
バービカン駅からミュージアム・オブ・ロンドンに向かって歩く途中、外壁一面にはクラッシュのポスターがずらりと並び、入口ではアルバム・ジャケットがどーんとお出迎え。早くも気分があがりまくる。

入場してすぐにポール・シムノンの破壊されたフェンダー・プレシジョンベースが目に飛び込んできた。1979年12月14日発売の『ロンドン・コーリング』といえば、そのアイコニックなジャケットが有名だが、これは1979年のUSツアー中、ニューヨークのパラディウムでのライブで、ポール・シムノンがベースギターを叩き壊したシーンをフォトグラファーのペニー・スミスが撮影したもの。ライブ中の激しい激情をとらえたイメージは、ロック史に残る名作アートワークになった。それが、この入り口に掲げられたベースギターである。
クラッシュ展は、常設ギャラリーの脇に間借りした感じで、展示スペースはあまり広くない。しかし、レコーディングの記録、ツアー写真、秘蔵映像、楽器やステージ衣装、メンバー手書きのメモなど、ほぼ未公開の私物150点以上が展示されており、見どころはたっぷりだ。
筆者の印象に残ったのは、今は亡きジョー・ストラマーの手書きの歌詞ノートとタイプライター。メンバーお手製によるステージ衣装やファンによる同人誌など、バンドが追求した“Do It Yourself”精神がそこかしこに感じられるのもいい。
また、クラッシュとロンドンとの関係にも注目したい。ロンドン在住だった彼らは市内各所でレコーディングやライブを行い、この街を歌った曲も数多く残した。西インド諸島系の移民が多い西ロンドンで暮らしていたこともあって、ジャマイカ音楽のレゲエやダブの要素を取り入れるなど、ロンドンという街が彼らに与えた影響は大きい。そして彼らの音楽スタイルやパンク精神は後世のバンドやアーティスト、若者たちに多大な影響を及ぼした。クラッシュが英社会や文化に与えた影響を探るという視点でも興味深いエキシビションだ。
クラッシュは活動中、可能な限り安い値段でファンにライブやレコードなどを提供していたという。この内容の濃いエキシビションが入場無料なのも、いかにもクラッシュらしいと思える。サッチャー政権下の英国で、反暴力、反人種差別、反ファシズム、反商業主義、反体制など、一貫として政治的・社会的メッセージを伝え続けた彼ら。そのメッセージを受け止めながら、クラッシュの世界にどっぷり浸っていただきたい。(写真・文/名取由恵)

The Clash: London Calling
Museum of London
150 London Wall, EC2Y 5HN
4月19日まで/入場無料
www.museumoflondon.org.uk
週刊ジャーニー No.1121(2020年1月23日)掲載