1 / 7
動画へGo!
「なぜ彼女は女王にされ、そして処刑されたのか「9日間の女王」ジェーン・グレイの悲劇 エピソード1」
差し伸ばされた華奢な手
ロンドンのトラファルガー広場に面して建つ、ナショナル・ギャラリー。
世界有数の名画コレクションで知られる同館の1つ目の正面階段をのぼり、右手の扉を通り抜けると、18~20世紀初期の絵画が飾られているエリアにたどり着く。ゴッホの『ひまわり』やモネの『睡蓮』などが出迎えてくれる中、さらに足を進めていくと、最奥の「展示室41」で強い存在感を放つ大きな1枚の絵が目に飛び込んでくる。
『レディ・ジェーン・グレイの処刑The Execution of Lady Jane Grey』(上掲)
描かれているのは、純白のドレスに身を包み目隠しをされた乙女が、白く華奢な手を伸ばし、これから己の首を切り落とすために使われる断頭台を探している姿。波打つ豊かな髪は滝のように肩へと流され、斬首しやすいようにドレスの襟元は大きく開けられている。壮年の男性が女性の身体にそっと手を添えて断頭台へと導こうとしており、取り乱した侍女たちは柱にすがって泣き崩れたり、気を失ったりしている。じっと見続けていると、やがて震える手で断頭台を探し当てた彼女がゆっくりと首を台にのせ、最期の祈りの言葉を唱える静かな声、そして処刑執行人によって勢いよく振り下ろされる斧の風を切る音までもが聞こえてきそうだ。
由緒正しき血筋に生を受け、敬虔な信仰心と気品を備え、「イングランド一の才女」との呼び声も高かったとされるジェーン。まだ少女といえる年齢であった彼女に、「反逆」など大それたことが、本当にできたのだろうか?
ブラッドゲート・パークに建つ、ジェーンの生家ブラッドゲート・ハウス跡。
© Bradgate Park Trust 。