Tate Galleries

ヘンリー・テートの尽力により、1897年に「ナショナル・ギャラリー」の分館として、「ナショナル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート」がロンドンのミルバンクに開設されて100余年。現在は、生みの親であるテートの名を冠し、全英に4館を構える国立美術館グループ「テート」として君臨している。テートのコレクションは4館が共有し、定期的に各館内のコレクションの移動が行われている。ここでは、それぞれがユニークな建築デザインを誇り、地域に根ざした独自のプログラムを展開する4館の魅力を紹介したい。

 

Tate Liverpool
テート・リバプール

テートの創始者であるヘンリー・テートが、砂糖ビジネスの拠点にしていたリバプールにある美術館。リバプールの港湾再開発エリア、アルバート・ドックに1840年代に建造された倉庫を改造して、1988年開設された。英国北部はもとより、ロンドン以外の地方都市において最大級の近代美術・現代美術の展示品数を誇る。常設展は、ヘンリー・ムーアなどイングランド北部にゆかりのある作家の作品が中心。その他1900年から現在までのコンテンポラリー・アートがメインで、絵画や彫刻、写真、版画、ビデオ、パフォーマンス、インスタレーションなど作品の幅は広い。また、地元住民や専門家に対する教育プログラム、特に13~25歳を対象にした『ヤング・テート』プログラムなど、ユニークな活動が随時行われている。

Albert Dock
Liverpool L3 4BB
Tel: 0151 702 7400
開館時間:10:0017:50
休館日:9月5月の月曜とバンクホリデー・マンデー、グッド・フライデー、12月24、25、26日
www.tate.org.uk/liverpool/

Tate St. Ives
テート・セント・アイヴス


テート・セント・アイヴスから見た
セント・アイヴスの町並み
© Andrew Dunn
英国南西部コーンウォールのリゾート地であるセント・アイヴスに位置し、海を見下ろすようにして建つ、白亜の円形の建物が美しい美術館。開設は1993年、第二次世界大戦の戦渦を逃れこの地に居を構えた抽象芸術家ベン・ニコルソンとその妻で彫刻家のバーバラ・ヘップワースなど「セント・アイヴス派」による英国近代美術の作品を中心に展示している。セント・アイヴスと芸術家たちの歴史は古く、1920年、陶芸家のバーナード・リーチと濱田庄司が日本から英国に移住し、この地に日本式の登窯「リーチ・ポタリー」を開設。また1928年頃には、ベン・ニコルソン、クリストファー・ウッドらが芸術家のコロニー(集団営巣地)を作り、その後美術学校なども開校され、全国から多くの美術学生たちを集めた。美術館の近くにある、バーバラ・ヘップワースのアトリエと彫刻作品を置いた庭園も現在公開され、テート・グループによって運営管理されている。

Porthmeor Beach
St Ives
Cornwall TR26 1TG
Tel: 01736 796226
開館時間:10:0017:20 (11月~2月は  16:20)
休館:12月24、25、26日
www.tate.org.uk/stives/

Tate Britain
テート・ブリテン


英国が誇るラファエル前派の画家、ジョン・エヴァレット・ミレーの彫像がテート・ブリテンに設置されている。(トーマス・ブロック作)
www.stuckism.com

ヘンリー・テートが65点のプライベート・コレクションを「ナショナル・ギャラリー」に寄贈したことが発端で1897年に開設され、同ギャラリーの分館としてオープンし、後に「テート・ギャラリー」に改称された。さらに「テート・モダン」が設立されてからは「デート・ブリテン」に。1500年代、チューダー朝以降から現代に至るまでの絵画を中心とした英国美術が展示され、ウィリアム・ブレイク、ジョン・コンスタブルから、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレーなど、ヘンリー・テートが所蔵していたラファエル前派、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー自身から寄贈された、彼の初期から晩年までの作品の展示で世界的に名高い。また、国際的に注目度の高い、現代美術界で権威のある美術賞「ターナー賞」を毎年開催しており、そのショートリスト(候補者リスト)のラインアップでは、毎年国内外で大きな物議をかもしている。

Millbank
London SW1P 4RG
Tel: 020 7887 8888
開館時間:10:00 - 17:50 (企画展は、- 17:40、毎月第1金曜日は- 22:00)
休館日: 12月24、25、26日
www.tate.org.uk/britain/
*テムズ川を走るTate ボートが40分毎に、テート・モダン、ロンドン・アイとテート・ブリテン間を運行している。


Tate Modern © Tate Photography


テート・モダンの7階建て(吹き抜け)、3,400平方メートルのエントランス『タービン・ホール』。かつて発電機があった場所。
Tate Modern
テート・モダン

北京オリンピックにおいてメインスタジアムを建築設計し、今最も世界で注目されているスイス出身の建築デュオ、ヘルツォーク&ド・ムーロンが2000年に手掛けた話題作「テート・モダン」。かつては大型発電機が置かれていた巨大なタービン・ホールを、美術館のエントランス・ホールに大改装。屋上には、自然光を最大限取り込めるガラス張りのスペースをつくるなど、斬新な空間が特徴だ。手狭になった当時の「テート・ギャラリー」のスペース拡充を図るべく、1980年、新美術館建設が決定され、2000年の同館のオープンとともに、「テート・ギャラリー」が所有していた20世紀以降の国内外の美術・デザインの一部が「テート・モダン」に引っ越しした。3階、5階の展示室はいくつかの美術運動をテーマにした5つの部屋からなり、3階にある、マーク・ロスコの壁画を集めた「ロスコ・ルーム」は特に人気だ。現在美術館の隣に、やはりヘルツォーク&ド・ムーロンのデザインによるガラス張りの新館を建設中。こちらは2012年、ロンドン・オリンピックの年にオープン予定。

Bankside
London SE1 9TG
Tel: 020 7887 8888
開館時間: 10:0018:00 (金、土曜は  22:00)
休館日:12月24、25、26日
www.tate.org.uk/modern/

 

ターナー賞 はこうして始まった


2009年にターナー賞を受賞したリチャード・ライトの作品 Richard Wright
no title 2009
© Sam Drake and Gabrielle Johnson, Tate Photography
Courtesy the artist; Gagosian, London; The Modern Institute / Toby Webster Ltd, Glasgow and BQ, Berlin
 英国の現代美術界において、知名度、権威ともにナンバー1といっても過言ではない「ターナー賞」。11月のショートリストの公表から12月の受賞者の発表まで、新聞やTVをはじめ様々なメディアが大きくとり上げ、またノミネートされたアーティストの作品が、「テート・ブリテン」で3ヵ月間にわたって展示されることもあり、美術関係者だけでなく一般のアート好きの間でも大きな話題となる。ホルマリン漬けの羊やサメで世界的に有名な英国の奇才ダミアン・ハーストや、コンドームやタバコ、下着などが散乱する自らのベッド・ルームをアート作品としたトレーシー・エミンなど、近年はコンテンポラリー、かつコンセプチュアルな作家が同賞を受賞する傾向にあり賛否両論が巻き起こることもしばしばだ。
「ターナー賞」は1984年に設立された、テート・ギャラリー・グループが開催、運営する美術コンペティション。1980年代の英国は鉄の女サッチャー首相が率いる保守党政権の下で、経済面では大きな飛躍を見たが、現代美術を展示する美術館のパワーや、一般の人々の現代美術に関する関心が徐々に色褪せつつあったという。そのような状況に業を煮やし、"新しい美術"の振興を目指してテート・ギャラリー(テート・ブリテンの前身)のパトロン団体によって設立されたのが、「ターナー賞」だ。受賞対象者は50歳未満の英国人、または英国在住のアーティストで、毎年4人の受賞候補をノミネートしてその作品を「テート・ブリテン」で展示し、テートのダイレクターを含む専門の審査員たちにより最終的に1人のアーティストが選ばれる(賞は作品ではなくアーティストに贈られる)。賞金総額4万ポンド、そのうちターナー賞受賞者に25,000ポンド、受賞を逃した3人にそれぞれ5,000ポンドが贈られる。ちなみに「ターナー賞」というのは、もちろん英国を代表するロマン主義の画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner)に由来する。ターナーは今でこそ、英国民的な偉大なる画家としてその名を馳せるが、彼が活躍していた19世紀前半の評価はまさに“新しい美術”そのものであった。例えば1842年に制作された『吹雪-港の沖合の蒸気船』。同作品では蒸気船はぼんやりとしていて、また巨大な波、水しぶき、吹雪などの自然を描き出している。印象派を何十年も先取りした斬新な作品であったが、発表当時は評論家たちから酷評されたという。