地下鉄駅に出現! 卵だらけのアート my name is lettie eggsyrub

■ ロンドン地下鉄をアートで彩る取り組み「Art on the Underground」の2018年の目玉として、グロスター・ロード駅に出現したアート。カラフルでポップなアートに込められたメッセージとは?
情緒溢れるレンガ造りの駅舎に、ホームに並ぶレトロな球体のライトがなんともロマンティックなグロスター・ロード駅。この駅のサークル&ディストリクト・ラインのプラットホームの向かいには、使用されていないホームが存在する。過去にもアート作品が展示された80メートルのこのホームの、壁一面に規則正しく並んだアルコーブ(アーチ型のくぼみ)に現れたのは卵だらけのアート。ロンドンを拠点にするアーティストで詩人の、ヘザー・フィリップソン(Heather Phillipson)氏によるもの。
彼女が地下空間に創り出した作品は、卵のオブジェやコミック風のパネル、液晶画面がいくつも組み合わされ、一見するととにかくポップ。それらは通勤客を笑顔にし、通勤中の忙しない心にちょっぴりゆとりを与えてくれているよう。だが、しばし足を止めてじっくりと眺めてみると、何やら楽しいだけでないメッセージがありそうなことに気付く。
ホームの端にある釘の刺さった巨大な卵には救命ベストがかけられ、もう一方の端にある巨大卵にはストローが刺さり、筆からは赤いインクが垂れる。シャワーヘッドからは小さな卵が飛び出し、鉄板の上には卵がでろりと広がる。液晶画面にはニワトリの足がつき、まるで遊び回っているかのような印象だが、画面には卵が組み込まれたテレビゲーム、宇宙に浮かぶ茹で卵、こちらに向かってくるかのように降り注ぐ卵子、孵化しかけのヒナの映像が映し出されている。そこには「I'm microbial(私は微生物)」「a gibbering omelette(ぺちゃくちゃオムレツ)」「a quivering splodge of protoplasm(原形質の小刻みに震える染み)」などの、翻訳し難い言葉が添えられている。
作品を改めてじっくりと見ていると、生命の象徴、生命の塊である卵と共に、人間に翻弄されながら旅をしているような気分になってきた。
人間と人間以外の動物との関わりを作品のテーマにすることが多いというフィリップソン氏は、かつて米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、自身の作品の鑑賞者に対し「まるで詩、風景、体、スイミング・プール、画面、サーチ・エンジン、音楽の中を歩いているように感じて欲しい」と答えている。
明るさの中に込められたメッセージを紐解く時間がなくとも、インパクト大の必見アート。地下鉄の乗車ついでに、是非グロスター・ロード駅まで足をお運びを。 (写真・文/ネイサン弘子)

my name is lettie eggsyrub
Circle and District Line Platform,
Gloucester Road station
2019年6月まで
https://art.tfl.gov.uk

ヘザー・フィリップソン氏の別作品「THE END」は、トラファルガー広場の第4の台座「Fourth Plinth」の2020年展示作品に選ばれている。© London.gov.uk

週刊ジャーニー No.1042(2018年7月5日)掲載