離婚 その時どうする?【前編】事務手続き

コロナ禍の影響により、英国で離婚が増加しているという。離婚というとマイナスなイメージを抱かれがちだが、自分が幸せに生きるための人生のリセットともいえるだろう。また、「備えあれば憂いなし」の言葉通り、予備知識があればいざという時に冷静に対処できるはず。たとえ離婚する予定がないにしても知っておいてソンはない。まずは、英国(主にイングランド・ウェールズ)で離婚する際の基礎知識をお届けしよう。※記載の情報は、2020年12月現在のもの。

●サバイバー●取材・執筆/名取 由恵・本誌編集部

英国において1年で最も離婚件数が多いのは1月。クリスマス休暇が終わった1月の仕事始めにあたる第1月曜に離婚の問い合わせが急増することから、弁護士たちはこの日を離婚の日(Divorce Day)と呼んでいるという。家族・親戚と一緒に過ごすストレス、プレゼントやパーティー続きで支出が重なり喧嘩になるなど、この時期に離婚を決断する人々が増えるのは理解できる。

2019年に行われた英国家統計局の調査によると、イングランドとウェールズでは結婚した夫婦の42%が離婚し、そのうち、夫婦が結婚20周年を迎える前に離婚する確率は60%という。日本では夫婦間に問題があっても子供のために婚姻を続けるケースも多いようだが、英国人をはじめとする欧米人は愛情が無くなったら即離婚という考えの人が少なくなく、残念ながら離婚は身近な問題といえる。ただ、英国ではすべての離婚について、裁判所に申請し、裁判所の承認が得られなければ離婚成立とならない。このため、、手続きも少し複雑になる。

それでは、英国の中でも在英邦人の多くが居住するイングランド・ウェールズで離婚する際の手順を説明していこう。特段、問題がない場合でも、すべての手続きを完了するのに4〜6ヵ月要するといわれる。そのプロセスは本ページ内で示すように、4段階に分かれる。

なお、現行の離婚制度(1973年法)が変更になることが2019年4月に決定している。現行では申請時に離婚理由を述べることにより夫婦関係がさらに険悪になって泥沼愛憎劇に陥るケースが多いことから、新制度では離婚理由の申告方法が変更される見込み。また、申請から離婚判決が出るまで最低でも6ヵ月の待機期間が新たに置かれるという。新制度は2021年後半に施行される予定になっているので注意が必要だ。

また、次号後編では、財産・不動産分与、子供の養育、養育費についての取り決めと手続きを詳しく解説していく。

離婚成立までの基本的な4段階

①離婚の申し立て(ペティションThe Petition)

離婚の申し立てを行う者(ペティショナーpetitioner)が離婚申請用紙(divorce application form D8=ディボース・ペティションdivorce petitionとも呼ばれる)を最寄りのディボース・センター(Regional Divorce Centre)に郵送。離婚申請費用550ポンドを支払う。離婚の理由も申告する必要がある。弁護士を通さない場合はオンラインでも申請可能。

②申し立ての返答(リスポンスThe Response)

内容に問題がない場合は、ディボース・センターから申請書受領の確認書と整理番号(case number)が返送される。離婚申し立てを受ける配偶者(リスポンデントrespondent)宛てにも送達受領書(acknowledgement of service form)が送られるので、リスポンデントは異議申し立てをするかしないかを決める。

③離婚仮判決(ディクリー・ナイサイDecree Nisi)

リスポンデントが異議申し立てをしなかった場合、次は離婚仮判決(ディクリー・ナイサイDecree Nisi)を申請。これは、裁判所が離婚手続きに問題がないことを認めるもので、この仮判決が出ると、ほぼ離婚が決まったことになる。もし、配偶者が離婚に意義申し立てをした場合、双方が裁判所に出頭、裁判で話し合いを行い、それによって裁判官がディクリー・ナイサイを発行するかどうか決定する。裁判所からディクリー・ナイサイが発効となる日時を記した手紙が届く。

④離婚判決(ディクリー・アブソルートDecree Absolute)

ディクリー・ナイサイが発効されてから43日間(6週間と1日)待った後、最終的な離婚判決(ディクリー・アブソルートDecree Absolute)の発行を申請。この時点までに、財産・不動産分与、子供の養育、養育費についての取り決めと手続きを終了しておくこと。ディクリー・アブソルートは、ディクリー・ナイサイ発効の1年以内に発行を求める申請を行う。ディクリー・アブソルートの証書が届くと手続きは終了し、晴れて離婚完了!

離婚の話が出たら、まずやることは?

何はともあれ、まずは英政府公式サイトの離婚関連ページ(https://www.gov.uk/divorce)をじっくり読むこと。必要な情報はすべてここにある。離婚申請用紙などの各書類もここからダウンロードできる。何から始めていいかわからない場合は、市民相談を受ける英団体『シチズンズ・アドバイスCitizens Advice』を利用するという手段もある。シチズンズ・アドバイスで離婚申請用紙の書き方も教えてくれるので上手に利用するのも一案。また、弁護士も初回のみ格安でコンサルテーションをしてくれるところが多い。

離婚の理由はどう選ぶ?

離婚を申請する際には、離婚の理由(Grounds for divorce)を次の5つの中から選ぶ。

*不貞行為(Adultery)
配偶者が他の異性と性的関係を結んだため。ただし、配偶者による不倫の発覚後も夫婦として6ヵ月間一緒に暮らした場合は不可。

*理不尽な行動(Unreasonable Behaviour)
配偶者が、一緒に暮らすことが不可能になるような行動を取ったため。身体的・精神的暴力、アルコール依存、ドラッグ依存、生活費の支払いの拒否など。

*遺棄(Desertion)
配偶者が過去2年半のなかで2年以上、相手の同意や適当な理由もなく置き去り・失踪したため。

*夫婦同意のうえで、破局状態が2年以上継続
お互いに同意のうえ、2年以上別々の生活をしている(同じ家で暮らしていても、寝室が別で食事も別というように家庭内別居状態であれば破局と認められる)。
なお、不倫やDVなど決定的な理由が挙げられない場合は、離婚申請するまで別居しながら最低でも2年間待つ必要があることになる。

*夫婦同意ではないが、破局状態が5年以上継続
相手が同意していなくても、5年以上破局していれば離婚申請できる。

弁護士は雇わないといけない?

自分と配偶者が印鑑を押した離婚届を役所に提出して終了、という日本と異なり、英国は裁判所を通すため、離婚手続きに弁護士(ソリシターsolicitor)を使うことが多い。しかしながら必ず弁護士が必要か?といえば、答えはノー。 子供の養育費、財産分与について夫婦間で話し合って合意ができれば、自分で必要書類を作成し裁判所に提出することも可能。しかし法的公文書を英語で作成するのはかなり面倒、あるいは自信がないという人もいて当然。ただでさえ離婚話で疲労を感じているときに神経を使う作業はストレスを増大させる。しかも離婚するくらいのこじれた夫婦関係で、夫婦が共同作業をするのはハードルが高い。法的書類を自分で準備したくない、夫婦間で合意できない、夫婦間でコミュニケーションも取れない、というときは、弁護士を雇って双方の弁護士同士でやり取りを行う。弁護士にも専門があるので、家族法(ファミリーローfamily law)専門の弁護士を選ぶこと。弁護士同士のやり取りでも話がまとまらない場合は裁判になる。

誰でも英国で離婚できるの?

イングランド・ウェールズで離婚の手続きができるのは次の条件に当てはまる者に限られる。

  • 英国の法律で婚姻していること。
  • イングランド・ウェールズで、1年以上婚姻関係が続いていること。
  • 婚姻関係が破たんしていること。
  • イングランド・ウェールズに定住所があること。

離婚にかかる費用は?

英国での離婚に踏み切る際、もっとも気になる事柄のひとつはその費用。いくらかかるかケースバイケースだが、いくつかシミュレーションしてみたい。

その1

あなたから離婚を切り出し、相手も合意、特に難しい問題がないケース
ディボース・センターに支払う費用…550ポンド
弁護士費用…およそ450〜950ポンド
合計1000〜1500ポンドほど

その2

上記に加え、財産分与、子供の養育などの取り決めに弁護士を使う場合…簡単なケースでもおよそ500〜800ポンド
合計1500〜2500ポンドほど

その3

複雑なケースではさらに費用がかさむのは言うまでもない。万が一、合意に至らず裁判を行うとなると、弁護士費用と裁判費用で総額2万5000〜3万5000ポンドは覚悟する必要があると言われる。

これらの数字はあくまでも目安。弁護士費用は地域や弁護士の経験によって異なり、1時間につきおよそ£120〜£400と幅広い。離婚手続き用にお得なパッケージ料金(divorce package)を出しているところもある。しかし安いだけの理由で選ぶと、あまり仕事をしてくれなかったり後回しにされたりして、なかなか手続きが進まないこともある。弁護士選びは重要なので、周囲の離婚経験者に紹介してもらうのもよいだろう。なお、低所得者、貯蓄が少ない者に対して、離婚申請費用、裁判費用を免除・補助する制度もある。

結婚相手から離婚を言い出された場合は?

ディボース・センターからの書類が自分宛に届くので、「離婚に同意するか、異議を申し立てるか」について、8日以内に返答する。これを無視すると、裁判所があなたの返答なしにそのまま離婚裁判手続きを進め、裁判が不利になることもある。突然の離婚の申し出に動揺して、返答などしたくもないかもしれないが、得になることは少しもないので、期日内に必ず返答しよう。異議を申し立てる場合は、専用書類に理由を書いて、245ポンドの料金を支払う。同意に至らない場合は双方裁判所に出頭し、離婚をめぐる話し合いが裁判で行われることになる。離婚を決意するほど関係が冷え切った結婚相手の心を取り戻すのは大変困難だ。何が自分にとっての一番の幸せか冷静に考えたい。

週刊ジャーニー No.1170(2021年1月7日)掲載