人ごみ、公共交通機関で多発! のスリ犯罪
 8年前の取材時、旧東欧地域から移住してきた「スリ家族」の存在をメトロポリタン・ポリスのオフィサーから聞かされた。彼らが本当に家族かどうかは疑問で、働き手は常に、英国では有罪にできない「10歳未満」の子供たち(出生証明書が正しいか、それを確認する手立てがない)。稼ぎ時は人通りの増える昼前から午後2時、3時ごろ、多い時には1時間で2000ポンドもの大金を得る荒稼ぎふり。カモとなる旅行者や学生が通りから減る午後5時ごろには終業という毎日で、子供たちが補導されては「親」が引き取りにくるという繰り返しとのことだった。
 旧東欧地域の国が相次いでEUに加盟し、英国内で合法的に働ける道が開けたこともあり、今回の取材中、「旧東欧地域から出稼ぎにくるスリ集団」という直接的な言葉はさすがに出なかったが、あいかわらず「ジプシー」と呼ばれる住所不定の移住者がスリの犯人であるという認識に変わりはないようだ。

 

【人ごみの中】

スリのターゲットとして好まれるのは、ずばり「バッグを背負った日本人女性の旅行者」。多額の現金を、バッグで背負って持ち歩き(手が突っ込みやすい)、翌日には湖水地方やスコットランド、はたまた別の国に移動してしまうことが多く(法廷で証人になることが難しい)、体格的・身体能力的に男性より劣ることが普通だから、というのがその理由。差別などからではなく、理由はきわめて論理的というわけだ。

特に旅行中、両手が自由になり便利なことから、背負えるタイプのバッグを持ち歩きたくなるが、絶対に避けるよう、日本から来英予定の肉親、知人、すべての方々に伝えること。例え貴重品が入っていなくても、バッグが背中にあるというだけで狙われると心得ておいてもらおう。もしこのタイプのバッグを持ち歩くなら、リージェント・ストリート、オックスフォード・ストリートといった目抜き通り(信号待ちの時がことさら危険)、ポートベロ・マーケットなど人ごみの多いところでは、格好悪くても前に抱えるようにすること。

▲メトロポリタン・ポリス提供
スリ集団の中でもスリ実行犯は、サイフを抜き取る手をかくすために上着やウィンドーブレーカー、地図(年季が入ったものであることが多く、とても観光客のものとは思えない)を利き腕とは逆の腕にかけたり、持ったりしていることが多い=写真。もし、ティーンエイジャーのグループに、そういう格好の子供を見かけたら、要注意(偏見はいけない、などとキレイごとを言ってはいられない)。

 

【バス、地下鉄】

バス、地下鉄内での手口として多いのは、乗り降りの際、前の人が突然止まったがゆえに自分も立ち止まらざるを得なくなったものの、その後ろの人は急には立ち止まれず、自分にぶつかってくるというもの。この後ろからぶつかってきた人がスリの犯人。その犯人が抜き取ったサイフは、すぐそばに立っていた第3の仲間の手に渡り、それを確認する間もなく、このグル3人はそれぞれ別方向へ逃げていくというシナリオが展開されることも珍しくない。なお、エスカレーターでも同様の手口が見られる。

バス、地下鉄、エスカレーターのいずれを利用する際にも、バッグは自分の体の前に置くことが鉄則。男性で、ズボンの後ろポケットにサイフを入れている場合、面倒でも、ポケットに「ふた」がついているなら、ふたをしてボタンをかけるよう習慣づけること。

 

ハックニー在住 B恵さん(28歳)のケース
 「普通の格好をしているけれど、顔つきがずる賢そうな子供たち3~4人のグループで、何かいやな予感がしたんです」と話すB恵さんは、ロンドン市内の美術大学に通って2年目。ケチャップを上着にかけられた、青いバッグに真っ白いペンキをかけられた、といった、いわゆる「ジプシー」の子供たちによる手口(いずれも、そうして注意をそらし、その間にバッグに手を入れサイフを抜き取る)について、既に聞いたことがあったため、このグループが正面から近づいてきた時、B恵さんは思わず身構えた。
 すれ違うまで、あと数メートルというところまで迫った次の瞬間、はたして、グループのひとりの少女が何か大声で叫びながら、B恵さんのショルダーバッグに向かって突進してきたのだという。
 「私のサイフ、盗ったでしょう! 返してー!!」
 少女はそう叫んでいた。
 驚きのあまり力がぬけ、バッグの中に少女の手が入りそうになったが、再び手に力を込めてバッグを押さえなおしてから、B恵さんも必死で叫んだ。
 「No, no! Help ! Help!」
 幸い、近くを通りかかった若者2人がB恵さんのほうに駆け寄ってきてくれたため、子供たちはサッと散り散りになり、別々の方向に走って逃げていった。若者2人に礼をいうB恵さんだったが、声の震えをおさえることができなかった。