英国のシリコンバレー

さて、こうした国の威信をかけた大工事の末、無事にオリンピックの開閉幕を迎えたのであるが、再開発事業は現在も続けられている。そして4月5日、オリンピアンたちが熱き戦いを繰り広げたそのオリンピック・パークが、「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」と名称を改めて再オープンした。スタジアムのほか、会場となった4つの競技施設が残され、水泳競技で使われたスイミングプール「アクアティクス・センター Aquatics Centre」などは誰でも利用可能(有料)。また、パークでは様々なイベントやコンサートなども随時開催されているが、競技場以外の施設が大会後にどのように変貌しつつあるのか、いくつか見てみよう。
まず、選手村では新たな住宅地としての再開発が行われており、「イースト・ビレッジEast Village」と名付けられ、3300部屋あった選手用宿泊施設を改装して、2818戸の住宅が建設されている。さらに、2030年までに、オリンピック・パーク内に、計8000戸におよぶ5つの新しい住宅地が誕生する予定。最も早くオープンするのは、ニューアム区内の「チョバム・マナーChobham Manor」と呼ばれるコミュニティで、2015年に入居が可能になる。


開発工事によって整備された運河沿いには、アートギャラリーや
レストランも立ち並ぶようになり、カナル・ウォークも楽しめる。

 

教育関係施設については、ロンドン大学バークベック・カレッジ(Birkbeck College)の新キャンパスが、ウェストフィールド・ショッピングセンターのストラットフォード・シティ店に隣接してすでに完成、開校している。また、3歳から19歳までの学生のための公立校「チョバム・アカデミーChobham Academy」も昨年9月に開校。今後さらに医療センターも開設される予定という。他にも、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)が、近い将来、オリンピック・パーク内にキャンパス展開を検討しているほか、少々意外とも思えるが、ヴィクトリア&アルバート・ミュージアムが別館を建設することに意欲を持っていると言われている。
オリンピック会期中は報道関係者用に使われたプレスセンターは、テクノロジーやメディア産業の集積地としてロンドン有数のデジタル地区を目指す「アイ・シティiCITY」となり、2015年に生まれ変わる。9万平方メートルの敷地に、オフィスやデジタル・メディア関連のスタジオなどが並ぶことになるという。スポーツ専門放送局「BTスポーツ」は、すでにアイ・シティの敷地内に移転している。アイ・シティ内にはさらに、テクノロジー及びメディア業界での起業支援を目的とする施設や、計750席を備える会議センターが整備されるほか、ラフバラ大学(Loughborough University)が大学院生向け研究センターを設置。東ロンドンには、「テック・シティTech-City」と呼ばれるインターネットやテクノロジー関連産業の集積地区が存在するが、アイ・シティは、その最東端に位置することになる。
キャメロン首相は「ショーディッチが持つ創造性とエネルギーに、オリンピック・パークが備える計り知れない可能性を合わせることによって、 東ロンドンを世界有数の技術センターにしたい」と構想を述べており、「英国のシリコンバレー」を目指していることがわかる。

 


金融街シティの端からオールド・ストリート=写真=を挟んで
オリンピック・パークまでの地域一帯は、近年「テック・シティ」と呼ばれ、
グーグル社やフェイスブック社などがオフィスを構えている。

 

完成は2016年!
旧オリンピック・スタジアム

 



現在もリニューアル工事が続けられているスタジアム。観覧席上に設けられていた白い屋根と、特徴的な三角形の照明が取り外され、アスレチック・フィールドも撤去されている。右の写真は、写りこんでいる赤い鉄の棒からも予想できるように、オービットの展望台から撮影。
(写真左は © LOCOG)