◆◇◆ 軽やかにイメージチェンジ! ◆◇◆

 
グロスターシャー産の「Severn Cider」を試飲するチャールズ皇太子(右)とカミラ夫人 ©NACM

  サイダーに染み付いてしまっていたマイナスイメージは、あるメーカーによる広告戦略が功を奏し、一変する。2005~6年にかけ、アイルランド生まれの「マグナーズ Magners」は、パイントグラスに注がれたサイダーに氷を浮かべて飲むという、新鮮なスタイルを提案し、それが若い社会人世代や女性におしゃれなものとして写ったのだ。また地球温暖化により、冷たい飲み物が好まれる風潮が起こっていたことも、このブームを後押ししたようだ。
 パブでうすい琥珀色の飲み物に、氷が浮かんだグラスを傾け、会話を弾ませる人々の姿を頻繁に見かけるようになったのもこの頃。実際に試された方も少なくないのではなかろうか。猛暑も手伝い、06年のサイダー全体の売り上げは前年比30%以上も増加し、「マグナーズ効果/マグナーズ革命」とも言われた。
 サイダーのアルコール分は多くが4・5~7・5%なのに対し、ビールは4~5%程度なので、比較的強いアルコール飲料といえる。甘くて口当たりが良いため、ついつい飲みすぎて早々と酔ってしまいそうになるので注意が必要だが、りんごのさわやかな香りと口当たりが女性にも人気だ。また、ビールの泡がどうも苦手という方も、サイダーならそれも控えめでおすすめだ。
 大航海時代のように大きな責務を負っているわけではないが、我々の渇いた喉をすっきりと潤す清涼感のあるサイダー。ビール、ワインのような華やかな存在とはならなくても、これからもじっくりと愛され続ける国民的アルコールであってくれることを願いたい。 


 

 サイダーができるまで How is cider produced?

 

  夏の日差しをたっぷりと浴びたりんごの収穫は、毎年秋に行われる。収穫されたりんごはすり潰され、濾過された後、発酵が行われ、そして琥珀色のアルコールへと姿を変える。かつては家内制手工業で小規模に行われていたサイダー作りだが、現在は基本的な手順はそのままに、大型機械が人間の役目を担い、生産量も大幅にアップ。取材班はその過程を見学するため、ヘレフォードシャーのサイダーメーカー「Westons」を訪れた

 

 ① 収穫 Harvesting
りんごの収穫は、毎年9月下旬頃から12月初旬頃に行われる。サイダー用のりんごは繊維が多く、苦味が強いため食用には適さないが、サイダーになると味わい深いものとなる。収穫されたりんごは水洗いされ、土や葉などが取り除かれる。

 ② 圧搾 Milling and Pressing
りんごは丸ごと細かく刻まれ、「パルプpulp」と呼ばれる半液状化したドロドロの状態になる。パルプは圧搾機にかけられ、果汁のみが抽出される。写真の機械で、りんご1トンから175ガロンのりんご果汁(パイントグラス140万杯分!)が作られる。
 

 ③ アルコール発酵 Fermentation
  果汁は適温に保たれた木樽に移され、発酵が行われる。果汁に含まれる糖分が、天然酵母と混ざり合いアルコール発酵が進む。この際、炭酸ガスも発生し微発泡の液体になる。アルコール度数により発酵期間は3ヵ月~半年程。ここで1種のみのりんごからなる「ベースサイダー」が完成。
 

 ④ ブレンド Blending
  ベースサイダーを、銘柄別に異なるレシピに従い、数種類混ぜ合わせる。その後さらに培養酵母、液状砂糖、水、さらに炭酸ガスも加え、味を整えていく。この工程により様々な風味を持った、アルコール度数の異なるサイダーが生まれる。
 

 ⑤ 最終ろ過 Filtering
 透き通った琥珀色へと変わる最終段階。この時点では、発酵によって澱(おり)が生じているので、サイダーはまだ白くにごっている。それらをすべてこのマカロニのような機械にかけて、ろ過していく。
 

 ⑥ パッキング Packing

 写真は同社一押しの「Henry Westons Oak Aged」シリーズ。年月を経た木樽を使い最長で半年程熟成させた、味わい深いサイダーで、創始者の肖像画が目印。同社では現在、30種類以上のサイダー(ペリーも含む)を自社銘柄として発売中。
 


 

 英国流サイダーは
タンニンがポイント!
サイダー用りんごは、デザート用りんごと呼ばれる、そのままで食したり、菓子作りに用いられたりするりんごとは種類が異なる。サイダー用りんごは、デザート用に比べて小さく、繊維質が多い。また、タンニンが豊富に含まれるため苦味が強く食用には適さないが、サイダーにはこれが必須となる。数10種あるサイダー用りんごの中で、含まれる酸味とタンニンの割合の差から、大まかに4つの系統に分けられる。この中から2系統以上をブレンドして仕上げるのが、英国流サイダーだ。
SWEET 酸味もタンニンもともに弱い。4つの中で一番淡白な味のため、他の系統と混ぜることで、サイダーの味をまろやかに整える。
BITTERSWEET 酸味が弱く、タンニンが強い。ほのかに甘く、渋味と苦味がきいた英国サイダーを特徴づける系統。
SHARP  酸味が非常に強く、今ではサイダー用としてはほとんど栽培されていない。
BITTERSHARP  酸味もタンニンもともに強い。