
トラファルガー広場の四隅にある台座のうち、空座となっている北西側の台座には、1998年からほぼ2年おきに公募で選ばれた現代アーティストの作品が展示されている。去る9月28日、14代目となる作品がお披露目された。

そこには直立する2人の男性。ひとりは5メートルを越える大きさで、もうひとりはそれよりも小さく作られている。彼らの表情からは特別な感情を読み取ることができない。

作者はアフリカ南東部に位置するマラウイ出身で、現在はオックスフォードを拠点に活動し、オックスフォード大学の美術準教授でもあるサムソン・カンバル氏。同氏は母国マラウイの文化を創作活動の軸に据え、アート作品やフィルムなど様々なメディアで表現活動を続けている。

この彫刻のモデルは実在した人物で、大きな方はバプティスト伝道者のジョン・チレンブウェ、小さい方はヨーロッパ人宣教師のジョン・チョーリーだ。
チレンブウェは英保護領ニヤサランド(現マラウイ)で植民地支配に抵抗して武装蜂起し、のちに独立の英雄としてマラウイ紙幣の顔になっている人物だ。
本彫刻の制作の元である1914年に撮影された写真(下)は、チレンブウェが建てた新しい教会のオープン二ングで撮影されたもの。チョーリーと肩を並べ、何食わぬ顔で佇むチレンブウェだが、注目すべきはその服装だ。黒人は白人の前では帽子を被ってはいけないという植民地ルールを無視し、つば広の帽子を被っている。帽子に反骨精神を宿した英雄を大きく表現することによって、作者のカンバル氏はチレンブウェを昇華させ、アフリカやその他の地域における大英帝国の歴史に登場しない民族の隠れたストーリーに光を当てようとしている。

この写真が撮られた翌年、チレンブウェは反乱軍を率い英国側と戦ったがアフリカ人兵士に発見されてその場で射殺され、彼の教会も破壊された。無念の死から107年後、かつて母国を無慈悲に支配していた国の中心に、自分の銅像が建てられることになるなど、当のチレンブウェは想像だにしなかったに違いない。彼の銅像は2024年9月まで、かつてのように涼しい顔で帽子を被り、多様性溢れるロンドンの街を見つめている。(文/ネイサン弘子)
「ジョン・チレンブウェを知らない人は多いかもしれません。そこがこの作品のポイントなのです」
「チレンブウェは、この瞬間を待っていたかのように自らを第4の台座に選びました。彼は武装蜂起で死にましたが、最後は勝利を収めたのです」
―サムソン・カンバル
週刊ジャーニー No.1261(2022年10月13日)掲載







