ロンドンにもある!?
エレクティオン神殿の女性列柱

  パルテノン神殿の北側にあるエレクティオン神殿=写真左下=には、女神アテナが育てたアテネの始祖エリクトニオスが祭られている。この神殿の特徴は、6体の女性像の柱を備える、南側のバルコニー「乙女の玄関」。エルギン調査団は、このバルコニーをまるごと英国へ運びたいと試みるが断念。せめて乙女柱だけでも持ち帰ろうと、1803年、1体を切断した。その1体も大英博物館に所蔵されている=同上。現在はすべてレプリカが据えられており、残りの5体の実物はアテネの新アクロポリス美術館で見られる。
余談だが、ヴィクトリア朝時代の建築家インウッド親子が手がけた、ロンドン・ユーストン駅の近くにあるセント・パンクラス教会 (1819~22年建造)に、この「乙女の玄関」が復元されている=同右下。

 

 

大英博物館 パルテノン・ギャラリーの歩き方

大英博物館の地上階、ロゼッタストーンが展示されている古代エジプト文明のエリアを通り抜けると、古代ギリシャ・ローマ時代のエリアに突入する。その最奥にあるのがパルテノン・ギャラリーだ。パルテノン神殿の彫刻は、(1)地上の世界(2)神話の世界(3)神々の世界と3つの世界を描き出しており、各世界にあわせて彫刻のスタイルも大きく3種類にわけられている。

展示室18

東ペディメント彫刻
神殿彫刻の花形といえるペディメント(切り妻型屋根の破風彫刻)は浮き彫りではなく、一体ずつ独立した完全な丸彫り彫刻。パルテノン神殿の場合、東と西に飾られており「神々の世界」が描かれている。東には女神アテナの誕生の物語が表され(下図の赤色で示されているのが写真の彫刻)、女神たちの衣装の流麗なドレープを通じて伝わってくる肉体の優美さには、思わず感嘆のため息が出る。ちなみに、神殿の正面は西側であり、しばしば写真撮影が行われる角度から見えるのは、この東側である。



メトープ
立体感のある高浮き彫り(ハイ・レリーフ)が特徴で、図柄は一面ずつ独立している。「神話の世界」における戦いがテーマとなっており、 神々と巨人族や半人半馬のケンタウロスらとの戦いの場面が描かれている。一面の大きさは約1.2メートル四方、全部で92面はめ込まれていた。 写真はケンタウロス(左)とラピテス族の戦いの様子。ケンタウロスがラピテス族の英雄の花嫁をさらったことにより、大乱闘が起きた。

フリーズ
浅浮き彫りの彫刻(ロー・レリーフ)で、メトープとは異なり連作となっている。アテネで4年に1度開催される女神アテナに捧げる大祭の行列をテーマとした「地上の世界」が表現されている。全長160メートルの連作には、人物358人、神像24体、馬210頭、そのほかに生贄として捧げら れる牛や羊などが彫り出されていた。写真は騎馬行列の様子。

西ペディメント彫刻
女神アテナと海神ポセイドンのアテネをめぐる主権争いの様子が描かれた西ペディメント。ポセイドンは人々に泉を贈り、アテナはその泉のほとりにオリーブの木を生やした。その結果、アテネの人々はアテナを守護神に選んだという。現存している彫刻が少ないのでわかりにくいが、2神は中央で対峙し、反らせたお互いの身体を中心に対称を成している。

よくわかる! パルテノン神殿の彫刻って?
下の図は、パルテノン神殿建設当時の様子を再現したもの。最高の技術を用いた立体彫刻が飾られたのが、神殿建築において最も重要な「ペディメント」。次に重んじられたのが、神殿の外周にたち並ぶ列柱の上部にはめ込まれていた浮き彫り彫刻「メトープ」。そして一番内側、アテナ像が祭られていた神室の外壁上部を取り囲んでいたのが「フリーズ」である。

展示室19

エレクティオン神殿 女性柱と円柱
パルテノン神殿と同様にアクロポリスの丘に建つ、エレクティオン神殿。同神殿の特徴である「乙女の玄関」に据えられていた6体の女性柱のうち1体が、調査団によって取り外され、館内で公開されている。女性柱の向かいには、同神殿内で使われていた円柱も展示されている(コラム参照)