2016年9月29日
何ゆえ、英国人の名前には同じものが多いんですの?
愛するお父様へ
今年は夏目漱石の没後100年ということで、日本ではさまざまなイベントや展覧会、書籍の出版などが相次いでいるようですね。実はロンドンには、夏目漱石が留学していた頃に住んでいらした家が今も残っており、日本人初となる「ブループラーク」も飾られています。先日、その家の向かいにある漱石記念館が閉館すると耳にし、慌てて足を運んでまいりました。偉大な文豪を身近に感じて感動したのですが、漱石がかつて暮らしていた家は外観の修復作業中だったようで、工事用の足場が組まれていたのが残念でした…。
さて本日も、日本と英国の違いをまたひとつ発見いたしましたので、ご報告いたします。
英国人の方と初めてお会いする際、時折困惑してしまうのがファーストネームです。わたくしの周りでは、男性ならジョージ、デイヴィッド、クリス、女性ならメアリー、ジェーンなど、同じ名前の知人・友人が数人おられます。なんと父親と息子が同じ名前というケースもあったのです! 英国人のファーストネームは、日本人よりも種類が少ないように思うのですが、一体なぜ似た名前の人が多いのでしょう? 好奇心がわき、調べてみることにいたしました。
資料をあたりましたところ、どうやら英国人のファーストネームの多くが、キリスト教の聖人の名前にちなんでいることがわかりました。聖人とは「キリスト教徒の模範となるべき偉大な信者」のことで、命がけで信仰を貫き、清らかなる一生を送って天国へ召された人物に与えられる、敬意を込めた「称号」です。ヴァチカン教皇庁の審査団による数々の厳しい審査を通った人物だけが聖人への列席を認められるそうで、現在もこの聖人は増え続けているのだとか。もっとも最近に聖人に認定されたのは、インドで病や貧困に苦しむ人々の救済活動に生涯をささげた女性、マザー・テレサです。1997年の死去以降、ずっと審査が続けられていたとのことで、今年の9月4日に認定式典が行われています。
こうして生まれた尊い聖人たちにあやかろうと、キリスト教を信仰する人々は、聖人と同じ名前を子どものファーストネームに選ぶようになりました。とくに英国で人気があったのは、英国を守る4人の守護聖人で、聖ジョージ(イングランドの守護聖人)、聖アンドリュー(スコットランドの守護聖人)、聖デイヴィッド(ウェールズの守護聖人)、そして聖パトリック(アイルランドの守護聖人)です。ほかにも、12使徒と呼ばれるイエス・キリストの弟子の名前も好まれており、たとえば聖ジョン、聖ジェームズ、聖ピーター、聖フィリップ、聖トーマス…どれもとても馴染みのあるファーストネームですね。ちなみに、メアリーという名は聖母マリアを由来としています。
聖人の名前を頂くことは、キリスト教国において長年の習慣であったようですが、近ごろはテレビドラマの登場人物や人気歌手の名前を取り入れるなど、日本と同様にファーストネームもバラエティに富んできているようです。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成28年9月26日 るり子