若き酒造メーカーが担う、ジン復興

 ところが、1960年代に入ると、同じく蒸留酒であるウォッカの陰にひっそりと身を潜めてしまう。マティーニを作る際、ジンに代えてウォッカが使用され、ジン&トニックよりもウォッカ&トニックが好まれるなど、ジンは過去の名残として受け止められる不遇な時代を経験する。
しかし1987年、ヴィクトリア女王の肖像画と上品なブルーのボトルでおなじみのジン「ボンベイ・サファイア」の発売を皮切りに、再び人気を盛り返す。世界各地に出荷するような大量生産のジンから、小さな蒸留器で限定生産するブランドまで、昨今、さまざまなジン・ブランドが台頭している。
先にも述べたように、ジンの香りづけの主体はジュニパー・ベリーだが、この他、カルダモン、コリアンダー・シード、柑橘系果物などを加えて造られる。メーカー各社が独自の、そしてほとんどの場合、秘密のレシピで蒸留していることから、当然仕上がりも異なる。伝統のレシピを守りながら造られるものや、これまでは使われなかった素材を積極的に取り入れ、最高のジンを造ることに心血を注ぐ酒造家らの情熱によって完成する新生のジンなど、それぞれが芸術作品とでも言いたくなるほどのレベルを呈している。そして、造り手の熱意に呼応するかのように、ジンの研究にいそしみ、斬新なカクテル作りに腐心するバーテンダーの姿が見受けられる。それが現在のジンを取り巻く好環境といえるだろう。
復興期を迎えた今、人々が築いてきたジンの歴史とともにその香りと味を心ゆくまで楽しんでみてはいかがだろうか。

 

ジン選びの参考に…主な銘柄をご紹介

現在、多くの酒造メーカーがドライ・ジンを販売し、スーパーや酒販売店には銘柄がずらりと並ぶ。ここでは、「老舗」「ロンドン拠点」「ユニーク」などを基準に編集部が独断で選んだ銘柄をご紹介する。

ロンドンの老舗 Beefeater

1820年創業。ロンドン市内に蒸留所を持つ唯一の老舗。長年親しまれる「Beefeater」のほか、2009年からプレミアムとして「Beefeater 24」を発売。使用される計12種類の草根木皮には煎茶が含まれる。

 

王室御用達 Gordon's

1769年創業。歴代の王室メンバーからロイヤル・ワラントを授与される老舗。英国人に最もなじみある銘柄のひとつ「Gordon's Dry Gin」のレシピを知るのは、世界でわずか12名とされる。現在約140ヵ国で飲まれる。

ジン復興の火付け役
Bombay Sapphire

1987年発売。西アフリカ原産のgrains of paradise(ショウガ科の一種)やインドネシア原産のcubeb berry(コショウ科の植物)など、これまで使われなかった素材を使い、ジン新世紀の幕を開いたジン。

 

キュウリとバラ!?
Hendrick's Gin

1999年発売。スコットランドで造られ、使用される計11種類の草根木皮には、キュウリのエキスやバラの花びらが含まれる珍しいジン。ジン&トニックとして飲む場合、キュウリが添えられることが多く、美味。

ハックニー生まれ Butler's Gin

2013年発売。ヴィクトリア朝時代のレシピからヒントを得て、小規模蒸留器で職人の手により造られるジン。レモングラスとカルダモンの香りが特徴。ジンを楽しむためのイベントも不定期で開催されている。

 

口当たり柔らか Martin Miller

1999年発売。元骨董商のマーティン・ミラーと友人が始めた、アイルランドの蒸留所で造られるドライ・ジン。水にまでこだわって造られ、ほかのドライ・ジンに比べ、柔らかい口当たりを特徴とする。

新興ながらファン多し
Sipsmith Distillery

2009年創業。数年で飛躍的に成長し、現在、ドライ・ジンのほか、スロー・ジン、ウォッカなども製造中。看板商品のドライ・ジンは「トニックで薄めるのがもったいないほどの美味しさ」との評判も聞かれる。詳しくは10ページへ。

 

蒸留所はバーの中
City of London Distillery

2012年創業。かつては数多くのジン蒸留所が立ち並んだシティにある同名のバーに蒸留器を構え、製造される。蒸留所ツアーのほか、自分独自の調合でジンの香りづけができるサービスなどが行われている。

正真正銘ホームメイド
Sacred Spirits

2009年創業。創業者がハイゲートの自宅で蒸留を始め、今も自宅で生産されるというジン。『ホームメイド』ながら、国外からの評価も高い。定番の「Sacred Gin」のほか、「Pink Grapefruit Gin」「Cardamom Gin」などの変り種も好評。

 

ジンとウィスキー
The London Distillery Company

2011年創業。バタシーを拠点とする蒸留所。18世紀の酒造家ラルフ・ドッドにちなむ 「Dodd's Gin」を造る。ロンドンの蒸留所として唯一、ウィスキーも製造する(完成は2015年)。蒸留所ツアーも有。