

初めてでも安心、快適
<難易度別>この夏は英国でキャンプ!
●サバイバー●取材・執筆・写真/名取 由恵・本誌編集部
「キャンプ」というと、何を思い出すだろうか。子供の頃の飯盒炊飯? それとも、河原でのバーベキューや川遊び、魚釣りといったアウトドアなアクティビティ?
筆者が初めて体験したキャンプは、25年前の英国での野外音楽フェスティバルだった。テントを設営したのも、寝袋で寝たのも初めて。電気もガスもお湯もなし、水ですら最低限しか使えない環境のなかで、日頃自分たちがどれほど恵まれた生活をしていたのか、そのありがたみが身に染みたのを覚えている。
そもそも、キャンプとは何か? キャンプとは自宅を離れ、テントやキャンピング・カーといった一時的なシェルターを使って過ごすこと。日本語では「野外で一時的に生活する」という意味の野営、露営、宿営などと呼ばれる。
はるか昔、人類の多くは狩猟採集をしながら移動生活や遊牧生活を送っていた。ローマ帝国はイタリア半島を離れ、遠い場所まで遠征して帝国の領地を広げていったが、遠征地では木の棒を立て、布や皮を張るテントを使っていたという。また、北米の原住民やモンゴルの遊牧民は、ティピーやユルトなど、移動式のテントで生活する習慣があった。このように、人間と野外生活の関係は深い。時を経るにつれ、次第に人間は定住型の生活を送るようになり、さらに近代化が進められると、多くの人々は都市部で暮らすようになった。
しかし、19世紀後半になると、野外生活から様々なことを学ぼうとする動きが世界的に起こる。1861年、米国コネティカット州で教育者のフレデリック・ウィリアム・ガンが子どもたちを集めて学校主催のキャンプを行ったことが、現代流キャンプの始まりとされる。日本でも明治期に西洋諸国の制度を取り入れるなかで、教育活動の一環としてキャンプが推奨されるようになった。
一方、英国ではどうだったか。英国の近代キャンプの父といわれるのが、トーマス・ハイラム・ホールディング(1844~ 1930年)だ。ホールディングは9歳のとき、両親とともに米国の平原を幌馬車で旅しており、大人になってからアイルランドで仲間とキャンプをしながらサイクリング旅行を敢行。その様子を綴った著書『Cycle and Camp in Connemara』を1908年に出版している。また1901年には、ホールディングを中心にして、英国初のキャンプ団体「Association of Cycle Campers」が結成された。同団体は、後に非営利団体「The Camping and Caravanning Club」(中級者向け:キャンピングカーで、快適に過ごす参照)に発展している。相次ぐ世界大戦により、キャンプは一時停滞したものの、戦後には再び人気が復活。イングランド観光局「Visit England」が2015年に行った調査によれば、同年上半期におよそ450万人の英国人が平均3・7泊のキャンプ・ホリデーを楽しんだという。これは前年の同時期と比較すると8%も増加しており、キャンプの人気が今もなお衰えていないことが明らかになっている。
さて、このように英国で根強い人気を誇るキャンプだが、その人気の秘密は何だろうか。
まずは、海外でホテルに宿泊する旅行と比べて、割安・手軽ということが挙げられるだろう。飛行機やホテルをあらかじめ予約する必要もなく、キャンプ場のスペースさえ空いていれば、すぐにでも出かけることができる。長期の休みが取れない場合は、週末だけ近所のキャンプ場でプチ・ホリデーを楽しむことも可能だ。
また近年、欧州ではテロ事件が相次いで発生しており、欧州方面の旅行を避けて、英国内に留まる人が増えているのも、理由のひとつだとされている。
しかしながら、キャンプ人気の一番の理由は、何よりもキャンプ自体の面白さではないだろうか。キャンプの魅力は、大自然のなかでゆっくりリラックスして過ごせること。清浄な空気や緑に囲まれた環境で身体を動かし、家族や友人と一緒に楽しく過ごしながら、非日常のなかで自分を見つめ直していく。何かとストレスの多い現代社会で、キャンプの良さが見直され、注目を集めているのは、自然のリズムと同調することにより、忘れていた何かを思い出し、本来持っている自分らしさを取り戻すことができるからなのかもしれない。
ぜひ今年の夏は、英国でキャンプを体験してみてはいかがだろうか。
キャンプの王道、テントで過ごす

一方、森のなかにぽつぽつとテントが点在するようなキャンプ場もある。わざわざ電気も水道もない不便な場所でキャンプし、夜空を眺めたり、野生の生き物や植物を観察したりして、文字通りのサバイバル生活を楽しめる。ここまで到達できたら、あなたも立派なキャンプ上級者!

キャンプ場の探し方
英国には3,000ヵ所を超えるキャンプ場があるといわれている。その膨大な数のなかから、どのキャンプ場を選べばよいのだろうか?1 英国のどこに行くか、大まかなエリアを検討する。
人気のある場所は、①天候が温暖な場所 ②海の近く ③自然に囲まれたところ。ロンドンからだと、イングランド南東部のサセックスやケント、南部のドーセットやハンプシャー、南西部のデヴォン、東部のサフォークやノーフォーク辺りが行きやすい。広大な自然が広がり、野生のポニーが生息する、ハンプシャーのニュー・フォレストやデヴォンのダートムーア周辺は人気スポット。思い切って、ウェールズやスコットランドのキャンプ場にチャレンジするのもいいだろう。2 インターネットで、キャンプ場を検索する。
おすすめ検索サイトは「www.ukcampsite.co.uk」。行きたいエリアを選択し、トイレ・シャワーなどの設備、子どもの遊び場の有無、大人用か、子ども・ペットもOKか、公共交通機関で行けるかといった必要条件を絞り込み、料金を考慮に入れながら、候補地を比較。他のキャンパーたちのレビューも参考にしよう。キャンプ場の多くは、ピッチのタイプ、利用者数、付属物の有無によって料金を設定。キャンプ初心者なら、最初は天候が比較的穏やかな地域で、設備が充実しているキャンプ場を選ぶのが無難だろう。価格は1人1泊20ポンド程度~が目安。
テントの選び方
テントはサイズ、定員数、耐水圧、重量を考慮して選ぼう。キャンプの目的によってテントの種類も変わる。例えば、公共交通機関を利用する場合やバックパッカーなら軽量テント。野外フェスティバルでは組み立てが必要ないポップアップ・テント。家族連れや1週間以上のキャンプなら、しっかりとした素材のテントが良い。また、初めてテントを建てる場合は、事前に自宅の庭などでテントの建て方と用具が揃っているかをチェックすること。アウトドア・ショップのサイトは「www.gooutdoors.co.uk」「www.cotswoldoutdoor.com」「www.blacks.co.uk」「www.millets.co.uk」など。
携帯必需品

● ハンマー(テントの設営用)
● 寝袋(封筒型〈square〉=写真右=とマミー型〈mummy〉=同右下=の2種類がある。英国の夜は夏でもかなり気温が下がることがあるので、耐久温度をしっかり確認すること)
● スリーピングマット/エアマットレス(ウレタン状のマット、もしくはポンプで空気を入れるエアマットレスを寝袋の下に敷く。これがないと背中に小石や枝が当たったり、地面からの冷気を直に感じたりして寒い)
● 懐中電灯/ランタン
● 雨具(傘よりもレインコートが便利)
● ゴミ袋
● ウェットティッシュ
キャンピング・カーで、快適に過ごす

キャンプ場は、キャンピング・カーが使用可能な場所を選ぼう。生活排水・トイレの処理場(waste water disposal point / chemical waste disposal point)があるところが便利だ。事前に、キャンピング・カーの使い方、給水や排水のシステム、カセットトイレやポータブルトイレの処理方法、ガスや電気の使用方法を確認しておく必要がある。

車の選び方
頻繁に出かける予定があるならキャンピング・カーを購入するのもよいが、年1回出かける程度なら、レンタルするのが現実的だろう。1 「camper van」と「caravan」のどちらのタイプにするかを決める。
車のなかで寝泊まりする人数によって、車のサイズが決まる。大型車になると、普通自動車免許だけでは運転できず 、運転のスキルも必要になるのでご注意を。とくに「caravan」タイプは、急カーブや後進の際の運転が難しいとされる。その反面、「caravan」は牽引する車と切り離して、トレイラー部分だけをキャンプ場に残しておくことができるので、周辺に出かける際は車だけで身軽に行動できる。2 ウェブサイトを利用しよう!
キャンピング・カー及びキャンプ関連の非営利団体「The Camping and Caravanning Club」のウェブサイトを利用しよう(www.campingandcaravanningclub.co.uk)。キャンプ場を運営するほか、キャンプに関する様々な情報・アドバイスを提供しており、キャンプ場の検索、キャンピング・カーのレンタルなどもできる。グランピングで、贅沢に過ごす

グランピングとは、グラマラス(glamorous)とキャンピング(camping)をかけた造語で、英国では2005年頃から登場したといわれる。キャンプ場にテントやキャンプ道具など必要なものがあらかじめ用意されているので、快適にラクにキャンプを楽しむことができる。ネイティヴ・アメリカンの移動式テントである「ティピー(Tipi)」=写真上、遊牧民が使う「ユルト(Yurt)」、木の板で造られた「ポッド(Pods)」などに、ベッドや暖房などの家具が設置されており、リネン・タオル類も用意されている。高級レストランの食事やホテル並みのサービスを提供し、ホットタブやスパ、ビューティサロンが併設されているところもある。グランピングの場所を検索するなら「Cool Camping」(https://coolcamping.com/campsites/glamping)のウェブサイトがおすすめ。


家族連れにおすすめ!センターパークで過ごす

なかでも家族連れにおすすめな場所が、「センターパーク(Center Parcs)」(www.centerparcs.co.uk)だ。オランダ生まれのホリデー施設で、英国内にはロンドン近郊のベッドフォードシャーのウォーバン・フォレスト、英南西部ウィルトシャーのロングリート・フォレストほか5ヵ所ある。どこも森に囲まれた自然たっぷりの環境。センターパークの良いところは、子ども用のアクティビティがたくさん用意されていること。巨大温水プールのほか、サイクリング、アーチェリー、テニス、ミニゴルフ、サッカー、幼児向けの工作教室、料理教室など盛り沢山! 子どもを預けることもできるので、大人だけでジムやスパに行ったり、カフェやレストランでゆっくり過ごしたりすることもできる。
仲の良い友達家族と一緒に出かけて、ロッジやアパートメントをシェアして割安に済ませるのもいいかも。費用は決して安いとは言えないが、家族全員たっぷり遊べるので充実度は高いだろう。
体験レポート
英国でのキャンプはここが楽しい!

F子さんの場合
キャンプ地:コーンウォール
キャンプ・スタイル:テント
人数:家族4人
日程:6月5日~9日
キャンプ歴:7年
コーンウォールは、何度行っても好きな場所です。残念ながら、天気は最悪の予報。英国でのキャンプで辛いのは、やっぱり雨。雨が多い国なので、降らないわけがない。普段は滞在期間の半分ぐらいの雨は覚悟しているのですが、キャンプ期間中、全部雨マークなのは、やっぱりガックリ。英国人の夫に「英国だから雨は当たり前!」とあきれられてしまいました。とりあえず、テントを建てるときと、片づけるときだけ、天気が何とかなっていることを祈るばかり…。

途中、晴れた日もありましたが、やっぱり予報どおり雨。雨が降るとテントのなかはすごい音になります。大雨だと耳栓がないと寝られません。キャンプ場で気になる音は、雨と人の話し声かな。あと、テントのなかはそれなりに快適なのですが、雨が降っているとトイレやシャワーのブロックに行くのが本当につらい。レインコートを着ても、雨風に打たれながら帰って来ると足は濡れるし、テントのなかも湿気でジトッとした感じ。だんだん不機嫌になる私ですが、息子たちは楽しそうにボードゲームをしていました。
「雨の多い英国でキャンプするのは嫌だ! ママはやっぱりホテルが好き!」と言ったら、夫と息子たちは「僕らは雨でもテントが好きだよ。濡れるのもキャンプの醍醐味のひとつ」という反応でした。
今回のキャンプで学んだことは、雨の日はできるだけ手を抜いて、レストランで食べるということ。雨風のなか、無理して料理するより、少しでもドライで暖かい場所でご飯を食べる方が幸せを感じられるから。
出発の日は雨が上がって、無事にテントをたたみ、荷造りして帰りました。たくさん文句も言いましたが、終わってみたら、良いホリデーになりました。ホリデーは何であれ、楽しい。雨であれ、嵐であれ…。その瞬間には、いつも楽しいことを発見できるような気がします。
Carlyon Bay Camping Park
www.carlyonbay.net
1泊2人分の基本料金:£15~38

T子さんの場合
キャンプ地:ドーセット
キャンプ・スタイル:キャンピング・カー
人数:家族3人
日程:8月3日~7日
キャンプ歴:3年


キャンプ場の裏手にあるウェアラム・フォレストを散策したり、プールの町で海水浴をしたり、ダードルドア(最初の写真)とラルワース・コヴまで出かけたり、キャンプ場を拠点にいろいろな所に行きました。
滞在中は、ほぼ毎日自炊でした。近所のスーパーまで出かけて買い出しをします。1日目の夜はバーベキューもしました。野外で炊事して食べる食事は、ことさら美味しく感じられます。キャンプ場のなかでは、子どもだけで夜遅くまで自由に遊びまわれるのがいいですね。子どもも大人も大満足のホリデーでした。
Wareham Forest Tourist Park
www.warehamforest.co.uk
1泊2人分の基本料金 :£15.30~43.30