壁に刻まれた名前
ジェーンの遺体は、ロンドン塔内にあるセント・ピーター・アド・ヴィンキュラ礼拝堂に運ばれ、ヘンリー8世の命で処刑された2人の王妃アン・ブーリンとキャサリン・ハワードの隣に埋葬された。ジェーンの父は娘が処刑された11日後の2月23日、タワーヒルで斬首される。母はメアリー1世の好意と友情のおかげで生き残り、ジェーンの妹キャサリンとともに、女王の女官として彼女に仕えた。
ジェーンの処刑後、メアリー1世は周囲の反対を押し切ってスペインのフェリペ皇太子と結婚し、「ブラッディ・メアリー(流血のメアリー)」と呼ばれるほどにプロテスタントに対して過酷な迫害を行った。しかし子供を授からないまま、即位から5年で病死。次いで25歳で即位したエリザベスが、イングランドに黄金時代をもたらすことはご存知の通りだ。
メアリーやエリザベスの母が婚姻無効でヘンリー8世と離別させられたからには、2人は確かに本来は王位継承権がない私生児であり、ジェーンの女王即位は必ずしも理屈に合わないわけではない。だが、緑豊かな田園風景に囲まれて育ち、人と争うことを嫌い、静謐を好んだというジェーンは、メアリーやエリザベスのように、困難なときに歯を食いしばって生き残る道を模索するような強さは、持ち合わせていなかったと思われる。とはいえ、まだ16歳という若さながら潔く運命を受け入れた姿は、多くの人々の心を打ったに違いない。
もしロンドン塔を訪れる機会があれば、「ビーチャムタワー」の小部屋の壁をご覧いただきたい。幽閉されていたダドリー家の兄弟たちが彫った家紋などが散らばる中に、「JANE」という名前を見つけることができるだろう。ギルフォードが刻んだものと伝えられているその弱々しい文字が、460年前に起きた事件の悲しい顛末を今に伝えている。
ギルフォードが彫ったと伝えられている、
ビーチャムタワーの壁に残る「IANE(JANE)」のグラフィティ(48番)。
ジェーンが眠る地ロンドン塔の主要ポイント
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愛に生きたジェーンの妹 キャサリン・グレイ |
姉ジェーンの処刑に際し離縁され、実家のグレイ家に戻った妹のキャサリンは、フェリペ皇太子と結婚して幸せの絶頂にいるメアリー1世に意外にも可愛がられ、女王の女官として不自由のない生活を送った。 |