トラファルガー広場、第4の台座 ラマスの亡霊 Fourth Plinth

■ロンドン中心部のトラファルガー広場に設置されていた、親指が長く伸びた右手の立体作品「Really Good」。1年半の役目を終え、また新たなアート作品が登場した。
広場の四隅にある台座が建立されたのが1841年のこと。当初、北西に位置する第4の台座(fourth plinth)には、ウィリアム4世の騎馬像が設置される予定だったものの、資金不足により計画は中止。空席の台座をどうするか? 長い期間にわたり協議が重ねられた結果、およそ150年を経た1999年、台座に現代芸術作品を設置するプロジェクトが始まった。以降、1~2年おきに内容が入れ替わり、3月28日に12番目となる作品が姿を現した。
「The Invisible Enemy Should Not Exist」と題した立体作品は、古代アッシリアの人面有翼雄牛「ラマス(Lamassu)」像を再現したもの。イラクでは過激派組織「イスラム国(IS)」によって多くの古代遺跡が攻撃され、イラク北部の町モスル郊外のニネヴェで紀元前700年ごろに作られたこの神獣も、2015年にISによって破壊されていた。
作品を手がけたイラク系米国人の芸術家マイケル・ラコウィッツ氏(44、Michael Rakowitz)は、「この作品は、破壊された像の亡霊でもあり、復元することのできない人の命や安らぎの場所を探し続けている人の魂と言えるだろう」と、自身の最新作となる本作について語る。
イラクにおける文化財の破壊は過去にも起きている。2003年に米国主導によるイラク侵攻で、バグダッドが陥落した後の混乱のさなかに、国立博物館などに所蔵されていた収蔵品7000点以上が略奪された。同氏は2006年にそれらを再び蘇らせるプロジェクトをスタート。本作もこの一環となる。
『復活』したラマス像は、ナショナル・ギャラリーを背景にイラクの方面を見つめるようにして立っている。制作にあたり、現地住民の生活を象徴するデーツ(ナツメヤシ)シロップの空き缶1万500個が用いられたという。戦争やテロで命を落とした人や、困難な生活を強いられる人々の存在に改めて光を当てるラコウィッツ氏の意図が感じられる。今後2年間にわたり展示される予定。(文・写真/西村千秋)

写真左:デーツ・シロップ缶の外装で、作品がカラフルに彩られている。
同右:片側にはオリジナルの像に書かれていたくさび形文字の文章が記されている。

週刊ジャーニー No.1029(2018年4月5日)掲載