献立に困ったらCook Buzz
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Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2024.

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

■1066年にウィリアム1世(征服王)によって建造されて以来、現在に至るまで英王室に脈々と受け継がれているウィンザー城。約950年にわたる王室の歴史が凝縮されており、同城内のセント・ジョージ礼拝堂にはヘンリー8世のほか、故エリザベス女王とフィリップ殿下夫妻も埋葬されている。今号では、見どころ多きウィンザー城にある貴重な逸品のひとつで、完成100年を迎えた世界最大の「ドールズハウス」をクローズアップする。

ヨーロッパにおける最も古いドールズハウスは、16世紀半ばにバイエルン公アルブレヒト5世が、一家が暮らす邸宅を縮小再現させて、幼い娘たちへプレゼントしたものと言われる(現存せず)。当時のドールズハウスはキャビネット型で、鑑賞して楽しむ芸術品だった。やがてドールズハウスの人気はヨーロッパ中の上流階級や富裕層へ広がっていき、各国で腕によりをかけた贅沢な逸品がつくられるようになる。英国でも17世紀頃からドールズハウス熱が高まりはじめ、19世紀に産業革命が到来して大量生産が可能になると、子どもの遊び道具として不動の人気を獲得していった。

ウィンザー城で見ることができる「クイーン・メアリーズ・ドールズハウス(Queen Mary's Dolls' House)」は、その名からわかる通り、ジョージ5世の妻であったメアリー王妃(Queen Mary)=写真上=所有のドールズハウスだ。メアリー王妃は、故エリザベス女王の祖母にあたる。

このドールズハウスの制作を提案したのは、実はメアリー王妃ではなく、ジョージ5世の従兄妹メアリー・ルイーズ王女であった。芸術の後援に力を注いでいた彼女は、第一次世界大戦が終結したのを機に、親しくしていたメアリー王妃へ何か贈り物を渡そうと計画。小さくて装飾的なものを好んだ王妃のために、ドールズハウスをプレゼントすることを思いついたのである。その話を聞いた王妃は心から感謝を伝えた後、こう注文をつけ加えた。

「つくるからには美しくなければなりません。長持ちするものでなければなりません。そして最高のものでなくてはなりません」

博識かつ趣味の高さで知られた王妃は、バッキンガム宮殿やウィンザー城の改装時には自身で監督し、室内やインテリアのレイアウトに携わるほどの「目利き」。彼女を満足させられるドールズハウスを目指し、一大国家プロジェクトが1921年、スタートした。

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ドールズハウス建造のために、1500人以上の英国最高峰の芸術家・職人・製造業者が集められた。設計を担当したのは、英国を代表する建築家エドウィン・ラッチェンス。彼はドールズハウスだけでなく、それを設置する展示室もデザインしている。ドールズハウスは4階建てで、大広間、ダイニングルーム、王や王妃の寝室、エントランスホールのほか、使用人部屋やキッチン、バスルームまでつくられ、その部屋数はなんと40室以上。地下階にはロールスロイスなどの車やバイクが収められたガレージもあり、当時のウィンザー城の部屋や家具が、12分の1の縮尺で完璧に再現されている。

ドールズハウスの中で最大の大広間(The Saloon)。暖炉の左右に並んでいるのはジョージ5世とメアリー王妃の肖像画。
Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2024.
当時王室が所有していた車やバイクが並ぶガレージ(The Garage)。
Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2024.
実物の置時計と比較。
Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2024.

すべて手作業で制作され、絵画や天井画は画家、庭園は庭師が手掛けるなど、「その道のプロ」がそれぞれ担当しているというから、その本気度に驚く。ピアノは実際に弾くことができ、ワインセラーのボトルには本物のワインやシャンパンが入っている。もちろん電気や水道も完備されているので、灯りはつくし、エレベーターも動く、水洗トイレの水まで流せるのだ。

また、アーサー・コナン・ドイルやトーマス・ハーディを含めた170名の作家が、図書室に収めるためのオリジナル小説を執筆。さらに、ホルストら50名の作曲家が生み出した新曲の楽譜も、革紐でまとめられている。

エリザベス1世の肖像画が飾られた図書室(The Library)。本はすべて読むことができる。
Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2024.

3年の歳月をかけて1924年に完成した、世界最大にして最高のドールズハウス。100周年を記念し、年内は公式式典が開かれる壮麗な「ウォータールーの間」で、じっくりと鑑賞できる。ぜひ足を運んでみては?


エリザベス女王夫妻も眠る
ウィンザー城

Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2023. Photo by Peter Packer

英王室のスタートとほぼ同時期に建てられた、世界最古にして最大の現役の城、ウィンザー城。ガーター勲章の授勲式のほか、王室の婚礼の儀や洗礼式、誕生祝賀会などが、今でも催されている。

ウォータールーの戦いの勝利を祝した「ウォータールーの間(The Waterloo Chamber)」。ドールズハウスは、今年だけの期間限定でこの部屋に展示されている。Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2023. Photo by Peter Smith
ポルトガルから嫁いだチャールズ2世の妻、キャサリン王妃のためにつくられた「王妃の応接間(The Queen's Drawing Room)」。Royal Collection Trust / © His Majesty King Charles III 2023. Photo by Peter Smith

Windsor Castle
Windsor, Berkshire SL4 1NJ
www.rct.uk/visit/windsor-castle

オープン時間 木~月曜 10:00~17:15
入場料 大人£30
アクセス
【電車】ロンドン・ウォータールー駅からWindsor & Eton Riverside駅で下車(所要約1時間)。またはパディントン駅からWindsor & Eton Central駅で下車(所要約35分)。
【車】ロンドンからM4で西に向かいジャンクション6で下車、またはM3のジャンクション3で下車し、北上する。所要約1時間半。

週刊ジャーニー No.1331(2024年2月29日)掲載