 2009年にターナー賞を受賞したリチャード・ライトの作品 Richard Wright no title 2009 © Sam Drake and Gabrielle Johnson, Tate Photography Courtesy the artist; Gagosian, London; The Modern Institute / Toby Webster Ltd, Glasgow and BQ, Berlin 英国の現代美術界において、知名度、権威ともにナンバー1といっても過言ではない「ターナー賞」。11月のショートリストの公表から12月の受賞者の発表まで、新聞やTVをはじめ様々なメディアが大きくとり上げ、またノミネートされたアーティストの作品が、「テート・ブリテン」で3ヵ月間にわたって展示されることもあり、美術関係者だけでなく一般のアート好きの間でも大きな話題となる。ホルマリン漬けの羊やサメで世界的に有名な英国の奇才ダミアン・ハーストや、コンドームやタバコ、下着などが散乱する自らのベッド・ルームをアート作品としたトレーシー・エミンなど、近年はコンテンポラリー、かつコンセプチュアルな作家が同賞を受賞する傾向にあり賛否両論が巻き起こることもしばしばだ。 「ターナー賞」は1984年に設立された、テート・ギャラリー・グループが開催、運営する美術コンペティション。1980年代の英国は鉄の女サッチャー首相が率いる保守党政権の下で、経済面では大きな飛躍を見たが、現代美術を展示する美術館のパワーや、一般の人々の現代美術に関する関心が徐々に色褪せつつあったという。そのような状況に業を煮やし、"新しい美術"の振興を目指してテート・ギャラリー(テート・ブリテンの前身)のパトロン団体によって設立されたのが、「ターナー賞」だ。受賞対象者は50歳未満の英国人、または英国在住のアーティストで、毎年4人の受賞候補をノミネートしてその作品を「テート・ブリテン」で展示し、テートのダイレクターを含む専門の審査員たちにより最終的に1人のアーティストが選ばれる(賞は作品ではなくアーティストに贈られる)。賞金総額4万ポンド、そのうちターナー賞受賞者に25,000ポンド、受賞を逃した3人にそれぞれ5,000ポンドが贈られる。ちなみに「ターナー賞」というのは、もちろん英国を代表するロマン主義の画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner)に由来する。ターナーは今でこそ、英国民的な偉大なる画家としてその名を馳せるが、彼が活躍していた19世紀前半の評価はまさに“新しい美術”そのものであった。例えば1842年に制作された『吹雪-港の沖合の蒸気船』。同作品では蒸気船はぼんやりとしていて、また巨大な波、水しぶき、吹雪などの自然を描き出している。印象派を何十年も先取りした斬新な作品であったが、発表当時は評論家たちから酷評されたという。
|