迷いながらのフットパス体験
厳密にいうと、筆者が参考にした『Britain's 50 Best Walks』というタイトルの冊子にあったルートは、全長5・5マイル(約9キロ)。4時間余りの行程と説明されていたが、これをいきなり試すのは正直いって無謀と思われたため、ルートを少々変え、1~2時間で歩き終えられそうなものにアレンジして臨んだ。
出発地点のアドルストロップは、ジェーン・オースティンのおじが同村の教会の牧師職を務めていたことから、オースティンもしばしば訪れたという。この村の様子や近隣の景色が、彼女の小説『マンスフィールド・パーク』内の描写に利用されているという。このアドルストロップから約2キロ離れたところにある村、チャスルトンChastletonを訪れ、復路は往路と違うフットパスを利用してアドルストロップに戻るという計画だ。
天候は曇り。結局、昼食をとっている間に大きく回復はしなかったが、少なくとも雨が降りそうな兆しはない。食べ過ぎたことを少しばかり後悔しながら取材班はスタート地点を探した。
ところが、このスタート地点となるはずの、フットパスへの入り口がみつからない!
人通りがほとんどないアドルストロップ村の郵便局で、必要な情報が得られることを期待していたが、取材当日の営業時間は午後4時からの1時間のみ。アイスクリームなども販売する雑貨屋を兼ねた、この郵便局以外、店らしいものは何ひとつない同村だったが、それが開くのを待っているわけにはいかず、ようやく出会った地元の人に道を尋ねた。親切な女性に教わった通り、歩いていくと確かにフットパスはあった。しかし、後で分かったことだが、このフットパスはチャスルトンへ通じるものではなかったのである。フットパスは「Public Footpath」という表示はあっても、どこへ通じる道かは記されていないのが普通であることを初めて知った取材班だった。
小さなアドルストロップ村をウロウロ歩くこと約45分。ついにチャスルトンへのフットパスを知っている地元男性に巡りあった時には、大げさながら「ジゴクでホトケ」の気分だった。村の集会所である「ヴィレッジ・ホール」の駐車場から裏手へと歩けばいいと教わり、気を取り直して改めて出発。
それからの約30分の道のりは、眺めについては素晴らしいの一言に尽きたが、本当にこの道で合っているのか、不安がぬぐいきれない30分でもあった。 ただ、途中で、農地と農地の境にしつらえられた、人のみ(犬にも難しそう)が乗り越えられる回転木戸stilesに、我々の行く「Macmillan Way」の目印となるシールが貼ってあるのを発見。ところによっては風雨にさらされてはげかかっているものもあったが、これは有難かった。
やがてナショナル・トラストの「チャスルトン・ハウス」の表示が目に入り、子ヒツジが親ヒツジとともに、すぐ脇に寝そべる小道を抜けると舗装された道に出た。
チャスルトン村だ。
この村も小さい。すぐにチャスルトン・ハウスの門前に到達。紆余曲折はあったものの、2つ目の目的もこれでクリアしたことになる。老朽化の進むチャスルトン・ハウスでは、1日180人の入館しか許されておらず、この日の見学は叶わなかったが、ハウスのオープン時間内ならトイレ(別棟にあり)は使用可能。チャスルトンも他に店がないため、復路につく前に、ここでトイレを借りておくことをお薦めする。
ウォークに
出かける前に
●今回のアドルストロップ~チャスルトン往復のフットパスは、平坦で、当日及びその前後に雨が降らなければ、町歩きをする際にはくような靴で十分。しかし、ひとたび雨が降れば、たちまちぬかるみだらけになるので、防水式のウォーキング・ブーツ着用が望ましい。
●このフットパスに限らず、ベビーカーを押して歩くのはあきらめたほうが無難。
●犬を連れて行くときは、必ずリード(伸縮自在の引き綱)につないでおくこと。フットパスは私有地内にあることが多く、柵内にはヒツジや馬が放牧されていることが少なくない。また、ゴミは必ず持って帰ること。「歩かせてもらっている」と、土地の所有者への感謝の気持ちを常に持ちたい。
●ガイドブックやウォーク用の地図は、お世辞にも詳しいとはいえない。今回のように、ごくシンプルな道でも簡単に迷うことが分かった。そういう時に「迷って遠回りになったが、かえって面白かった」「美しい景色を余計に眺めることができてよかった」ぐらいに前向きにとらえる姿勢が必要。時間にはできるだけ余裕をもって計画を立てることもポイント。あせると、さらに道に迷う! また、スマートフォンのGPS機能に頼るのも賢明とはいえない(そこまで正確とはいえない模様)。スマートフォンの普及により、「遭難した」と救助を求めるウォーカーの数が急増していると専門家も苦言を呈している。
●地元の人だからといって、すべてのフットパスを正しく把握しているとは限らない。間違った道を教えられるかもしれないが、それは覚悟の上で道をたずねよう(そうすれば、後で立腹せずにすむ)。
●迷ったかな、と思ったら、もと来た道を引き返す柔軟さも必要。とにかく、無理は禁物。
●ちょっとした丘歩き程度でも、水と緊急用食糧(チョコレートバーなど)は必携。また、悪天候の場合、傘は役に立たない。フード付きのレインウェアがお薦め(ズボンの上からはける防水式レインウェアもあるとなお良し)。冬なら手袋、帽子もお忘れなく。