お葬式が終わったら… 埋葬について
日本では、土葬・火葬にかかわらず、墓所を定めて葬るのが一般的だが、英国ではさまざな選択肢が存在する。生前に自分で決めておくか、さもなくば、遺族が決断をくだすことになる。ここでは、英国の埋葬方法に焦点をあててみよう。

選択項目 その1 土葬か、火葬か、それ以外か

英国では様々な宗教の信徒・民族が共生している関係で、土葬も行われている。火葬を禁じる宗教として、ギリシャ正教、ユダヤ正教、イスラム教、ゾロアスター教などがあり、およそ三割は土葬とされている。ただし、土葬の方が費用は割高で、手続きも面倒になる。
また、土葬や火葬のほかにも、さまざまな埋葬方法があり、最新テクノロジーを利用したユニークで環境にやさしい埋葬方法も開発されている。いくつか、その例を挙げておく。


●水葬(burial at sea)

遺体を海に流して沈める方法。船乗りや海軍関係者の間で人気があるが、誰でも選択できる。潮の流れや漁場などの関係で、英国では英南東部イーストサセックスのニューへイヴンとワイト島のニードルズ・スポイルド・グラウンドの主に2ヵ所で水葬が許可されている。

●リソメーション(resomation / bio-cremation)
特別な機械を使って遺体を液化する方法。遺体を水と水酸化カリウムの混合液に浸け、ステンレス製のアルカリ性加水分解装置で180℃に熱すると、骨と茶色の液体に分解されるので、やわらくなった骨を粉砕して遺灰にする。環境にやさしい方法として注目されている。機械を開発したのは英国の企業だが、英国ではまだ法的に認可されておらず、カナダや米国の一部の州でのみ実施されている。

冷凍葬(cryomation / promession)
遺体を液体窒素を使って-196℃で冷凍した後、粉砕してフリーズドライ状にする。火葬に比べて、環境への影響が少ないと考えられている。英国のハートフォードシャー大学を中心に研究開発されたクライオメーション(cryomation)とスウェーデンで開発されたプロメッション(promession)があるが、共に英国ではまだ実用化されていない。

人間冷凍(cryonic preservation)
死亡宣告した直後に遺体を冷凍、技術が進歩した未来に遺体を解凍して生き返らせることも可能という、未来型(?)の葬儀方法。費用は9万ポンドと高価だが、実際に150人あまりの遺体が冷凍保存されているという。


▲(一番上) 環境保全を意識した、段ボール製の棺(cardboard coffin)、270ポンド~。  (下)最も多くの遺族に選ばれているナラ製の棺(oak veneer coffin)、280ポンド~

●ミイラ(mummification)

古代エジプトの埋葬方法として有名だが、現在でも米国で「Summum」社により、遺体のミイラ化が可能。米国内で6万7千ドルの費用がかかり、ハロッズを経営していたモハメド・アルファイド氏も、逝去の際にミイラ化の契約を交わしていると噂されている。

選択項目 その2
土葬の場合、どこに/どのように埋葬するか

土葬の場合、最もポピュラーな埋葬地は教会に隣接する庭か墓地になるだろう。もし、墓をすでに持っている場合、所有者を示す証書や書類を用意する。その墓に土葬するスペース(あらかじめ、2人分、3人分の土葬ができるよう、掘る時に深さを調節する。墓所の価格リスト内で「re-open」とあるのは、既に別の故人が埋葬されている墓に、改めて穴を掘り埋葬する作業のことを示す)があるかどうか確認することも必要。新たに墓を購入した場合、今回使用するスペースの隣りに別のスペースを予約したり購入したりすることも可能だ。
さらに、自宅など個人の敷地内に土葬することも英国では合法になっている。故ダイアナ元妃も、ノーサンプトンシャーのオルソープにあるスペンサー家の敷地内にある墓所に埋葬されている。教会や墓地、自宅のほかの場所に土葬することも可能だが、当然のことながら、私有地では所有者の許可が必要になる。詳細は、葬儀社に聞いてみるといいだろう。

選択項目 その3 火葬の場合、後をどうするか

英国の火葬は、焼却後に特別の機械で遺骨を粉状にする作業があり、遺骨ではなく遺灰という形で遺族のもとに戻ってくる。遺灰は必ずしも墓に納めるという固定概念はないものの、墓地や教会の庭、自宅の庭などに埋めることが多い。また、テムズ河、サッカー場、公園、海、森、山など、故人の思い出の場所にまかれることも少なくない。厳密には公の場に遺灰をまくのは許可が必要だが、厳しい取り締まりがあるわけではなく、実際には黙認されている。
一方、骨壷(urn)やアクセサリーなどに遺灰を入れて手元に保管する人も増えているという。さらに、夫婦やパートナーのどちらか片方が亡くなった際に遺灰を保管しておき、もう片方が亡くなったときに一緒に遺灰を埋めるというケースも多い。遺灰を埋めるか、まくか、保存するかなどは故人の遺志や遺族の意向に添うことが大切だ。


墓所に配するメモリアルには様々なスタイル・材質の『商品』が揃えられている。写真左は遺灰埋葬用(cremation plot memorial)、同右は墓標と縁石がセットになったもの(kerb set)。