献立に困ったらCook Buzz
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2020年にアイルランドや英国で猛威をふるったストーム・エレン=NASAによる衛星写真。

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

1954年1月11日。英国のテレビで初めて天気予報が放映された。
それから70年。衛星やスーパーコンピューターを駆使し、少しでも予報の精度を高めるべく、文字通り日夜努力が続けられているが、英国の天気はおとなしく予想通りに変化してはくれない。「1日の中に四季がある」といわれる英国の天気について、今号と来週号の2回にわたり、基礎的な事柄をお届けしたい。

戦局を変え、国政を動かす天気

英国で気象庁に相当するメット・オフィス(The Meteorological Office)が発足したのは1854年のこと。当初は貿易省の所属で、船舶に対して海洋情報を提供することを目的にスタートした。その5年後の10月、ウェールズ沖でオーストラリアのメルボルンから370人余りの乗客、約110名の乗員をのせてリヴァプールに向かっていたロイヤル・チャーター号が大嵐で難破。459名が亡くなるという大惨事となった。ウェールズ沖の海難事故としては最大規模で、後に「ロイヤル・チャーター・ストーム」と名づけられたこの大嵐により200の船舶が被害を受けた。余談だが、オーストラリアで金を掘り当てひと財産を築いた者も多く乗船し、貨物の中にも金塊が大量に含まれていた同船の難破により、海岸に流れ着いた金塊を拾ってにわか成金となったウェールズ人もおり、その後もしばらく世間の耳目を集める出来事となったという。

この事故をきっかけに、嵐に関する警報発信の重要性が認識されたのを皮切りに、メット・オフィスは時代や気候の変動にあわせ、担う役割を拡大させていく。例えば、第一次世界大戦以後の1919年、空軍省付きとなり、空軍の各基地に観測所を設置し、空中戦に欠かせない気象状況を発信するシステムを構築。近年でも、1990年に防衛省付きとなるなど、軍事とは切っても切れない関係を保持している。

現在は、国家規模で気候問題、エネルギー問題に取り組む必要性がますます高まっている情勢を背景に、科学・革新・技術省付きとなっているが、メット・オフィスが求められる役割は今後も多様性を深めていくことになるだろう。

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国際化が進む天気予報の世界

2004年、メット・オフィス本部は、バークシャーのブラックネルからエクセターへと移転。8000万ポンドをかけて完成したという新本部では、最先端の情報収取・分析技術を駆使した対応が可能になった。また、かつて七つの海を制した大英帝国時代の遺産(植民地)は、広範囲にわたる気象情報の収集にも役立っており、スペインとアフリカ大陸とのあいだに位置するジブラルタルや、アルゼンチン沖のフォークランド諸島などにも分室が置かれている。

さらには、アイルランドの気象庁にあたる「Met Éireann」とも連携。2019年にはこれにデンマークの「Royal Netherlands Meteorological Institute (KNMI)」が加わり、被害が広範囲に及ぶことが増えたストームに関する情報を共有し、より迅速、かつより的確な警報を発するシステムの充実化がはかられている。ことあるごとに気候変動(Climate Change)への危機感が報道される昨今の情勢が、ここにも反映されているといえるだろう。

さて、英国の天気に行政としてかかわるメット・オフィスについて、駆け足で概要をご紹介したが、そもそも、どうして英国の天気はここまで変わりやすいのか。また、近頃、「ヘンク」や「ジョセリーン」といった名前つきでニュースに登場するようになっている嵐だが、どのように名前がつけられているのか、などの疑問をお持ちの読者も少なくないことだろう。以下と、来週号とで、素朴な疑問について記したい。


天気予報で用いられている基礎用語

Cold front 寒冷前線

冷たい空気が暖かい空気の下に潜り込んでできる前線。前線通過時は、風向の急変、突風、雷を伴うことがある。前線から暖かい空気の側に向かって、約80キロの範囲にわたって連続して強い雨や雪が降る。通過後は急に気温が下がる。

Cloud 雲

大気中の水蒸気が凝結してできた小さい水滴の集まり。雨や雪を降らせる張本人。①地上で暖められた空気が上昇して冷やされてできる②丘や山などに沿って空気が上昇して冷やされてできる③乱気流に押され空気が上昇して冷やされてできる④冷たい空気の上に暖かい空気が乗り上げてできる、といった生じ方がある。言いかえると、暖かく湿り気を帯びた空気が冷やされた結果、含むことのできる水蒸気の容量が減少し(気温が下がるほど少ない水蒸気で飽和状態に達してしまう)放出された分が集まって雲を形成する。なお、「霧」は雲が地表に接したものといえる。

Depression(ディプレッション) 低気圧

天気図上で気圧が周囲より低い領域。北半球では低気圧の中心に向かって、風が反時計回りに吹き込み、集まった空気は上空へ上がりさらに四方へ広がる。つまり、低気圧に覆われた区域では上昇気流が起こっているので、雨の原因となる雲ができ雨や雪が降りやすい。なお、単に「low」あるいは「area of low pressure」と呼ばれることも多い。または「cyclone(サイクロン)」と表現されることもある

Dew 露

夜のうちに地表で冷やされた水蒸気が集まって水滴となったもの。風も雲もないときに生じやすい。なお、これが凍ったものが「frost=霜」。

Drizzle(ドゥリズル) 霧雨

直径0.5ミリ以下の水滴で、雲が抱え切れずに放出したものを特にこう呼ぶ。

Fog 霧

地表面付近で無数のごく小さな水滴が空気中に浮かんでいるために、遠くがよく見えない現象のことを指す。目の高さの視程が1キロ未満のものを「霧」、1キロ以上のものを「もや」と呼ぶが、「霧」自身も次のように分類される。
*目の高さの視程が1~5キロ=「mist」または「haze」。ともに、日本語では「もや」と呼ばれる。水分や煙からなる「mist」と異なり「haze」はほこりまたは煙からなる。船舶や小型飛行機に影響あり。
*目の高さの視程が200~1000メートル=「aviation fog=航空霧」。すべての航空機の着陸時に影響あり。
*目の高さの視程が50~200メートル=「thick fog=濃霧」。道路、鉄道、航空機とすべてにわたって影響あり。
*目の高さの視程が50メートル以下=「dense fog=濃霧」。「thick fog」よりも濃く、すべての交通機関に関して深刻な影響あり。

Front 前線

地表における、暖かい空気と冷たい空気の境界線。風向・風速・気温の急変、悪天候などを伴う場合が多い。

Gust(ガスト) 突風

文字通り、突然風速が極端に上がった風のこと。その時吹いていた風の平均風速からみると100パーセントも速度が増すことがあり、しばしば建物や木などに被害を及ぼす。

Hail(ヘイル) ひょう雹

主として積乱雲から落下する氷粒のうち、直径5ミリ以上のものをさす。積乱雲の中で上昇と落下を繰り返すと、直径5センチもの大きさにまで成長することがある。ちなみに、今までに記録された中で最大の「ひょう」は直径19センチ(米カンザス州で記録)。なお、直径5ミリ未満のものは「graupel pellet=あられ」。

High pressure 高気圧

天気図上で気圧が周囲より高い領域。北半球では高気圧の中心から風が時計回りに吹き出し、吹き出した空気を補うように上空から空気が下降してくる。つまり、高気圧に覆われた区域では下降気流が起こっているので、雨の原因となる雲ができず天気がよい。なお、単に「high」あるいは「area of high pressure」と呼ばれることも多い。また、「anticyclone」(アンティサイクロン)と表現されることもある。

Isobar(アイソバー) 等圧線

天気図上で同「pressure=気圧」を示す点を結んで線にしたもの。これにより、高気圧や低気圧の中心、「trough(トゥロフ)=気圧の谷」の位置などを知ることができる。英国での平均気圧は1013ミリバール。英国で1050ミリバール以上、また950ミリバール以下を記録することはまずない。なお、風はほぼ等圧線と平行に吹いており、等圧線と等圧線の間隔が狭いほど風は強い。

Occluded Front(オクルーディッド・フロント) 閉そく前線

温暖前線と寒冷前線が重なった部分のことをいう。低気圧が発達して、移動速度の速い寒冷前線が温暖前線に追いついて生じる。前線の通過区域では連続的に雨が降る。

Patchy(パッチー) ところにより…

天気予報では「patchy sunny spells=ところにより太陽が顔を出すでしょう」、「patchy rain=ところにより雨」といったふうに用いられる。また、「scattered(スキャタード) showers=ところにより、にわか雨」という表現もしばしば目にする。

Precipitation(プレシピテーション) 降水量

雨、雪、あられ、ひょうなど全てひとまとめにして測定。なお、おおざっぱにいって、10センチの積雪は10ミリの雨量に相当する。

Pressure 気圧

地球を取り巻いている大気の重さにより生じる圧力のこと。標準的な地表の気圧は、高さ76センチの水銀柱の圧力に相当し、これを1気圧(1013ミリバール)と呼ぶ。

Rain 雨

直径0.5ミリ以上の水滴のことを指す。

Shower にわか~

雨ばかりではなく、雪、ひょうなど、多くは不安定な気流が原因で降るときに用いられる。降水時間は短いが、時として多量に降ることがある。

Snow 雪

「雨」が凍ったものだが、地表温度が摂氏1~2度であれば、溶けずに雪として降ると考えて良い。これが2~3度になると「sleet(スリート)=みぞれ」となることが多い。

Tornado(トーネイドー) 竜巻

主に積乱雲から垂れ下がる、直径数10メートル~数100メートルの漏斗状の空気の渦巻き。中規模の低気圧の中で発生し、この低気圧は「竜巻低気圧」とも呼ばれる。

Warm front 温暖前線

冷たい空気の上に暖かい空気が乗り上げてできる前線。前線から冷たい空気の方に向かって、約300キロの範囲にわたって連続して雨や雪が降る。前線通過後は気温が上がる。

Wind 風

測定の際には、地上10メートルのポイントにおける数値を取る。「gail(ゲイル)=嵐」、ゲイルよりも風の強い「storm」などについて、詳しくは次号でご紹介する。

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Q1 英国の天気は、高緯度である割に温暖(口ンドンでさえサハリンの中央部あたりとほぼ同緯度)。その理由は?

カリブ海のほうから大西洋を横切って流れて来る暖かい海流(いわゆるメキシコ湾流)のおかげ。海は陸地とちがい、冷めにくいという特性があり、この暖流の上を通って吹いて来る西風が暖かさを運んできてくれる。余談だが、日本では東からの風 (太平洋側からの風)が暖かさを運んで来るのとは逆。菅原道真は、かつて「東風(こち)吹かば、匂いおこせよ梅の花…」 と短歌に詠んだが、英国では「西風吹かば」となる。

Q2 英国の天気はなぜこんなに変わりやすい?

英国は多くの路線が集まってくる忙しいジャンクション(合流地点)に例えられるという。様々な気候がちょうどここで合流しているのだが、こうしたことが起こる原因のすべては英国の地理的な位置関係にある。図1を参照していただきたい。英国には、これだけのそれぞれ異なる風が吹き込んでいる。雨を降らせる雲を作る要因になるのは、暖かい空気が冷たい空気の上に乗り上げたり、冷たい空気が暖かい空気の下に潜り込んだりすることによって生じる「前線」(基礎的用語の「front」、および「cloud」もご参照のこと)。暖かい空気と冷たい空気が複雑に、しかもかなりのスピードをもって英国上空で入り交じっているのだ。

Q3 英国の青空が余り青くないように見えるのはなぜ?

メット・オフィスによると、英国の青空が余り青くないのは、大気汚染が原因と考えられるとのこと。石炭を家庭燃料に使うことがなくなったおかげで、昔よりはマシになったとはいえ工業地域の大気汚染は深刻な問題。また、大陸からの東風も汚れた空気を運んでくる。代わりに北からの風が強く吹く時は真っ青に晴れ渡ることがあり、これは北極方面からの澄んだ空気が流れ込んでくるため。 (次号に続く)

洪水のニュースが頻繁に流れるようになった英国だが、ロンドンは、テムズ河(シティの東、ウリッジ)に設置された「テムズ・バリア」のおかげでここ70年ほどは、目立った被害にあっていない。

週刊ジャーニー No.1332(2024年3月7日)掲載