ポントカサステ水路橋

写真左:ブレナヴォンの産業景観(アイアンワークス)/同右:グウィネズのエドワード1世の城郭と市壁(コンウィ城)

写真左:オークニー諸島 © VisitBritain/同右:ジャイアンツ・コーズウェイ

●サバイバー●取材・執筆・写真/本誌編集部

教育と文化、そして平和のための科学の発展を推進する目的で1945年にロンドンで創設されたユネスコ(UNESCO)が活動の一環として行う世界遺産の登録・保護。現在、参加国は195ヵ国におよび、文化遺産として832件、自然遺産として206件、複合遺産(文化と自然の両方を満たしている物件)として35件の計1073件が登録されている。
そのうち英国に存在するのは文化遺産26件、自然遺産4件、複合遺産1件の計31件。エジプトのピラミッドやペルーのマチュ・ピチュ遺跡に比べると少々地味な印象は否めないものの、リストに並ぶひとつひとつを改めて見てみると、英国の魅力が浮かび上がってくる。
今回は、全31件の世界遺産を「秘境・絶景」「史跡・宮殿・名建築」「街並み」「産業革命」「ロンドン日帰り」の5つに分けてまとめた。次の休みには、車、あるいは公共交通を駆使して出かけてみてはいかがだろうか?

秘境・絶景

人間の営みと自然の調和[2017年登録]

イングランドの湖水地方
The English Lake District map⑩

© VisitBritain
氷河期に形成された渓谷や湖が点在し、手付かずの自然が広がる湖水地方は、いわずと知れた英国の観光名所。それゆえに、2017年文化遺産登録された際に、「まだだったの?」と思った人も多いに違いない。自然と人間の営みによって育まれた風景や、芸術や文学との結びつきが高く評価される。観光の拠点はウィンダミア(Windermere)の町が便利。
www.lakedistrict.gov.uk

1億8500万年の歴史を刻む[2001年登録]

ドーセットと東デヴォンの海岸
Dorset and East Devon Coast map㉖

© Saffron Blaze
東デヴォンからドーセットまで、約150キロにわたる風光明媚な海岸線。恐竜が生きた中生代の地層が刻まれ、ジュラシック・コーストの名で呼ばれる。化石発掘体験、波が浸食してできた「ダードル・ドア(Durdle Door)」=写真=は観光の目玉。
https://jurassiccoast.org

新石器時代の遺跡の宝庫[1999年登録]

オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地
Heart of Neolithic Orkney map①

© W. McKelvie
スコットランド沖に浮かび、70もの島々からなるオークニー諸島。人口は約21,000人。本島にある新石器時代の遺跡群が文化遺産に指定される。なかでも紀元前2500~2000年に建てられたと推定されるリング・オブ・ブロッガー(環状列石)=写真=は同諸島を代表する遺跡。直径104メートルの円に沿って27の立石が鎮座し、実際に触れることができる。特に日没時の幻想的な光景で、観光客を魅了している。エディンバラ他から州都にあるカークウォール(Kirkwall)空港へ飛行機が就航。
www.visitorkney.com

巨人の土手道[1986年登録]

ジャイアンツ・コーズウェイとコーズウェイ海岸
Giant's Causeway and Causeway Coast map⑥

六角形の石が海岸線にぎっしりと並ぶこの奇景は、ご当地アイルランドの巨人伝説をもとに、「巨人が作った土手道」の名で呼ばれる。だが、実際は6000年前の火山活動によって形成された石柱が地上に現れたもの。その数およそ4万本! 約8キロにわたって続いている。ナショナル・トラストのウェブサイトでは、散策の拠点となるビジター・センターからのウォーキング・ルートが紹介されているので要チェック。
www.nationaltrust.org.uk/giants-causeway

英国唯一の複合遺産[1986年登録]

セント・キルダ島
St Kilda map②

© Eileen Henderson
厳しい自然環境のなか、2000年以上にわたって人々が暮らしたとされるスコットランドの群島。1930年に最後の島民36人が去って以来、無人となった。5つの島からなり、新石器時代から近代までの生活跡が見られ、全域が自然遺産および文化遺産として登録される。スコットランドのスカイ島他から船でのデイ・トリップなどで上陸可。
www.kilda.org.uk
遠く離れた、英領4つの世界遺産

© John Cummings
英国が誇る世界遺産は本土や周辺諸島だけにとどまらない。特有の生態系を誇るとして自然遺産に登録されるのが、南大西洋に浮かぶ海洋生態系の火山島「ゴフ島とインアクセシブル島(Gough and Inaccessible Islands)」㉛および、南太平洋に位置する無人の珊瑚島「ヘンダーソン島(Henderson Island)」㉚。希少な鳥類のほか島固有の生物が生息する(いずれも絶海の孤島と呼ばれ、観光地化していない)。
一方、カリブ海の「バミューダ島の古都セント・ジョージと関連要塞群(Historic Town of St George and Related Fortifications, Bermuda)」㉙は、植民地時代の町並みが残り、文化遺産として登録される。
さらに、イベリア半島に位置する英領ジブラルタルで2016年に文化遺産に登録されたのは、「ゴーハムの洞窟群(Gorham's Cave Complex)」㉘。岬をなす石灰岩でできた「ジブラルタルの岩」には200あまりの洞窟があり、中でもゴーラム=写真=他4つの洞窟からは、10万年以上前にこの地で暮らしていたネアンデルタール人の生活跡が発見されている。洞窟内へはツアーでのみ入ることが可能だが、人数・日程が限られているので注意。

史跡・宮殿 名建築

ローマ帝国最北ライン[1987年登録]

ローマ帝国の国境線(ハドリアヌスの長城)
Frontiers of the Roman Empire (Hadrian’s Wall) map⑦

紀元2世紀、当時英国を支配していたローマ帝国のハドリアヌス皇帝が、北方部族の侵入を防ぐために建設した、長さ約120キロの城壁跡。現存するローマ時代の遺跡としては英国最大。場所によっては高さ6メートルにも達したとされる。観光拠点の町はカーライル、またはニューカッスル。バスでの観光も可能。
http://hadrianswallcountry.co.uk

要塞建築の範例[1986年登録]

グウィネズのエドワード1世の城郭と市壁
Castles and Town Walls of King Edward in Gwynedd map⑬

© Wales Tourist Board
13世紀後半にウェールズを征服したイングランド王エドワード1世によって建てられた堅牢な4つの城塞。英国の城塞の中でも最も保存状態がよいとされるコンウィ城、48年の歳月と多額の資金を費やして完成したカナーヴォン城=写真=のほか、ボーリマス城、ハーレフ城が名を連ねる。北ウェールズのグウィネズに分布するので、車での移動が便利。
www.visitwales.com

キリスト教、北の聖地[1986年登録]

ダラム城と大聖堂
Durham Castle and Cathedral map⑧

北イングランドのキリスト教の聖地として知られるダラムの町で、川と緑に囲まれた小高い丘の上にたたずむダラム城と、すぐ横に建つ、大聖堂=写真。国内最大規模のノルマン様式建築の大聖堂は、精巧かつ壮麗なつくりで一見の価値あり。どちらも一般見学が可能だが、ダラム城は大学として利用されているため、ガイドツアーでの内部見学となる。
www.thisisdurham.com

チャーチルの生家[1987年登録]

ブレナム宮殿
Blenheim Palace map⑰

スペイン継承戦争の最中にジョン・チャーチル公爵がフランスを破った功績を讃えてアン女王から下賜された、オックスフォードシャーにある宮殿。チャーチル元首相の生家としても知られ、バロック様式の宮殿内では絢爛豪華な貴族の暮らしを垣間見ることができる。広大な敷地の庭も必見!
www.blenheimpalace.com

巨大かつ美しき廃墟[1986年登録]

ファウンテンズ修道院遺跡群を含むスタッドリー王立公園
Studley Royal Park including the Ruins of Fountains Abbey map⑨

© Mike Peel
リーズ近郊の町リポンにある、12世紀に創設されたシトー派の修道院跡。16世紀にヘンリー8世により閉鎖されたが、18世紀に入って庭園へと変化した。自然を背景にたたずむ廃墟には、神秘的な雰囲気が漂う。
www.nationaltrust.org.uk

鋼の恐竜!?[2015年登録]

フォース橋
The Forth Bridge map③

スコットランドのフォース湾にかかる、まるで恐竜を思わせる巨大な鉄道橋。英全土に鉄道網が張り巡らされた19世紀末、10年の歳月をかけて完成。建設には日本人技師・渡邊嘉一が関わっている。エディンバラからアクセスが良く、列車に乗って渡ることも可能。
www.theforthbridges.org

街並み

都市開発により危険遺産に…[2004年登録]

海商都市リヴァプール
Liverpool – Maritime Mercantile City map⑫

17世紀以降、国際交易によって発展した一方、奴隷貿易の中心港として負の歴史も持つ。時代を象徴する建造物・倉庫群などの街並みが文化遺産に登録されたが、都市開発によって景観が損なわれつつあることから、2012年には危険遺産に指定された。
www.visitliverpool.com

旧新の調和で美観を保つ都市[1995年登録]

エディンバラの旧市街・新市街
Old and New Towns of Edinburgh map④

中世の面影が色濃く残る旧市街と、18世紀以降に造られた新古典主義様式の新市街の美しいコントラストで観光客をとりこにするスコットランドの首都。エディンバラ城からホリルードハウス宮殿までの1本道は「ロイヤル・マイル」と呼ばれ、歴史的建造物やカフェ、ショップが立ち並ぶ。
http://edinburgh.org

ローマ時代の温泉の街[1987年登録]

バース市街
City of Bath map㉕

ローマ時代に温泉街として繁栄し、18世紀には上流階級の人々が集う保養所として親しまれてきた街。ジョージアン様式の建物が数多く残り、美しい街並みを生み出している。古代ローマ人によって造られた「ローマン・バス」は、観光の目玉となっている。
www.visitbath.co.uk

産業革命

ユートピア都市共同体[2001年登録]

ニュー・ラナーク
New Lanark map⑤

© mrpbps
19世紀初頭、産業革命による悲惨な労働環境を目の当たりにした社会主義者ロバート・オーエンがニュー・ラナーク紡績工場を買収して、作り上げた産業ヴィレッジ。住環境・教育の改善、ヘルスケア制度が整えられ、産業地域の模範となった。ビジター・センターを中心に、工場跡や、再現された労働者の住宅などを歩いて見て回ることができる。エディンバラ他から車で1時間。
www.newlanark.org

大量生産技術が生まれた地[2001年登録]

ダーウェント峡谷の工場群
Derwent Valley Mills map⑭

© Robert Powell
産業革命初期に造られた綿紡績工場群。18世紀の発明家リチャード・アークライトが手がけた水力紡績機の導入によって大量生産を可能とし、近代工業産業の幕が開けた。イングランド中部ダービーから北に伸びるダーウェント峡谷沿いに工場などが点在する。広範囲にわたるが公共交通でも移動可。
www.derwentvalleymills.org

産業革命期のモデル・ヴィレッジ[2001年登録]

ソルテア
Saltaire map⑪

上のニュー・ラナーク同様、労働者らに快適な住宅や教育を提供することを目指した、産業革命期のモデル・ヴィレッジ。ウェスト・ヨークシャーに位置し、毛織物工業で材を成したタイタス・ソルトの総合都市設計によって作られた。村の中心として活躍した工場「ソルツ・ミル」は一旦閉鎖された後、ギャラリーやショップが並ぶ複合施設として息を吹き返した。少々地味な町ながらも、英国史における産業革命期の名所として名を残す。
www.saltairevillage.info

炭鉱の歴史を後世に伝える[2000年登録]

ブレナヴォンの産業景観
Blaenavon Industrial Landscape map⑱

18世紀末から製鉄業で栄え、19世紀には石炭、鉄の産地として、産業革命を支えたウェールズのブレナヴォン。最後の鉱山が1980年に閉山したが、採石場などが残り、炭鉱の歴史を後世に伝える。その光景は、どこか『天空の城ラピュタ』の世界。見どころはビッグ・ピット国立博物館とブレナヴォン・アイアンワークス。観光は車が便利。
www.visitblaenavon.co.uk

英国で最も長くて高い水道橋[2009年登録]

ポントカサステ水路橋と運河
Pontcysyllte Aqueduct and Canal map⑮

ウェールズの町レクサムで、蒸気機関車が走るよりも以前の1805年に完成した水道橋。産業革命期に天然資源を運ぶために設計され、高さ38メートルの橋に運河が流れる。長さ307メートルは英国で最も長い水道橋で、産業革命における建築物の傑作とされる。ぜひナローボートまたは徒歩で渡ってみたい。
www.pontcysyllte-aqueduct.co.uk

産業革命、発祥の地[1986年登録]

アイアンブリッジ渓谷
Ironbridge Gorge map⑯

英中西部シュロップシャーにある渓谷。天然資源の豊富さ、コークスを用いた製鉄法、水運の良さにより、産業革命の中心地のひとつとなった。本来の名はセヴァーン渓谷だが、世界初の鉄橋=写真=にちなみ、この名で文化遺産に登録される。1781年に開通した橋は、今も歩いて渡ることが可能。周辺には博物館、地下トンネルなど観光アトラクションあり。
www.ironbridge.org.uk

自然と産業の融合[2006年登録]

コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観
Cornwall and West Devon Mining Landscape map㉗

© N p holmes
銅・スズの採掘と、工場や港湾など副次的な産業が一体となって発展した地域。一時は世界で供給される銅の3分の2を産出するまでに成長した。地下坑道やエンジンハウス跡が10エリアに点在。写真は、海沿いに佇み独特の景観を生み出している旧スズ採掘所「Wheal Coates」。現在ナショナル・トラストが管理する。
www.cornish-mining.org.uk

ロンドン日帰り

キリスト教の一大巡礼地[1988年登録]

カンタベリー大聖堂、セント・オーガスティン修道院跡とセント・マーティン教会
Canterbury Cathedral, St Augustine's Abbey, and St Martin's Church map㉓

6世紀にキリスト教布教の拠点となったカンタベリーで、重要な教会建築として文化遺産に登録される3つの建造物。写真右は英国国教会の総本山カンタベリー大聖堂。下は、6世紀に建てられた修道院。ヘンリー8世によって解体され、現在は廃墟となっている。
www.canterbury.co.uk


先史時代の謎に迫る![1986年登録]

ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群
Stonehenge, Avebury and Associated Sites map㉔

巨大な石はどのようにして、なぜ建てられたのか? そんな謎と異様な光景で、考古学者からヒッピーまで、幅広いファン層を持つ遺跡ストーンヘンジ。紀元前3000年~1500年に建造された、高さ4~5メートルほどの巨石が円を描くようにして並ぶ。ストーンヘンジから北へ車で40分の場所にあるエーヴベリーにも同様のストーンサークルが残り、合わせて文化遺産に登録される。
www.stonehengeandaveburywhs.org

ロンドンを象徴する建造物[1987年登録]

ウェストミンスター宮殿とウェストミンスター寺院、セント・マーガレット教会
Palace of Westminster and Westminster Abbey including Saint Margaret’s Church map㉒

国会議事堂として使われる、ロンドンの代表的建造物ウェストミンスター宮殿ももちろん世界遺産リスト入り。王室行事が行われるウェストミンスター寺院、さらに寺院の敷地内にあるセント・マーガレット教会とともに文化遺産に登録される。
www.parliament.uk
www.westminster-abbey.org

血塗られた歴史を肌で感じる!?[1988年登録]

ロンドン塔
Tower of London map㉑

要塞、王宮、軍事施設、監獄…。時代の流れとともに役割を変え現在に姿を留めるロンドン塔。血塗られたその歴史から、心霊スポットとしても有名。
www.hrp.org.uk/tower-of-london

世界最大規模の植物園[2003年登録]

キュー王立植物園
Royal Botanic Gardens, Kew map⑳

広大な敷地に4万種類以上の植物が生育されるほか、植物標本が850万点以上所蔵される。
www.kew.org

大英帝国の発展に貢献[1997年登録]

海事都市グリニッジ
Maritime Greenwich map⑲

世界の海を支配した大英帝国の発展を支えた町グリニッジ。旧王立海軍学校や国立海事博物館のほか、グリニッジ標準時の基準となる天文台、経度0を示すグリニッジ子午線がある。ヘンリー8世、エリザベス1世が誕生したのもグリニッジで、王室ともゆかりが深い。天文台のある丘からはロンドンの街を見渡せる。
www.visitgreenwich.org.uk

週刊ジャーニー No.1029(2018年4月5日)掲載