
■ 幽霊が出る家や建物は、それだけ歴史や故人の思い入れがあるとされて価値が上がるなど、むしろ好まれる傾向がある英国。ハロウィンが目前に迫った今号では、幽霊が現れる場所として知られるロンドンの「いわくき」パブを紹介する。
●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部
霊媒師も除霊を拒んだ
The Ten Bells/テン・ベルズ

18世紀半ばに開業した老舗パブだが、1888年に切り裂きジャックに惨殺された2人の娼婦が、事件直前に立ち寄ったことで一躍有名になった。とくに、アニー・チャップマンは同所の近くで殺害されたため、彼女の幽霊が出ると言われている。 でも、本当に怖いのは彼女たちではない。実は上階で当時のオーナーが斧で虐殺されたり、泣きわめく赤ん坊が殺されたりと数々の殺人現場にもなっており、亡霊に悩まされた従業員が霊媒師に除霊を依頼するも、彼らも怖がって上階に足を踏み入れられなかったという。飲食するのは地上階をお勧めする。
84 Commercial Street, London E1 6LY
最寄り駅:Liverpool Street
☎ 020 7247 7532
www.tenbells.com
近衛兵が仲間に撲殺された
The Grenadier/グレナディア

赤い制服に黒い毛皮の帽子をかぶった近衛歩兵連隊「Grenadier Guards」の名前を掲げる、隠れ家的パブ。近衛歩兵第1連隊の食堂として1720年にオープンし、のちに近衛兵専用パブとなった。
現れるのは、ここでカードゲームをしていた近衛兵たちが、「イカサマ」をしたとして皆で寄ってたかって撲殺した、若い兵士セドリックの幽霊。ちなみに、カードゲームで負け続けていたセドリックには多額の借金があり、その借金を代わりに返そうと、パブを訪れる人が寄付をするようになったとか。「悪霊退散!」のお札のごとく貼られた世界各国の紙幣が、天井や壁を覆いつくしている。
18 Wilton Row, London SW1X 7NR
最寄り駅:Hyde Park Corner
☎020 7235 3074
www.grenadierbelgravia.com
ポルターガイスト現象が頻発
The Viaduct Tavern/ヴァイアダクト・タバーン

「英国史上もっとも劣悪な環境」「裁判前に囚人が死ぬ」と悪名高かった旧ニューゲート監獄(現在は中央刑事裁判所)の向かいに建つ、1875年創業のパブ。監獄前では公開処刑が行われ、のちに見物人の混雑を避けるためにマーブルアーチへ処刑場が移されたが、監獄内での死刑は20世紀初頭まで執行されていた。このパブでは電気が消えたり、ボトルやグラスが割れたりといったポルターガイスト現象が頻発。とくにかつて監獄の一部だった地下貯蔵庫では、ドアが突然閉まって従業員が閉じ込められる、物を投げつけられるといった心霊体験に事欠かない。
126 Newgate Street, London EC1A 7AA
最寄り駅:St Paul's / City Thameslink
☎020 7600 1863
www.viaducttavern.co.uk
地下監獄をカメラでライブ中継
Morpeth Arms/モーペス・アームズ

テート・ブリテンに程近い、テムズ河沿いにある1845年創業のパブ。当時、同所にはミルバンク監獄が建っていたが、沼地だったことから建物が徐々に沈んでいき、監獄内は病気の温床となってしまった。そのため、多くの囚人がオーストラリアへ移送された。 ここはその監獄の監視員専用パブで、地下には監獄が当時のまま残されている。過酷な船旅や異国の植民地へ送られる不安から、監獄内で自殺した囚人も少なくなく、彼らが彷徨ったり、ポルターガイスト現象が起きたりするという。旧監獄内の様子は「ゴーストカメラ」により、店内のモニターに映し出されている。
58 Millbank, London SW1P 4RW
最寄り駅:Pimlico
☎020 7834 6442
www.morpetharms.com
女性用トイレの怪異
The Bow Bells/ボウ・ベルズ

1860年創業のイーストエンドにあるパブでは、女性用トイレでのみ怪奇現象が起きる。トイレの便座に座って用を足していると、勝手に水が流れてしまうという可愛いイタズラだが、1970年頃から発生。この幽霊は「The Phantom Flusher」と呼ばれ、怖がる女性客が増えたので霊媒師に除霊を依頼したところ、トイレのドアがバタン!バタン!と激しく開閉し、鏡が粉々に割れ、最後に便器の水がジャーと勝手に流れたという。パブのオーナーは除霊を諦め、このファントムは今なお女性用トイレに住み続けている。
116 Bow Road, London E3 3AA
最寄り駅:Bow Road / Bow Church
☎020 8980 0744
www.thebowbellspub.co.uk
殺害した遺体を病院へ
The Rising Sun/ライジング・サン

かつて処刑場だった食肉市場「スミスフィールド・マーケット」の向かいに建つ、17世紀創業の老舗パブ。19世紀初頭に入ると公開処刑は珍しくなる一方で、医学は発展し、「検体」となる遺体不足に陥った。そこで同所一帯を縄張りにしていた盗賊団が、パブに来た客の酒に薬物を混入させて殺害し、その遺体を近くの聖バーソロミュー病院へ売って荒稼ぎした。
上階のフラットで暮らす住人たちは数多くの恐怖体験に襲われており、シャワーを浴びているとシャワーカーテンが勝手に開いて背中を触られたり、寝ていると掛け布団を剝がされたりするという。
38 Cloth Fair, LondonEC1A 7JQ
最寄り駅:Barbican / Farringdon
☎020 7726 6671
https://risingsunbarbican.co.uk
週刊ジャーニー No.1263(2022年10月27日)掲載