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おしゃれに生まれ変わった英国サイダーの物語

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

■ ビールやワインに比べて、少々地味な印象のあるサイダー。しかし近年、ストロベリーやパッションフルーツといったジュースのような甘いサイダーが次々と登場し、苦いアルコールが苦手な「甘党」もパブで楽しく飲めるようになった。今号では、英国サイダーの誕生と変遷についてお届けする。

英国ではお酒、米国ではジュース?

ピムズやカクテルのように楽しめるフレーバーサイダーは、女性に人気だ。
© Rekorderlig

渡英当初、英国では「サイダー」といえば「リンゴからつくられたアルコール」を指すことに、驚いた人は多かったのではないだろうか。日本では「三ツ矢サイダー」があまりにも有名であるため、「サイダー」=「透明な炭酸清涼飲料水」という揺るぎないイメージが、日本人の間で定着している(日本のサイダーは、英国では「レモネード」にあたる)。そして面白いことに、米国ではまた異なる飲料として知られており、米国でサイダーを注文すると「リンゴからつくられたノンアルコール」、つまりリンゴジュースが出てくる。

これはアルコール中毒や飲酒による暴力・犯罪などのトラブルを減らすため、1920年に米国で施行された「禁酒法」が原因だ。植民地時代以降、米国には英国やフランスなどからの入植者によって、リンゴの種とともにサイダーづくりも持ち込まれ、発泡性のアルコールとして人気を博していた。ところが、禁酒法の発布によりアルコール飲料を売ることができなくなってしまったことから、サイダーメーカーは仕方なくアルコールを抜き、「ノンアルコール・サイダー」として新たに販売したのである。1933年に、この「高貴な実験」と揶揄(やゆ)された禁酒法は撤廃されたものの、米国ではサイダーはそのままノンアルコール飲料として親しまれている。

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フランスで目覚めたリンゴ子爵

サイダー(Cider)は、フランス(仏語でシードル/Cidre)、ドイツ(独語でアプフェルヴァイン/Apfelwein)をはじめ、世界各国で生産されているが、実は英国がその中心。そしてビールやワインと比べると見劣りする消費量ながらも、英国は世界最大のサイダー消費国であり、生産量の半分以上が英国内で消費されている。

そんなサイダー大国の英国ではあるが、サイダーの詳しい起源は定かではない。ただ、約2000年前に古代ローマ人が英国にリンゴを持ち込んで以来、リンゴの栽培はもちろん、サイダーづくりも当時から行われていたと言われている。

英国サイダーの主な生産地としては、良好な気候と土壌でリンゴづくりに適しているヘレフォードシャー、デヴォン、サマセット、そしてケントなどが古くから知られているが、なかでも中心的役割を果たしているのがイングランド中西部のヘレフォードシャーだ。

英国サイダーづくりに貢献したスクダモア子爵と、サイダー用リンゴに適したレッドストリーク。

ヘレフォードシャーがサイダーづくりの聖地になったのは、17世紀に同地を治めていた領主、アイルランド貴族のジョン・スクダモア子爵の功績によるところが大きい。1635~39年にかけて、スクダモア子爵は駐仏大使としてフランスへ渡った。そこで「レッドストリーク(Redsreak)」という種類のリンゴからつくられたサイダー(シードル)を味わい、驚愕したのである。

英国では、その当時のサイダーといえば水で薄められたものが我が物顔で出回っており、主に庶民が飲む「安いアルコール」であって、彼のような貴族が口にするような良質なものではなかった。しかし、フランスでは晩餐の席で堂々と供されることにまず驚き、口に含んでその純度の高さと味わいに度肝を抜かれた。酸味は弱く、タンニンが強いにもかかわらず、ほのかな甘さが口に残り、渋味と苦味が絶妙なバランスで効いた果実酒――。まさに目からうろこが落ちた瞬間だった。

子爵は帰任後、フランスのサイダーに匹敵するものを英国でもつくるべく、領地でレッドストリークの栽培に乗り出した。計画は見事成功し、やがて果樹園は近隣の地域へも広がりを見せ、17世紀後半~18世紀中頃にかけてヘレフォードシャーを中心にサイダーの生産量はピークを迎える。とくに子爵領で収穫されたレッドストリークから製造されたサイダーは、最高級の輸入ワインにも劣らない超高値で取引されるほどであった。


軽やかにイメチェン!冷たいサイダー

ところが19世紀に入ると、サイダー人気は徐々に陰りを見せはじめる。庶民の間ではサイダーよりも安価なビールが広まり、一方で上流階級の人々はフランスやスペインから入ってくるワインをより愛飲するようになったからだ。

人気低下に拍車をかけるように、レッドストリークなどの良質なリンゴの作り手も激減。産業革命によってサイダーづくりも工業化が進んだが、そのせいで水で薄められたリンゴ酒に炭酸ガスを入れただけ、というような粗悪品のサイダーが大量生産されるようになってしまう。こうして、サイダーに再び沁みついてしまった「低所得者や稼ぎのない若者向けのアルコール」というマイナスイメージは、21世紀に入ってもなかなか払拭されることなかった。

「マグナーズ」は、サイダーに氷を浮かべて飲むことを初めて提案した。
© Magners

そこに一石を投じたのが、1935年創業のアイルランドのサイダーメーカー「マグナーズ(Magners)」だ。同社は2005~06年にかけて、パイントグラスに注がれたサイダーに氷を浮かべて飲むという、新鮮なスタイルを提案。夏におすすめの飲み方として大々的に宣伝したところ、それが若い社会人世代や女性たちにとって「おしゃれ」に写り、人気が急上昇したのである。また、地球温暖化の影響で暑さに悩まされることも増え、夏は冷たい飲み物が好まれる風潮が生まれはじめていたことも、ブームの後押しとなった。

食用リンゴとサイダー用リンゴ

さて、英国でのサイダー生産地は、大まかに西部の「West Country」と南東部の「South East」に分けられる。先述したヘレフォードシャー、デヴォン、サマセットは西部、ケントは南東部に位置するが、両地域は使用するリンゴに大きな違いがある。

サイダー用のリンゴは小さくて繊維が多く、苦味が強いために食用には適さないものの、豊富に含まれたタンニンによってサイダーになると味わい深くなる。サイダー用リンゴの果樹園が広がる西部産のものこそ、伝統的なザ・英国サイダーと言えるだろう。一方、南東部は食用リンゴの生産が盛んな地域。そのまま食べたり、料理やスイーツづくりに用いたりするリンゴを使うため、甘味が強いのが特徴だ。

近年はリンゴだけでなく、ナシやベリー系、パッションフルーツなど種類も豊富になっている。甘く口当たりの良いフルーティーなサイダーは、ビールや赤ワインといった「苦いアルコール」が苦手という女性にもおすすめだ。

氷だけでなくフルーツを加え、ピムズやカクテルのように楽しむのが定番となりつつあるサイダー。パブでも飲めるので、ぜひ色々な味を試してみよう。ただし、サイダーのアルコール度数は、ビールの4~5%に比べて4・5~7・5%と意外に高いので、ついつい飲みすぎないよう要注意!

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スーパーで飲み比べたい!サイダー5選

STRONGBOW

1960年創業のヘレフォードシャー産の英国サイダー「ストロング・ボウ」。その名の通り、弓(Bow)を引く人がロゴになっている。ヘレフォードシャーのサイダーだが、通常のリンゴのサイダーよりも色が薄く、甘みも強め。

OLD MOUT

1947年創業のニュージーランド産「オールドモウト」。ニュージーランドを代表するフルーツ、キウイを使ったサイダーは同ブランドならではで、キウイ&ライム(左から2つ目)が一押し商品。

REKORDERLIG

1996年創業のスウェーデンのサイダーメーカー「リコーダリグ」。とにかくフレーバーの種類が豊富で、比較的さっぱりとした味で甘すぎない。グラスに氷とフルーツを浮かべて、みんなで乾杯して楽しみたい、夏にぴったりのサイダー。

KOPPABERG

1882年創業、スウェーデンの小さな町「コッパーバーグ」でつくられているサイダーは、ジュースのように甘くて飲みやすいのが特徴。本格派のサイダー好きには邪道扱いされがちではあるものの、ストロベリー&ライム(左端)やナシ(右端)は人気商品。

THATCHERS

1904年創業のサマセット産の英国サイダー「サッチャーズ」。最近人気の様々なフルーツサイダーとは異なり、同ブランドは基本的にリンゴのサイダーが主流。甘さも控えめでビールのような味わいがある。「Gold」が定番商品だが、シャンパン感覚で飲める「KATY」は女性人気が高い。

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週刊ジャーニー No.1336(2024年4月4日)掲載