ブラック・キャブも油断は禁物

 


 ミニキャブに対し、安心して利用できるはずのブラック・キャブ(黒塗りタクシー)だが、残念ながら、100%安全とはいえなくなってしまっている。
 昨年4月、ブラック・キャブの運転手、ジョン・ウォーボーイズ(John Worboys)被告(52)=写真=が、少なくとも12人の女性に性的暴行を加えた罪で無期懲役の判決を言い渡され、この事件はロンドン市民、特に女性に大きな衝撃を与えた。
 南ロンドンのロザハイズ出身、現在は南イングランドのプール在住というウォーボーイズ被告は元アマチュア・ポルノ男優にしてストリッパーとしての職歴もある人物。
 手口はこうだ。①夜、できれば酔った状態の女性のひとり客を狙い、乗車させる。②競馬、またはカジノでひと儲けしたと話し、札束でふくらんだスーパーの袋を見せる。③孤独な身なので、いっしょに祝ってほしいとし、車のトランクからシャンパンかウォッカを取り出して勧める。④このドリンクには、粉末状にした鎮静剤を混入、被害者が意識もうろうとなったところで後部座席に移動、暴行を加える。
 同様の手口で、12年間にわたって最高500人の女性が被害にあったと見られている。また、2007年、ウォーボーイズ被告から性的暴行を受けたとする学生が警察に通報、同被告が初めて逮捕された時点で警察がさらなる捜査を行っていれば、08年2月に再逮捕されるまでの間、被害の拡大は防げたとして警察への激しい非難も巻き起こった。
 被害者のひとりはこう話す。「タクシーの運転手なのに、勤務中にアルコールを勧めるなんて、ヘンな話」と思ったという。この「何かヘン」「何かおかしい」という感覚を覚えた時、この後の判断が明暗を分ける。自分で発した危険信号をいかすか無視するかーあなた自身が試されていると言って過言ではないだろう。 

ヘンドン在住 E花さん(34歳)のケース
 会社の同僚の送別会があり、その帰途で思わぬ経験をしたと話すE花さんは、ロンドン在住4年目。かなり酔っていたとはいえ、流しのミニキャブに乗るのは言語道断、乗るならブラック・キャブということを考えるだけの分別は十分残っていた。なかなか空車がつかまらなかったが、ようやくオレンジ色の「TAXI」のライトがともるブラック・キャブをひろい、乗車。時間は深夜11時半ごろだったと記憶する。疲れていたこともあり、少し眠ってしまったE花さん、目覚めた時にはタクシーが完全に停まっているのに気づいたのだった。
 はっとして周りを見渡すと、運転手が隣に座っている。
 「きみ、かわいいね。中国人? 日本人?」
 運転手は、熱心にE花さんを口説き始めた。このままではいけない。
 幸い、中東系とおぼしき運転手は、中肉中背。そこまで腕力がありそうにないこともE花さんに勇気を与えた。E花さんは意を決して、運転手の手を両手で握り締めて、相手の目を見て言った。
 「あなたを信じています。運転に戻ってください」
 運転手が意表をつかれ、空気の流れが変わった。やがて、運転手は何やらつぶやきながらも運転席に戻ったのだった。
 自宅は、ヘンドンの駅からさらに5分ほど歩く必要があったが、自宅を知られてはいけないと思ったE花さんは駅の前で下ろしてと頼んだものの、駅に着くまでの時間が何十分にも感じられた。駅に着き、平静を装い、チップなしの値段を払って下車したE花さんだったが、自宅に向かう道すがら、涙が出てくるのをとめることができなかった。

 

※前述の「Crime Prevention」担当オフィサー、ウィル・デイヴィス氏も、編集部からの「ブラック・キャブの運転手に襲われそうになったら、どうすれば良いんでしょうか」という問いには、有効な策を答えることができなかったが、デイヴィス氏は、「とにかく被害にあったら警察に通報してください」「私たちに話してください」と繰り返し訴えていた。