欧州屈指のプレイボーイ恋に堕ちる

 

 戦後も英国領や植民地などを訪問し、1920年代を通して、父ジョージ5世の代役として世界中を訪問したエドワードは、持ち前の人懐こい性格と端麗な容姿、しかも「未婚の王太子」という身分が一般大衆に受け、当時最もメディアを賑わす国際的スターとなる。王族として初めて煙草を吸っている姿を写真に撮らせたり、ラジオ放送に出演したりしたのもこの頃だ。子供の頃から平民や貧民への共感が強かったエドワードは、身分という垣根を自ら取り払い、一般市民と気軽に言葉を交わしたり、王族が通常しないようなこともあえてしてみたりし、そんな気さくで型破りな態度が人気に拍車をかけた。1922年に来日した折りは、熱狂的な歓待を受けている。
 


1919年にカナダで撮影された、軍服姿のエドワード
 世界中から注目を浴び、これまで「あら捜しするばかりでまともな評価をくれなかった」父との溝も埋まっていくように思えた。おそらく、この時ほど、エドワードが世界を味方につけたと感じたことはなかったのではないだろうか。
 しかし、まもなく父親との間にはより重苦しい不協和音が鳴り響くことになる。エドワードは人気にまかせて多くの女性、しかも既婚女性と浮名を流すようになり、結婚して王位を安定させる様子がまったくなかったからだ。議員夫人、貴族令嬢、女優、歌手と交際範囲は広く、その派手な女性遍歴から「ヨーロッパで屈指のプレイボーイ」「世界で最も魅力的な独身男性」というレッテルまで貼られると、ジョージ5世は王冠をエドワードに託すことに不安を覚えるようになる。 失礼千万を承知で主観を述べるが、エドワードが現在のチャールズ王太子ほどの容姿であれば話は違っていたかもしれない。しかし、美男美女の両親をして、エドワードは確かに異性がうっとりしてしまうような美男子であったと断言できる。すらっとした細身の井出達、持ち前のセンスの良さも相まって、女性が放っておかなかったのも無理はない。
 議員夫人のフリーダ・ダドリー・ウォードや子爵夫人のテルマ・ファーネスなど、数年の長きにわたりエドワードと愛人関係を結んだ女性もいるが、彼にとっては遊びの対象でしかなかった。こうして30台も後半に差し掛かった1931年、エドワードはファム・ファタール(運命の女性)となるウォリス・シンプソンに出会う。
 紹介したのは他でもない、当時愛人の座にいたテルマだった。ウォリスのアメリカ人らしい快活さ、知的でウィットに富む話しぶり、将来の国王であることを度外視したあしらいぶりは、エドワードにはきわめて新鮮に映った。そして、テルマがひとり小旅行に出かけ、「私のいない間、彼をよろしく頼むわね」とウォリスに託して戻ってきた時には、2人は懇ろになっていたという。出会いから数年とおかずして、ウォリスは「王太子の愛人」となったのである。
 


1918~23年に愛人であったフリーダ・ダドリー・ウォード=右=と
1930~34年まで愛人であったテルマ・ファーネス=同左。



 ウォリスは、生後まもなく父親が他界したことで、母親が女手ひとつで育てた娘であった。上流階級社会で育つものの、周りは常に自分より良い服を着て、良い家に住んでいる子供ばかりで、経済力のある男性と結婚することが幼少時代からの夢だったという。しかし、19歳で結婚した海軍中尉はアル中で女癖が悪く、10年後に離婚。その後まもなく、船舶会社を経営するアーネスト・シンプソンと再婚する。アーネストの父親は英国人の企業家で、英国の社交界とつながりのある、華やかな結婚生活にウォリスも満足していたとされている。 ウォリスとエドワードとの情事は、当初誰もが、これまでの愛人関係同様、数年で終わるものと思っていた。ウォリスもアーネストもそう信じて疑わなかった。ウォリスは王室とのコネクションに心躍らせ、アーネストも、自分の妻が王太子のお気に入りであることに鼻を高くし、円満な三角関係を楽しんでいた。しかし、エドワードだけは違った。このウォリスとの出会いを境にまるで媚薬を盛られたかのように、これまでの女性遍歴にピリオドが打たれるのである。
 ウォリスは決して絶世の美人ではない。しかし、若い頃から条件の良い男性を射止めるために会話術やダンススキル、ファッションセンスなどを磨いていたこともあり、確かに知的で魅力的な女性であった。毎日、新聞や経済誌をくまなく読み、政治、経済はもちろんのこと、あらゆる話題に精通していたと知られる。じっと相手の目を見て話し、多くの男性が彼女と話していると、まるで自分が崇高な人間にでもなったかのように自尊心が満たされるのだという。同時にウォリスはまた、欲しいものを意のままにし、慇懃無礼でもあった。しかし、彼女のそんな支配的な性格にエドワードは、他の女性にはない強烈な魅力を感じ、詰ったり、叱ったりされればされるほど、ウォリスに依存していくようになる。15分でもウォリスが席を外せば、彼は不安になり、彼女の姿を探さずにいられないほどだったという。


 

マドンナもこの恋に注目 映画『W.E.』

『E.T.』ならぬ『W.E.』は、昨年ロンドンを中心に撮影され、今年の暮れまたは年明けに公開を予定しているマドンナの新作映画。
シンプルなタイトルは「Wallis」と「Edward」の頭文字からとられ、2人の恋をテーマにしている。リサーチに3年を費やしたマドンナは、「エドワード8世という1人の男性が、愛する女性のために王冠を捨てた理由を探っているうちにハマッてしまった。とにかく真相を突き止めたくなった」と映画制作に踏み切った理由を語っている。
また、「これまで、ひどい中傷をされてきたウォリスの汚名を挽回する時がきた」とし、映画の中のウォリスは情熱的なヒロインとして、クイーン・マザーが意地悪な義妹として描かれている。自身がアメリカから英国に移住し、疎外感を味わったことのあるマドンナは、セレブとして英国の社交界で生き抜くという点で、ウォリスに深い共感を抱いたようだ。
9月上旬にベネチア映画祭でプレミア上映された同作は、賛否両論の評価を受け、とくに英国のメディアからは「予想よりは良くできていたが、面白いシーンがまったくない」「衣装がきれいなだけの見せかけの映画」などと酷評を受けてしまったが、上映後のマドンナは「自信作」と笑顔を見せた。
ちなみに、今年のアカデミー賞受賞作『英国王のスピーチ』が公開された際、マドンナは似たような映画になるのではと懸念したが、「まったく違う視点で描かれた映画だった」と胸をなでおろし、むしろ同作が成功を収めたことで注目を集めることに期待を寄せるようになったという。
同作でウォリスを演じるのは、映画『Brighton Rock』『Made in Dagenham』などに出演したアンドレア・ライズブローAndrea Riseborough、エドワード8世を映画『An American Haunting』やテレビシリーズ『Into the Storm』のジェームズ・ダーシーJames D'Arcy が務める。
共演は、アビー・コーニッシュ、オスカー・アイザック、リチャード・コイルなど。