みなさんは、『迷信(superstitions)』を信じているだろうか?
子供の頃、親に聞かされたり、友達のあいだで話題になったりした迷信。知ってしまうと何となく怖くなって、不吉といわれることを避けていた人も少なくないのではなかろうか。日本で広く知られている迷信の例を挙げてみると……
「夜に口笛を吹くと蛇が出る」
「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」
「霊柩車を目撃したら、親指を隠さないと親が死ぬ」
「牛乳を飲むと背が伸びる」
「3人で写真に写った 場合、真ん中にいた人が一番早く死ぬ」
「雛祭りが過ぎた後も雛壇を片づけないでいると、晩婚になる」
「風邪は人にうつすと治る」
「北枕は縁起が悪い」
など、数え切れないほどある。
国語辞書では、迷信とは「俗信のうちで、合理的根拠のないもの。一般には社会生活上実害を及ぼし、道徳に反するような知識や信仰をいう」と書かれている。迷信なんてナンセンス! と思いつつ、何となく気になってしまう、無意識のうちに不吉なものを避けようとしてしまう。そう考えると、迷信は自分が思っている以上に日常に影響力を持つようだ。だが、果たして、迷信とは本当に根拠もないウソ偽りなのだろうか?
迷信の由来にはいろいろなものがあるが、大きく3つに分けられ、①古来からの噂話や俗信がもとに形成されたもの ②土着信仰や魔女信仰、宗教にもとづくもの ③子供へのしつけや礼儀作法を身につけさせるためのもの、と考えることができるという。
前述の「風邪は人にうつすと治る」などは①の代表例で、ここに科学的・医学的根拠は何もない。また「北枕は縁起が悪い」は②に当てはまり、釈迦が入滅する際に頭を北に向けていたからとされている(遺体安置の際に北枕にするのは、これが由来となっている)。さらに「夜に口笛を吹くと蛇が出る」は、③の子供のしつけに関連しており、夜に子供をおとなしくさせるための方便だろう。日本ではかつて人身売買が密かに行われていたとされ、取引をしていた売人が合図として口笛を使っていたため、子供への警告がこのような形の迷信になったという説もある。
こうして先述した迷信を振り返ってみると、日本の迷信には子供に礼儀や行儀を身につけさせるために生まれたものが少なくないように思われる。
●サバイバー●取材・執筆/名取 由恵・本誌編集部
【参考文献】『A Pocket Guide to Superstitions of the British Isles』Steve Roud, Penguin Books ほか。
生活の知恵の結晶
さて、英国にも日本同様、数多くの迷信があるが、英国人は迷信にどのような考えをもっているのだろうか。
英オンライン市場調査サイト「One Poll」が、成人2000人を対象に信仰について質問したところ、「神を信じている」と答えた人は半数以下であったのに対し、「迷信や超常現象を信じている」と回答した人は55%にものぼったという。つまり、英国人のなかでは、神様より迷信を信じる人の方が多いことになる。また、回答者のうちの3分の1は、「自分は迷信深い」と断言。英国人も迷信に日常的に影響を受けていることは間違いなさそうだ。
そういうわけで、今号では、英国の迷信のなかで代表的なものをまとめて紹介する。英国生活を送るなかでの知恵や古人からのアドバイスのひとつとして、英国文化を探求するうえでの手がかりとして、参考にしてもらえればと思う。しかしながら、迷信を知ってしまうと逆に気になってしまうので知りたくない、という方もおられるだろう。そんなあなたには、この言葉を送りたい。
「信じるか信じないかはあなた次第です」
これは、都市伝説を紹介する日本の某テレビ番組に登場するセリフなのだが、非常によくできた決め文句だと思う。つまり、自分が信じることは自分の人生のなかで意味を持つものになりうるが、信じなければただの作り話に過ぎないということ。占いと同じように、ポジティブな気分にさせてくれたり、生活のなかで役立ちそうだと感じさせたりするものは取り入れ、そのほかのものは「忘れる」というスタンスが一番かもしれない。
あまり神経質にならず、雑学や会話のネタとして楽しんでいただきたい。
ハシゴの下を歩くのは不吉
前頁で述べた「One Poll」による調査で、英国人が信じている迷信の1位に選ばれたのがコレ。上から物が落ちてくる危険性があるという安全上の理由から生まれたようだが、ハシゴが壁などに立てかけられている場合に構成される〈ハシゴ・壁・床〉のあいだの三角形のスペースが、キリスト教のホーリー・トリニティ(父なる神、イエス・キリスト、聖霊はひとつという三位一体説)を表すとされ、その三角の中を歩くことは神聖な場所を汚す行為になるため、という説もある。
ちなみに、万が一、ハシゴの下を通ってしまった場合に不幸を回避する方法は「ハシゴの段の間からつばを吐く」「指でクロスト・フィンガーズをつくる」「4つ足の動物を見るまでしゃべらない」など。「誰かと一緒に歩いているときは、その人がしゃべりだすまで待つと不幸はその人のところにいく」という恐ろしいものも!
木を触ると幸運を呼ぶ
何か良くないことが起こったときや、このまま幸運が続いてほしいと願うときには、「タッチ・ウッド!」と言いながら周りにある木に触ると、不運や不幸がなくなると信じられている。英国人が普段からよく使う表現で、直訳すると「木に触れ!」となるが、触るものは植物でも木製品でも木で出来ているものなら何でも可。迷信を信じていない人でも、自然に口からでることが多く、いってみれば縁起かつぎのようなものだろう。由来については、木に精霊が宿っていると信じていたドルイド教からという説、イエス・キリストがはりつけにされた十字架の木に由来する説、木に触った者は鬼につかまらないという子供の遊びから生まれた説など、諸説ある。
1ペニー硬貨を拾うと良いことが起こる
英国では、どういうわけか道に1ペニー硬貨が落ちていることが多い。その落ちている1ペニー硬貨を拾うと幸福が訪れるといわれる。エリザベス女王の肖像が上になっている状態で落ちている硬貨だと、さらに幸運を招くとされ、拾った硬貨は「ラッキーペニー」と呼ばれる。
室内で傘を開くと不幸を招く
日本では濡れた傘を家のなかでひろげて乾かすことは珍しくないが、英国ではコレはご法度。屋内で傘をさすのはおろか、室内で傘をひろげることも不運を招くと考えられている。かつては、家のなかで傘をさすと年内に家族の誰かが死ぬという、何とも深刻な内容だった。
一説によると、傘は日よけのために開発されたもので、室内で傘をひろげることは太陽神を侮辱することにあたるとされていたとか。しかし、傘が登場したのは19世紀なので、太陽神の信仰説には少々無理がある。屋内で傘をひろげると先端部が目に当たる危険があるという安全上の理由とする説が妥当だろう。
新しい靴をテーブルに置くのは不吉
外を歩いた泥だらけの靴をテーブルの上に置くことは誰もしないと思うが、新品の箱入りの靴もテーブルの上に置いてはいけないといわれる。かつては新しい靴は靴底にびょう釘が打ち付けられており、テーブルに置くとひっかき傷をつけてしまう恐れがあったためという説と、英北部の炭鉱の町では炭鉱事故で亡くなった作業員に敬意を示し、故人の靴をテーブルの上に置く習慣があったことから、死を避けるためにこの迷信が生まれたという説がある。いずれにせよ、飲み物や食べ物などを置くテーブルに外を歩く靴を置くのは、衛生上よろしくないのはもっともな話だ。
誕生日ケーキのキャンドルをいっぺんに吹き消すと願いが叶う
バースデー・パーティーの際、みんなでバースデー・ソングを歌い終わった後、「Make a wish!」といって、誕生日の主役がキャンドルを吹き消すのが英国流。願いごとを考えながらキャンドルの火をいっぺんに吹き消せるとその願いが叶うといわれる。しかし、年を取るごとにキャンドルの本数が増えて火をいっぺんに吹き消すのが難しくなるということは、中高年は願いが叶いにくくなるということだろうか…。
忌み数の13と13日の金曜日
数字の13は、欧米で最も忌避される忌み数だ。13にまつわる迷信にはさまざまなものがあり、食事やミーティングなどで13人が集まると、そのうちのひとりが1年以内に死ぬという恐ろしい話まである。そのため、家の番地やホテルの客室番号では13を避けたり、12aなどが使われたりすることも少なくない。
しかし、この「13は不吉な数」という迷信も歴史はさほど古くはなく、今のように確立されたのは18世紀頃といわれる。由来については諸説ある。16~17世紀の頃、魔女が集会を行 style="color: #990002"うときに13人が集まったためという説があるが、魔女の集会についての記録や証拠は乏しく、実際に何人が集まったかについてはほとんど言及がない。また、処刑前夜に行われたイエス・キリストの「最後の晩餐」に集まったのが13人で、13番目の席に着いたのが裏切り者のユダだったからという説もある。しかしながら、宗教改革以前のキリスト教関連の集まりではキリストの慣習を模倣することが望ましく、したがって集会も13人が参加するのが常だったとされている。宗教改革以降、プロテスタント系教会がそのような慣習は迷信とするようになり、数字の13はたちまちのうちに「善」から「悪」に転落してしまったのだ。ほかにも、北欧神話によるものとか、六十進法の基数である12より1つ多い素数の13は調和を乱す、など諸説ある。
忌み数の13と関連して、「13日の金曜日」は、英語圏の多くで不吉とされるものの代表格だ。「キリストは金曜日に処刑された」と考えられているため、中世の時代から金曜日はアンラッキーとみなされていたようだが、「キリストが磔刑に処されたのが13日の金曜日」という俗説は、事実ではない。実際に13と金曜日が結びついて「13日の金曜日は不吉」となったのは、ヴィクトリア朝以降といわれている。13日の金曜日の不吉なイメージを打ち出した映画や小説も数多く生まれ、なかでも映画『13日の金曜日』シリーズは大ヒットし、殺人鬼ジェイソンは一躍カルトヒーローになった。
ちなみにある調査では、英国人の4分の1が13日の金曜日出発の航空券などの購入を避けており、同日の航空券代は安価になる傾向があるとか。今年は3月と11月に13日の金曜日がある。
結婚式でコンフェッティや米を投げる
挙式を終えた花婿と花嫁が教会や式場から出るとき、参列者が馬蹄形やハート形などさまざまな形や色の紙ふぶき(英国ではコンフェッティと呼ぶ)、米を投げるのは、英国で古くから伝わる習慣。日本では「ペーパーシャワー」「ライスシャワー」などと呼ばれている。
1486年、ヘンリー7世にパン屋のおかみが幸運を祈って小麦を投げたという記録が残っており、その後、小麦が米になり、後に紙ふぶきになった。投げる物は異なれど、参列者が新しい夫婦の幸運を祈って何かを投げるという形式は同じ。小麦や米には、子宝に恵まれるようにとの意味もこめられている。
数字の666は不吉
聖書のなかに「666は獣(beast)の数」という表記があり、この獣の意味が悪魔とみなされることから、数字の666も数字の13同様に忌み嫌われている。6月6日午前6時に誕生し、頭に666のアザを持つ少年ダミアンが登場する映画『オーメン』で一気に666が有名になったのは、ご存じの通りだろう。
13のようには日常生活に登場することは滅多にないが、1993年に「HFR 666 S」という登録番号を持つ車を入手した男性が、妻を亡くし、泥棒に2回も入られ、車庫が火事になるという目にあったことから、その後、666の登録番号は使われなくなったというエピソードもある。
塩をこぼしたら、左肩越しに塩を投げる
塩の入った容器を倒したり、塩をこぼしたりすると、口論や喧嘩が起こる、または不幸を招くといわれる。さらに、こぼれた塩が誰かにかかるとその人に不運が訪れるという迷信もある。
もし塩をこぼしてしまったら、不幸を回避する方法として「右手で左肩越しにひとつまみの塩を後ろに投げる」あるいは「ひとつまみの塩を火に投げ込む」などがある。大昔から塩は浄化作用のある海から生まれた貴重なもので、塩を大切に取り扱うことが必要だったため、このような迷信が生まれたとみられる。
馬蹄は幸運のしるし
英国とアイルランドで幸運のしるしとして有名なのが馬蹄形だ。結婚式のコンフェッティやブローチ、ブレスレットなど、さまざまなシーンに登場する。かつては、玄関のドアに蹄鉄を釘で打つのが魔除けになると考えられ、今でもその習慣を続ける人もいるという。
その起源については、古代ケルト人が鉄を嫌う異界の住人の魔除けのために蹄鉄を使った、カンタベリー大司教となった鍛冶屋の聖ダンステンにより蹄鉄が悪魔除けになった、女性器を象徴する馬蹄が悪魔除けになり、やがて幸運のシンボルとなったなど、諸説ある。
クリスマスの飾りは1月6日に片づける
クリスマス(イエス・キリストの誕生日)から数えて12日目の夜にあたる1月5日の夜は「Twelfth Night(十二夜)」と呼ばれ、その翌日はキリストの誕生を知った東方の三博士が、12日間をかけてキリストのもとへたどり着き、拝謁した日として祝われる(公現祭)。その十二夜を過ぎてもクリスマス・ツリーなどを飾っているのは縁起が悪いとされ、英国では6日に片づけるのが決まりだ。
日本の雛祭りでも、3月3日が終わってすぐ人形を片づけないと「嫁入りが遅れる」といわれるが、その英国版といえる。
幸運を祈るクロスト・フィンガーズ
試験や面接の前、または困難が予想されるときに、英国人から「グッドラック」と言われ、指を重ねるジェスチャーをされた経験がある人は多いだろう。このジェスチャーがクロスト・フィンガーズで、文字通り、中指と人差し指を重ねてつくる幸運のしるし。国営の宝くじ「ナショナル・ロッタリー」のロゴマークがまさにコレ。また、言葉のみで「フィンガーズ・クロスト!」と言うだけの場合もある。指を交差する形が十字架のようにみえるため、神の加護(キリスト教)を祈るとの意味になるという。
動物たちをめぐる迷信
英国の迷信には、動物たちを取り上げたものも多い。まずは、黒ネコだ。日本では「黒ネコが目の前を横切ると不吉」といわれているが、英国では何とその逆で、黒ネコは幸運のしるし。お守りにも黒猫のモチーフが多く使われている。どうやら日本の黒猫=アンラッキーというのは、米国からもたらされたもののようだ。日米と英国では真逆の解釈になっているのが面白い。また、「黒ネコが窓のそばを横切るのは訪問者が来る前触れ」という迷信もある。
家に出るクモは「money spiders」「money spinners」と呼ばれ、お金の紡ぎ手、つまりお金を生み出す存在とされる。もし大きなクモが家に住みついたら、大いなる繁栄と幸せを手にする暗示なのだとか。また、イエス・キリストが追手から逃れるために洞窟に身を隠した際、クモが入口に大きなクモの巣を張り巡らせて匿ったことから、「守り手」ともいわれる。
黒いワタリガラス(ravens)は死や悪病を予知する不吉な鳥と考えられている。特に、病気の家人がいる場合は「黒カラスを見た数日後に誰かが死ぬ」といわれる。昔から黒カラスは死のイメージとして取り上げられており、シェークスピア作品のなかにも死を象徴する存在としてワタリガラスが登場する。その大きさ、黒一色のカラー、死肉を食べる習性、耳障りな鳴き声などが、死の象徴として語られる所以といえよう。
その一方で、ロンドン塔にはワタリガラスを飼育する習慣がある。これは、ロンドン大火後に増殖したワタリガラスの駆除を考えていたチャールズ2世が占い師に相談したところ、「カラスがいなくなるとロンドン塔が崩れ、英国が没落する」という予言がなされたため、ロンドン塔でワタリガラスを飼うようになったといわれる。
4つ葉のクローバーをみつけると幸せになる
4つ葉のクローバーを見つけると幸運が訪れるという迷信は世界的に有名だが、英国ではおよそ500年もの歴史がある。また、4つ葉のほかに2つ葉のクローバーも幸運のしるしで、恋占いにもよく使われる。4つ葉のクローバーは、邪悪なものや魔術から身を守るものであり、悪巧みを企むものや妖精の悪戯を見抜く力が得られるとされる。
ちなみに、アイルランドの国花であるシャムロックはクローバーの一種。これはアイルランドの聖人、聖パトリックがシャムロックの3つ葉を使ってホーリー・トリニティ(三位一体)の説明を試みたことに由来する。葉をそれぞれ「愛」「希望」「健康(または誠実・信仰)」になぞらえ、非常に珍しい4つ葉は「幸運」の印としたのだとか。
花婿が花嫁を抱えて新居に入ると幸せになる
結婚式を終えた2人が、新しい生活を始める新居の敷居をまたぐとき、花婿が花嫁をいわゆる「お姫様抱っこ」して家のなかに入る習慣のこと。映画やテレビのシーンでも登場するので、ご存じの方も多いだろう。これは、もともと古代ローマ時代の風習に起因し、「花嫁が敷居につまづいて転ぶと不幸になる」という言い伝えがあるため、わざわざ花婿が抱きかかえて敷居をまたぐのだとか。
ちなみに、結婚式を終えた花嫁が参列した女性たちに向かってウェディング・ブーケを投げる「ブーケ・トス」は、「ブーケを受け取った女性は次に結婚できる」または「幸せになれる」といわれるが、これは米国で始まった習慣。1950年代に英国に伝わった新しいものだという。
願い事を叶えながらウィッシュボーンを折ると願いが叶う
七面鳥(ターキー)の鎖骨(英語ではfurculaまたは wishboneと呼ばれる)を2人が願いごとを叶えながら引っ張り、骨が長く残ったほうの願いが叶うというもの。秋に祝われる米国の収穫感謝祭(サンクスギビング・デー、11月の第4木曜日)の習慣にもなっている。
別バージョンとして、「肉を食べているときに骨をみつけたら、願いごとを叶えながらその骨を折ると願うが叶う」というものもある。
歯の妖精
トゥース・フェアリー(Tooth Fairy)といえば、英国の子供たちならサンタクロース同様に誰もが知っている存在。乳歯が抜けた際にその歯を枕の下に入れておくと、歯の妖精がこっそりそれを取りに来て、お礼にコイン、もしくはプレゼントに替えてくれるというもの。子供たちはそれを楽しみに眠るので、突然歯が抜けたときに持ち合わせの小銭がないと、親は慌てることになる。
ちなみに、日本の習慣では「上の乳歯が抜けた場合は床下、下の乳歯の場合は屋根に向かって縁側や窓から投げる」となっている。
アブラカタブラは呪いの言葉
おそらく世界一有名な魔法の言葉が、この「アブラカタブラ」(英語ではAbracadabra)だろう。奇術師の呪文として使われることが多く、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズでも「死の呪い」として登場している。かつては「喧嘩や歯痛を回避するおまじない」として長い間信じられてきた時代もあり、羊皮紙に「アブラカタブラ」という呪文を逆三角形の形で繰り返し書き、各行で最後の文字を1つずつ外していき、最後は「a」で終わるようにするというものだった。
もともとの起源は不明だが、「私が言う通りになる」という意味のアラビア語という説、ヘブライ語が語源という説のほか、アブラカタブラは神を意味する秘密の言葉だとか、悪魔の名前だとか、さまざまな説がある。
将来を占うティンカー・テイラー
子供たちが果物の種やボタン、ビーズのネックレスなどを数えるときに歌う『数えうた』がティンカー・テイラー。英国の古い童謡(マザーグース)に登場する歌で、歌詞は『Tinker, tailor, soldier, sailor, rich man, poor man, beggar man, thief(鋳掛屋、仕立て屋、兵士、航海士、金持ち、貧者、乞食、泥棒)』。自分の未来や将来の結婚相手を占う意味もあり、数え終わったときに「poor man」で終わったとしたら、「将来自分は貧乏になる、もしくは貧乏な夫と結婚する」という意味。
鏡を割ると7年間不幸が続く
日本でも鏡が割れるのは不吉な前兆といわれるが、英国では「鏡を割ると不幸が7年間も(!)続く」ということになっている。鏡のほかにも、写真立てや額縁入りの肖像画が破損することも同様に不吉とされる。その起源は明らかではないが、鏡は所有者の姿を反映するものであるから、その人の魂を映すものでもあり、その鏡が割れることは、すなわち所有者を襲う不幸を示唆するからだと説明されている。ただし、鏡が割れても、鏡の所有者もしくは鏡を割った本人の死などを意味するのではなく、誰か他の人の可能性もあるという。
なお、万が一鏡が割れてもご心配なく。「破片を集めて、月光の下で土のなかに埋めると不幸が回避できる」という逃げ道がある。また、英国には誰かが亡くなったときに、家のなかの鏡や写真を布などで覆い隠すという風習もある。鏡をカバーしないと、死者の魂が鏡のなかに残ってしまうのだそうだ。
では、何故7年なのだろうか。古代ローマ人は「人は7年ごとに体と魂が再生」されると信じ、古代ギリシャの医学の父、ヒポクラテスは「人生は7年ごとに新しい段階を迎える」と考えていた。また、宗教革命を起こしたルターも「いつも7年目に人間は変化する」と語っていたという。このあたりに7年といわれる理由があるようだ。いずれにせよ、鏡の取り扱いにはよくよく気をつけたいもの。
週刊ジャーニー No.871(2015年3月5日)掲載