まもなく訪れる、2015年9月9日。この日は、新たな記念すべき日として英国史に刻まれる可能性がきわめて高い。エリザベス2世が、在位期間でついにヴィクトリア女王の記録を破り、単独首位に立つであろう日だからだ。今号では、60年以上という在位期間を誇るふたりの女王についてお届けしたい。
●サバイバー●取材・執筆/ 本誌編集部
女性君主は繁栄のシンボル
英王室の歴史は、『征服王』ことウィリアム1世が戴冠した瞬間から始まった。1066年のことである。39歳で即位した同王は、1087年、奇しくも9月9日に60歳でこの世を去る。在位21年。イングランド各地に要塞を兼ねた城を建設し、戦いに明け暮れた生涯だった。
以来、928年。共同統治の場合は君主が2人いたとして数えるとエリザベス2世は42人目の君主となる。
この間、わずか9日間で廃位を強いられたのち、処刑された悲劇の女王、ジェーン・グレイのような人物や、リチャード3世の陰謀で落命したとの説が根強い、在位2ヵ月半のエドワード5世もいる。ちなみに、ジェーンが即位したのは15歳、エドワード5世にいたっては12歳の時。どちらも、有力貴族たちの権力闘争の道具として利用された結果、王冠を頭にのせられてからほどなくして短い一生を終える、むごい運命をたどった。
また、1422年に生後約9ヵ月で即位したヘンリー6世のような例もある。ただ、50歳で没した同王は40歳で廃位させられたため、在位期間は39年にとどまっている(途中、半年ほど復位)。
何歳で即位し、いつまで生き永らえられるか。
それぞれの君主が玉座についたあと、長く王冠をいただき続けることができるかどうかは、運次第だったとすると、在位期間の長い君主はやはり、相当の強運の持ち主といえる。1000年に近い英王室史上、在位40年以上でその強運ぶりを示した君主はわずか6人だ。
- ■ヘンリー3世(在位1216~72、計56年)
マグナカルタに署名した、『失地王』ジョンの長男であり9歳で即位、65歳で逝去。 - ■エドワード3世(在位1327~77、計50年)
ヘンリー3世の孫にあたる。15歳で即位、64歳で逝去。 - ■エリザベス1世(在位1558~1603、計44年)
ヘンリー8世の次女。25歳で即位、69歳で逝去。 - ■ジョージ3世(在位1760~1820、計59年)
ヴィクトリア女王の祖父。22歳で即位、81歳で逝去。 - ■ヴィクトリア女王(在位1837~1901、計63年)
現時点(2015年9月3日)では、最長在位記録保持者。18歳で即位、81歳で逝去。 - ■エリザベス2世(在位1952~現在に至る)
父君、ジョージ6世が56歳(在位期間は15年)で病没したのをうけ、25歳で即位、現在89歳。
この6人のうち、半数が女王である。女性で英君主の座についたのは8人にしか過ぎないことを考えると、割合の高さは際立っている。1588年に、その頃、世界最強といわれたスペインの無敵艦隊を破る快挙を達成したエリザベス1世以来、英国(古くはイングランド)は女性君主のもとで大いに繁栄するといわれるようになった。長期にわたる同一君主による統治下で、内乱もなく、政治が安定すると、国が栄える可能性は大いに高まると考えられるとはいえ、根拠のない思い込みではなさそうだ。
事実、ヴィクトリア女王の時代に英国は「日の沈まぬ」大英帝国となった。エリザベス2世の御世が、後世でどう評価されるかはまだまだ知りようがないが、在位60年を超えるだけに、肯定的にとらえられることはまず間違いない。しかし、ヴィクトリア女王が生きた時代とくらべると、世界情勢は激変。君主ひとりの力でできることはきわめて限られている。それを考慮しても、エリザベス2世の奮闘ぶりは特筆に価すると見るのは筆者だけではなかろう。