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ホガースが描いた「ジン・レーン」
さわやかな植物系の香りとすっきりとした味わいから、数々のカクテルに用いられているジン。小麦や大麦、ジャガイモなどの穀物を原料に蒸留され、ジュニパー・ベリー(杜松の実)を主体に、各種の草根木皮で香りづけされ誕生する酒である。「ジン&トニック」「マティーニ」「ギムレット」など、不朽の名作とされるカクテルに欠くことはできず、好んで飲む読者も多いのではないだろうか。
特徴のある洗練された香りと切れのある味わいは、飲む者を魅了し、エリザベス女王が昼食前にジンとデュボネ(ワイン・ベースの食前酒)のカクテルをたしなむことや、元首相のウィンストン・チャーチルが愛飲したことが知られている。映画や小説などに登場すれば、物語に花を添える役割で存在感を発揮。ジンの虜となった多くの酒造メーカーらが出来を競い、バーでは、常に数種が肩を並べている。数種どころか、100を超える銘柄をそろえる店もあり、たとえば、ソーホーにあるバー「Graphic」では180以上を常備し、国内最大級の品ぞろえを誇っている。
しかし現在のこうした人気の裏で、不名誉にも「母を堕落させる酒(Mothers Ruin)」との汚名を着せられた時代もある。まずは、右下の絵を見ていただきたい。これは1751年に画家のウィリアム・ホガースによって描かれた風刺画「Gin Lane」である。赤ん坊を腕から落としそうな半裸の女性、骨をしゃぶる男性、首を吊る人など、生気を失った市民の姿と退廃した街の様子が見てとれる。18世紀前半のロンドンでは、ジン中毒者が激増し、街角には、この絵さながらの光景が広がっていたという。
贅沢な雰囲気が漂うバーに腰を落ち着け、しっとりとマティーニを飲みながら…というのでは想像もできないジンの過去。一体、どのようにして現在の名誉を勝ち取ることができたのか。ジンのたどってきた歩みを見てみよう。
ホガース作「ジン・レーン」。ジン規制のためのプロパガンダとして描かれたとされるが、
ジンがどのように見られていたかが表されている。
これと対比し、ビールをテーマにした「ビア・ストリート」と題する絵もある。
そちらは陽気に暮らす人々と活気ある街の様子が描かれている。
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