さて、時代はカクテル黄金期に突入していく。
第一次世界大戦を終えた頃、英国では、上流階級を中心に、夕食前にカクテルを楽しむ文化が花開き、社交の場をいっそう華やかに演出した。
その頃、遠く米国にも進出していたジンは、新しい飲み物を積極的に楽しむ国民性と、その味を追求するバーテンダーの活躍により、カクテルのベースとして注目を集めていた。同国では1920年に禁酒法が施行されるが、それによって人々の酒への関心が失われることはなく、それどころか、飲酒への欲求をさらに高めることになる。蒸留酒を密造しては、新たなカクテル作りに精を出すのだった。富裕層の多くは、華麗な社交界への進出を目指して来英したほか、禁酒法で職を失ったバーテンダーたちが英国やヨーロッパに押し寄せ、カクテル文化を担う存在となる。「シャネル」をはじめとしたオートクチュール・ブランドが、夕食前のパーティーのための「カクテル・ドレス」を作ったことからもわかるように、カクテルは一大ブームを巻き起こした。
オールド・トムとドライ・ジンは共に親しまれてきたが、すっきりした味わいのドライ・ジンのほうがカクテルによく合うことや、米国で人気の「マティーニ」がドライな味で飲まれるようになったことから、ドライ・ジンは欠かせないものとしてその地位を高めていった。米作家アーネスト・へミングウェイが好んで飲んだカクテルのひとつがマティーニで、「マティーニを飲むことは男であることの証明」と考えていたという。このようなエピソードは数多く存在し、マティーニは数々の著名人に愛された。ドライ・ジンの名声がそのたびにあがったことは言うまでもない。こうして、「堕落の酒」とされた時代の面影は消えていく。
1925年には、老舗ジン・メーカーの「ゴードンズ」が英国王ジョージ5世からロイヤル・ワラント(王室御用達)という栄誉を得ると、その後、ジョージ6世、クイーン・マザー、現女王エリザベス2世からも同様にワラントを授与された。名実ともに、ジンは一流の酒へと進化を遂げたのだった。
ジンを語るとき、「オランダで生まれ、英国で洗練され、米国が栄誉を与えた」と言われることがある。それぞれの国、時代で人々の生活に浸透し、育てられる中で、現在の名誉を勝ち得たといえるが、それと同時にジンと英国のつながりは切っても切れないものとなったのだ。

 

インド生まれのジン&トニック
きっかけは、マラリア予防

ジン&トニックは、19世紀半ば、英国の植民地だったインドに由来する。支配を進めていく中で、インドに蔓延していたマラリアに頭を抱えていた英国人将校は、特効薬としてキナの樹皮からとれる「キニーネ」を利用していた。しかしこれは苦味が強いことから、将校らは、キニーネと砂糖を混ぜ、水で薄めて飲んでいたという(これがのちにトニック・ウォーターとなる)。そこに当時の人気者、ジンを加えたところ、絶妙のコンビネーションが見出され、時代を超えて愛され続ける「ジン&トニック」の誕生となったのだ。ちなみに、日本では「ジン・トニック」と呼ばれるが、英語では「ジン・アンド・トニック」が正しいいので、バーなどで注文する際はご留意を。

もっと美味しくなるポイント!

単純なレシピのカクテルだが、少しだけ気を配れば、さらに美味しく味わえる。11ページで紹介した、「Gin Journey」主催のリオン・ダロウェイ氏=写真右=が美味しく作るポイントを伝授!

ポイント1 グラス
ハイボール・グラス(タンブラー)と呼ばれる細長いグラスで作られることが多いが、お勧めは、口の広い、ワイングラス。飲む際にグラスの柄を持つことで、冷たさを維持でき、広い口はシトラスの香りをより感じさせてくれる。

ポイント2
わざわざ氷を購入する必要はない。アイスクリームなどのカップを用意し、沸かしたお湯を注ぐ。それを冷やし、凍ったらアイスピックで割って使う。ラベンダーをはじめとする、花などを添えて氷を作ると、仕上がりの美しさに一役買う。

ポイント3 ガーニッシュ(飾り)
ジンの味をごまかすためにライムを大量に搾った時代もあったが、現在は、カクテルを楽しむために香りの良いものを添える。夏場に飲む場合はオレンジやレモンの皮、薬草系の香りのジンにはミントを置くのも一案。

ポイント4 トニック・ウォーター
ジンが目覚しく復興を遂げる一方、トニック・ウォーターもリバイバル中。近年は香り豊かなものも登場している。たとえば、「Peter Spanton」社からはカルダモンの香り(No.3)、レモングラスの香り(No.5)といったトニック・ウォーターを発売中。「Fever Tree」社からもトニック・リバイバルを先導する商品群が発売されているので、要チェック。

ポイント5 ジン
イングランドのみならずスコットランド、オランダ、ドイツ、スペインなどでもジンが生産されている。新しいものをどんどん試して、自分好みの銘柄を発掘しよう。