイド殺し』『オリエント急行の殺人』など。
Information

St. Martin’s Theatre
West Street, London WC2H 9NZ
www.stmartinstheatre.co.uk
最寄駅: Leicester Square
チケット予約・詳細: マウストラップの公式サイトhttps://uk.the-mousetrap.co.ukでどうぞ。
週刊ジャーニー No.1296(2023年6月22日)掲載