スペイン、英国
そしてジブラルタル
2005年、今度は英国とスペインに加え、ジブラルタルを交え、航空・通信などの分野において、三者が足並みをそろえての協議が行われるようになった。そして続く2006年9月にジブラルタル空港の共同使用や空港発着航空機のスペイン空域通過などで合意にいたり、フランコ総統時代に運航が停止されて以来初めてジブラルタル―スペイン間を結ぶフェリー路線などが復活したのである。
2009年の大きな進展は、スペイン・モラティノス外相(当時)がジブラルタルを訪れたことにある。スペインの重要人物の訪問は、英国支配下となって以来初めてのことで、これまでスペインが辿ってきた外交政策からすれば、かなりの譲歩のようにも見られることから、スペイン国内では「領有権をめぐる主張を取り下げるようなもの」と批判の声が上がった。モラティノス外相は「領有権を取り戻すためには、ジブラルタル政府や住民との話し合いの場を持ち、協力することが最良の方法だ」と主張し、この訪問では、漁業や治安、環境問題が話し合われたという。
これまで見てきたように、300年の歴史を経て、ジブラルタルを巡る領土問題は、スペイン、英国の2国間にとどまらず、ジブラルタル政府が加わり、ますます複雑な様相を呈するに至っている。さらに2011年12月に誕生したスペイン新政権ではジブラルタル奪還の主張が強まっていることもあり、雲行きが怪しくなってきている現状だ。
だが一方で国同士が武力で覇権争いに明け暮れていた時代はとおの昔に終わり、私たちは平和を目指す国際社会に生きている。しかもヨーロッパはEUを組織し、現在27の加盟国がひとつ屋根の下で暮らそうと試みている。平和的解決へ向け、一歩そしてまた一歩と歩み寄りの姿勢も見せる三者が今後どのような折り合いをつけていくのか。領土問題に頭を悩ます日本にも解決のヒントを与え、東アジアに恒久的な平和をもたらす一助になるのではないだろうか。