フルトン社に恵みを与えた雨の土曜日

 

 翌週の月曜日。
朝9時45分に事務所の電話が鳴った。
「フルトンさん?」
声の主はマッキンタイヤーだった。
「土曜日に雨が降ったでしょう、フルトンさん」
「確かに、雨が降りましたね」
「あなたの傘は2時間で完売しました。追加で5ダース、すぐに納品してください」
この上ない、うれしい知らせのはずだったが、5ダース(60本)と聞いてアーノルドは頭を抱えた。資材は全額前払いでないと売ってもらえない。傘を作りたくとも、資材が買えないのだ。
アーノルドはコマーシャル・ロードのバークレイ銀行へ向かった。マネージャーの名前はジョウ・ホームズ。マッキンタイヤーに傘を預けることが叶ったのが金曜日だったことから縁起をかつぎ、面談日は金曜日にしてもらい、その当日を迎えた。
ひとしきりアーノルドが説明した後、ホームズは尋ねた。
「融資はいくら必要なんですか」
「700ポンドです」
ホームズは口笛を軽く鳴らした。
「何か担保にできるものはありますか」
「…特には…何もありません」
恐ろしい静けさが2人を包んだ。
ホームズは目をつむり、考えをめぐらしているらしかったが、あまりに沈黙が長いため、眠ってしまったのかとアーノルドはいぶかしがった。やがてホームズは目を開いた。
「500ポンド、お貸ししましょう」
アーノルドは心の中で飛びはねた。
なぜ、資産も担保も何もない若者に500ポンドも融資する気になったのか、アーノルドが後にホームズに聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「カンです。時には、カンで物事を判断することが必要なこともあるのです。フルトンさん、あなたはきっと良い顧客になる、そう思ったのですよ」
ホームズのカンは正しかった。この後50年余りにわたって、バークレイ銀行はフルトン社のメーン銀行として、アーノルドのビジネスの成長を見守っていくことになる。そして、金曜日はアーノルドの「幸運の日」となったのである。


2度にわたってアーノルドに大きな幸運をもたらしたデパート、
セルフリッジズ。© Russ London