80年の眠りから目覚めた庶民の劇場、アレクサンドラ・パレス・シアター

「アリィ・パリィ」の愛称で親しまれる北ロンドンのランドマーク、アレクサンドラ・パレス内でひっそりと眠っていた劇場が、改装を終え再オープン。ヴィクトリア朝時代の雰囲気を存分に残して生まれ変わった、ユニークな劇場に早速足を運んできた。
アレクサンドラ・パレス
最大1300人収容可能な劇場。1920年代に劇場設計の専門家でなかった建築家によって改装された観客席は、舞台鑑賞に最適な目線にはなっておらず、「たんに端に舞台がある巨大な靴箱」のようであったというが、今回の再建工事で見事改善された。

南ロンドンにかつて存在した娯楽施設「クリスタル・パレス」に呼応するように、北ロンドンに住む労働者層のための教育と娯楽を目的として1873年に誕生したアレクサンドラ・パレス。このパレス内に1875年にオープンした劇場が、苦難を乗り越えて80年ぶりに再び日の目を見た。12月1日、2日の両日にオープニング・イベントが開催され、再オープンを心待ちにしていた多くの人でにぎわった。
アレクサンドラ・パレスとこの劇場が辿った苦難の道のりは、開業からわずか16日後に発生した火災からはじまる。大きなダメージを受けた庶民の宮殿は、2年後に当時ヨーロッパ最大であったパイプ・オルガンと劇場を新設し再スタート。ヴィクトリア朝時代のエンジニアリングを駆使した劇場は、舞台から突然役者が消える奈落や宙吊りの仕掛けで観客の度肝を抜いた。時代の流れとともにこの劇場は映画館、チャペルなど異なる用途で使われ、戦後再び劇場として利用されるも、ロンドンの演劇の中心地ウェストエンドの勢いに押され、徐々に人気にかげりを見せはじめる。

アレクサンドラ・パレス
改装後の劇場は、古い箇所を取り替えたり上塗りしたりするのでなく、できるだけオリジナル部分を残す設計となっている。壁には、漆喰が残る部分、漆喰がはがれてレンガがむき出しの部分、崩壊した装飾の補強を施した部分があり、一瞬、「これで工事は終わったの?」と思ってしまうが、インダストリアル・デザイン風の無骨な魅力にあふれている。

1935年、劇場を含むイースト・ウィングがBBC放送局に長期間貸し出されると、劇場はBBCの倉庫などとして使われるようになり、長い沈黙期間に突入する。BBCの退去後はオープン大学が使用していたが、1980年、アレクサンドラ・パレスで2度目の火災が発生。幸い劇場の損害は少なく済んだものの、被害の大きかった部分の再建が急務とされる中で見向きもされず、暗闇の中でゆっくりと朽ちていく運命に甘んじていたのだ。
パレスは2度にわたる火事から再建されたが、利用されていたのはイベント・ホール、カフェ、アイススケート・リンクだけで、全体のわずか40パーセントのみ。2016年、パレスの所有者であるハリンゲイ・カウンシルは劇場の再建を決定。限られた予算の中、多くの寄付がよせられ、ようやく今回の再オープンにこぎつけたのだ。
2日に開催された一般向けのこけら落としは、庶民の宮殿として親しまれてきた同地にふさわしく、地元ハリンゲイの小学生や若手ミュージシャンで構成されたオーケストラやコーラス・グループの無料公演。緊張した面持ちが微笑ましい少年少女や若者による演奏、歌を楽しませてもらった。
よみがえった舞台で繰り広げられる今後のステージに乞うご期待!(写真・文/ネイサン弘子)

Alexandra Palace

Alexandra Palace Way, N22 7AY

http://theatre.alexandrapalace.com

週刊ジャーニー No.1065(2018年12月13日)掲載