2014年2月6日 No.816

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

 

退廃の酒から王室御用達へ
ジン新世紀

ウォッカやラム、テキーラと並び、カクテルのベースとして人気を博す
蒸留酒「ドライ・ジン」(以下、ジン)。
近年、ロンドン市内では小規模生産する新興酒造メーカーが勢いを増し、
ジン『復興』の印として注目を集めている。
今号では、王室御用達の栄に浴し、
気品ある姿で世界各国のバーに並ぶにいたった
「ジン」について特集したい。

参考文献:『Gin: The Much Lamented Death of Madam Geneva』 Patrick Dillon著、
『London Gin: The Gin Craze』 Thea Bennett著、『Gin: A Global History』 Lesley Jacobs Solmonson著ほか

JFC
Centre People
ロンドン東京プロパティ
Dr Ito Clinic
早稲田アカデミー
サカイ引越センター
JOBAロンドン校
Koyanagi

ホガースが描いた「ジン・レーン」

 さわやかな植物系の香りとすっきりとした味わいから、数々のカクテルに用いられているジン。小麦や大麦、ジャガイモなどの穀物を原料に蒸留され、ジュニパー・ベリー(杜松の実)を主体に、各種の草根木皮で香りづけされ誕生する酒である。「ジン&トニック」「マティーニ」「ギムレット」など、不朽の名作とされるカクテルに欠くことはできず、好んで飲む読者も多いのではないだろうか。
特徴のある洗練された香りと切れのある味わいは、飲む者を魅了し、エリザベス女王が昼食前にジンとデュボネ(ワイン・ベースの食前酒)のカクテルをたしなむことや、元首相のウィンストン・チャーチルが愛飲したことが知られている。映画や小説などに登場すれば、物語に花を添える役割で存在感を発揮。ジンの虜となった多くの酒造メーカーらが出来を競い、バーでは、常に数種が肩を並べている。数種どころか、100を超える銘柄をそろえる店もあり、たとえば、ソーホーにあるバー「Graphic」では180以上を常備し、国内最大級の品ぞろえを誇っている。
しかし現在のこうした人気の裏で、不名誉にも「母を堕落させる酒(Mothers Ruin)」との汚名を着せられた時代もある。まずは、右下の絵を見ていただきたい。これは1751年に画家のウィリアム・ホガースによって描かれた風刺画「Gin Lane」である。赤ん坊を腕から落としそうな半裸の女性、骨をしゃぶる男性、首を吊る人など、生気を失った市民の姿と退廃した街の様子が見てとれる。18世紀前半のロンドンでは、ジン中毒者が激増し、街角には、この絵さながらの光景が広がっていたという。
贅沢な雰囲気が漂うバーに腰を落ち着け、しっとりとマティーニを飲みながら…というのでは想像もできないジンの過去。一体、どのようにして現在の名誉を勝ち取ることができたのか。ジンのたどってきた歩みを見てみよう。



ホガース作「ジン・レーン」。ジン規制のためのプロパガンダとして描かれたとされるが、
ジンがどのように見られていたかが表されている。
これと対比し、ビールをテーマにした「ビア・ストリート」と題する絵もある。
そちらは陽気に暮らす人々と活気ある街の様子が描かれている。

JEMCA
Kyo Service
J Moriyama
ジャパンサービス
らいすワインショップ
Atelier Theory
奈美デンタルクリニック
Toptour

ドライのほかにもジン、いろいろ
今回の特集では「ドライ・ジン」を中心に話を進めるが、他にも数種類のジンが存在する。砂糖を加えて甘く仕上げられた「オールド・トム・ジン」、穀物を蒸留したものにスローベリーを浸して造られる「スロー・ジン」(リキュール)=写真左、ダッチ・ジンの名でも知られるオランダの「ジェネヴァ」=同右=など。ドライ・ジンは、ジェネヴァを起源とするが、ジェネヴァはウィスキーのような重厚な香りを放ち、味わいもドライ・ジンとは大きく異なる。また、ドライ・ジンの中でも、「ロンドン・ドライ・ジン」と称されるジンがある。これは、生産地を示すものではなく、決められた製法に基づいて造られるならば、ロンドン外で造られてもロンドンの名を冠することができる取り決めで、ひとつのスタイルを指す。