離婚 その時どうする? 【後編】子供の養育と財産分与

コロナ禍でのロックダウン中、自分の人生を見つめ直し、転機を迎えた人も多いのではないだろうか。離婚もそんな人生の分岐点のひとつだ。前号に引き続き、英国(主にイングランド・ウェールズ)で離婚をするときに知っておきたい情報をお伝えしていく。今回は子供の親権・養育、そして財産・不動産の分与の取り決めに焦点を当てていこう。 ※記載の情報は、2020年12月現在のもの。

●サバイバー●取材・執筆/名取 由恵・本誌編集部

基本は共同親権

英国家統計局の調査によると、イングランドとウェールズでは2017年に20万4014人が離婚しており、離婚時の平均結婚年数は12・2年だったという。また、離婚が一番多い年齢層は男性が45〜49歳、女性が40〜44歳だった。これは子育て真っ最中の世代といえる。

離婚時に求められる取り決めの例は以下の通り。

① 子供はどこに誰と一緒に住むか。
② 父親・母親とそれぞれどのくらいの時間を一緒に過ごすか。
③ 子供の養育費をどうするか。
④ 父親・母親は、それぞれどこに住むか。
⑤ 財産、年金、借金などの分与はどうするか。

離婚するにあたって最も大きな悩みとなり得るのが、子供の養育をめぐる問題だろう。前回お伝えしたように、最終的な離婚判決(ディクリー・アブソルート)の前に子育ての取り決めについてお互いに合意し、裁判所から妥当であるという判断を得られなければ、離婚判決は出ないことになっている。

日本と英国の離婚に関して、大きな違いとして挙げられるのが子供の親権問題だ。日本では離婚時に父親か母親のどちらかに親権が定められ、離婚後は単独親権になる。一般的には子供の親権は母親が持ち、離婚後は子供が父親と疎遠になるというケースも残念ながら少なくないと聞く。

一方、英国では未成年の子供の場合、離婚後も父母両方が親権を持つのが一般的。例外として、DV(家庭内暴力)やアルコール・ドラッグ依存など、子供の身に危険が生じる恐れがあるような場合に親権が取り上げられるケースもあるが、原則的には共同親権のもと、父母が子供の養育に責任をもつことになる。夫婦不和で離婚しても、子供にとって父親は父親、母親は母親というスタンスになる。

英国での子供の養育の取り決めは、子供の立場に立って、子供の福利を中心に考えるのが基本。主に養育する親(プライマリー・ケアラーprimary carer)は母親になることが多く、特に子供が小さい場合は、母親が有利になる。子供が16歳以上なら、子供自身が決めることも可能だ。

父親が会社勤務で平日の日中は不在という場合、週末の日曜のみ父親宅、あるいは隔週末の土日曜を父親宅といった形になることが多い。しかし、父親が自営業で融通がきく場合は、一週間7日を完全に分けることもあり、日曜から水曜午前まで父親宅、水曜午後から土曜までを母親宅、または一週毎に父親宅、母親宅に住むなど、完全に二分割しているケースもある。それぞれの家庭の状況によってさまざまだ。

子供の養育費(メンテナンスmaintenance)は、プライマリー・ケアラーに支払われることが多く、子供の数、各親の収入額、各親がどのくらいの時間を子供と過ごすか、以前の結婚相手や現在のパートナーの間に他に子供がいるかなどによって状況は変わる。メンテナンスは子供が16歳になるまで(大学などに進学した場合は20歳まで)支払われる。

リーガルエイドについて

リーガルエイド(Legal aid法的扶助)を受けることができれば、法律相談や調停、裁判にかかる費用が無料または一部無料になる。例えば、過去5年間DVの被害にあった場合や、ホームレスになる可能性がある時などはリーガルエイドが受けられる。他にも、法律相談や裁判にかかる費用を安くできる方法があるので、市民相談を受ける英団体「シチズンズ・アドバイス」に相談してみてもいいだろう。

収入が低い方に流れる財産分与

子供の養育問題とならび、激しい争いのもとになりやすいのが財産分与に関する問題だ。英国では、持ち家などの不動産、年金(国民年金、プライベート年金)、貯蓄、投資、借金などを折半するのが基本だが、夫婦の収入額やどのくらいの期間結婚していたかにも影響される。一般的には、財産分与は収入が多い方から収入が少ない方に流れていく。婚前契約(プレナプシャル・アグリーメントprenuptial agreement)を結んでいなかったセレブや富豪の離婚で、女性側が元夫の総資産の半分をガッポリ受け取るのはこのためだ。

子供の養育、財産分与ともども、夫婦間で話し合って合意が出来れば、自分で必要書類を作成し裁判所に提出することも可能。法的書類を自分で準備したくない、夫婦間で合意できない、夫婦間でコミュニケーションも取れないというときは、調停人を交えて話し合うか、弁護士を雇って双方の弁護士同士でやり取りを行う。合意できない場合は裁判になり、裁判官が双方にとってフェア(公平・公正)と思われる決定を行う。

離婚に伴う悲しみや怒り、復讐心もあって、子供の養育・財産分与をめぐって夫婦間で泥沼裁判劇に陥るパターンは珍しくない。しかし、子供の養育に限っていうと、子供が成人するまでは離婚相手と共同で育てていかなければならない。子供の立場になって、慎重に取り決めをしていきたい。

いずれにせよ、離婚には大きな労力・精神力が必要となることは言うまでもないだろう。が、前に進むためのチャレンジと考えて取り組む宿題と言えるかもしれない。

調停mediationとは?

夫婦だけの話し合いが難しいとき、第三者の調停人(メディエーターmediator)を入れて話し合いを行う。これを調停(メディエーション)と呼ぶ。調停人が法的アドバイスを行うことはなく、あくまで話し合いを補助する役に徹する。調停費用の相場は一人につき1時間およそ£140前後といわれ、弁護士を利用するよりは安上がり。リーガルエイド(法的扶助)=上部囲み参照=の適用対象となる場合もあるので、まずは近所で評判の良さそうな調停人を探してみよう。調停を行っても合意ができない場合は裁判になる。子供にとって、あるいは財産分与について、最適であると考えられる判断を裁判所が行い、判決が下される。

コンセントオーダーConsent Orderとは?

調停の場で調停人を交えて話し合ったとしても、その内容は法的拘束力(リーガリーバインドlegally bind)がないので、後で問題がでたとしても、口約束ではどうすることもできない。そこで、夫婦同士、または調停人を交えての話し合いで合意に至った内容は、弁護士に書類を作ってもらい、裁判所にコンセント・オーダー(同意に基づく命令)の発行を申請しておくことをお薦めする。そうすれば、相手が取り決めに従わない場合には裁判所がコート・オーダー(Court Order・裁判所命令)を行使して、取り決めを守るように命じることができる。

ぺアレンティングプランParenting Planとは?

子供の養育の取り決めの内容は、事細かに決めておく必要がある。例えば、週日の食事・就寝の時間、何曜日にどちらの家に行くか、学校の送迎は誰がするか、放課後のアクティビティは誰が連れて行くか、週末・学校の休暇・クリスマス・休暇旅行はどうするか、親子の連絡手段(電話、テキスト、Eメール、ビデオ通信など)と頻度、学校行事、子供の誕生日、新しいパートナーができた時に子供にどう紹介するかなど。話し合いで合意に至った内容は特に公的書類にする必要はないが、ペアレンティング・プランとして書面に記録しておくと良いだろう。

養育費maintenanceはいくらもらえる?

養育費の金額に一定の決まりはないが、目安としては給料額の10~20%といわれる。英政府の公式サイトに養育費が計算できるページ(www.gov.uk/calculate-child-maintenance)があるので参考にすると良いだろう。子供と一緒に過ごす時間がメンテナンスの金額に関係するので、父親・母親が7日間を二分割して養育する場合、メンテナンスが発生しないこともある。養育費に関して、当人同士が合意できない場合は、代わりに養育費を計算し、集金をしてくれるチャイルド・メンテナンス・サービス(Child Maintenance Service)という機関を利用することも可能。

また、養育費とは別に、子供の世話などが理由で長期間無職だった専業主婦が離婚後すぐに就職できず収入が得られない場合などは、元夫に扶養命令(メンテナンス・オーダー Maintenance Order)が出されることもある。

ハーグ条約Hague Conventionとは?

ハーグ条約とは「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」で、2014年4月に日本も締約国となった。これにより、例えば英国在住の日英カップルが離婚した際、日本人女性が子供を連れて日本に帰りたいと思っても、英国人の父親の同意を得ることなく子供を日本に連れ去ったり、父子の面会交流を妨げたりすることはできなくなった。英国では、親が他方の親の同意を得ないで子供を国境を越えて一方的に連れ去ると、たとえ実の親でも刑法違反となり、英国に再渡航した際に逮捕されることもある。つまり元配偶者が認めない限り、合法的に子供を連れて日本に帰国するのは事実上不可能。知らなかった、では済まされないので十分気をつけたい。

週刊ジャーニー No.1171(2021年1月14日)掲載