再開発で観光スポットに大変身!キングズ・クロス駅を征く [King's Cross station]

【征くシリーズ】Holiday

2016年12月15日 No.963

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再開発で観光スポットに大変身!キングズ・クロス駅を征く

再開発で観光スポットに大変身!

キングズ・クロス駅を征く

今年3月、ヴァージン・グループのトップとしてお馴染のリチャード・ブランソン氏が列席し、ある新型車両のお披露目イベントがロンドン、キングズ・クロス駅で行われた。その名は「ヴァージン・あずま(Virgin Azuma)」。日立製作所が笠戸事業所(山口県)で製造して英国内で試験走行してきた高速鉄道車両「クラス800」で、2018年からロンドンと英北部スコットランドのインバネス間で運行を開始する。英国のイースト・コースト本線を走行することから日本語で東を意味する「あずま」と名付けられたという。今週号では、この「あずま」が発着する、ロンドンの玄関口キングズ・クロス駅の魅力についてお届けしたい。再開発が進む同駅周辺の見どころもあわせてご紹介する。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/ホートン 秋穂・本誌編集部

「戦いの橋」から「王の交差路」へ

キングズ・クロス駅は、英国の東の大動脈といわれるグレート・ノーザン鉄道のイースト・コースト本線の南終着駅として1852年に建設された。この線はロンドンとヨークシャー、イングランド東北部、スコットランドを繋ぐ、主要幹線鉄道。いわば東京―大阪間を結ぶ東海道本線のような花形路線ともいえる。駅名は同駅が位置するキングズ・クロス地区からとられたという。
「王の交差路」を意味する地区名、キングズ・クロスはその地区にあった交差路に1830年、建立されたジョージ4世の記念碑に由来するとされる。しかしながら、醜い作品として人々の不興をかい、嘲笑の対象となった同記念碑は1845年に撤去され、地名だけがそのまま残った。キングズ・クロスの地名が定着する以前は、バトル・ブリッジ(Battle Bridge)村と呼ばれていたという。同地域は、1世紀半ば頃にケルト人の女王ブーディカ(Boudica)とローマ人征服者の最後の戦いが行われた場所とされ、一説によるとブーディカの亡骸はキングズ・クロス駅の9番線下に埋葬されているといわれている。
18世紀後半までは小さな村々が点在し、ロンドンの北のはずれにある鄙びた地域だったキングズ・クロス地区もロンドンの主要幹線道路ユーストン・ロード(Euston Road)の開通と近くを流れるリージェンツ運河(Regents Canal)の整備により、大きな変貌を遂げる。産業革命とともに発展著しい北部工業都市とロンドンを結ぶ交通の要衝となったのだ。運河沿いにはイースト・アングリア地域から運ばれた石炭や穀物の倉庫が並ぶと同時に、日雇い労働者が暮らす長屋や安宿も軒を連ねたという。

脈打つ心臓の役割を果たす駅

大きな樹木の下にいるような気にもさせる、
キングズ・クロス駅内部。美しい紫色が幻想的。
駅の建設計画は1848年、グレート・ノーザン鉄道の技師だったジョージ・ターンブル(George Turnbull)によって立てられたが、詳細な設計は建築家ルイス・キュービット(Lewis Cubitt)によって行われ、今日の1番線から9番線を含む主要部分は1852年10月14日に落成した。開業当初はプラットホームが2つしかなく(現在の1番線と8番線)、その間は留置線として使われていたという。駅の屋根は当時でもっとも高い建造物とされ、モスクワの王立乗馬学校の建物をモデルに建築されたといわれている。
プラットホームは数度に渡って、再構築されている。近郊交通量の増大にともないプラットホーム増設のための空間が追加された。現在9番線から11番線を擁している建物は後の時代のものである。
そして2007年には5億ポンドをかけたオリジナル駅舎の復元、および1972年に増築された西側コンコースの刷新計画と、投資規模が22億ポンドに上る駅周辺地域の再開発計画がスタート。2012年3月に現在のキングズ・クロス駅の姿となってお披露目された。新しいコンコースは英国の有名建築事務所「ジョン・マックアスラン&パートナーズ(John McAslan & Partners」と世界的な建築技術エンジニアリング会社のアラップ社が共同で手掛けた。 キュービットが設計した歴史的建造物と『対話』しながら進められたプロジェクトだったといわれ、オリジナルの良さをさらに引きたたせ、より多くの乗降客に対応できるような広いスペースを確保。また、それと同時に、あらゆる交通網のハブとなる、脈打つ心臓のような存在である同駅をイメージした、新しい革新的なデザインを心がけたとされている。
駅内に一歩足を踏み入れると、半円形のコンコースの中心に太い樹木の幹のような柱から枝葉が分かれるようにグリッドが美しいドームを形成し、ガラス天井から空の光がコンコース全体に明るく降り注ぐ。ダイアグリッド・シェル構造ののびやかでエレガントなデザインで空間の広がりをより感じさせる設計だ。

0番線

キングズ・クロス駅には0番線という、通常では聞き慣れない番号のプラットホームがある。こちらは2010年に増設された最も新しいプラットホームで、旧来はタクシー乗り場だった。一連の工事を、駅を閉鎖することなくいかに完了させるか――エンジニアをはじめとする関係者が練りに練った計画を進めるのに不可欠とされたのが、この新設プラットホームだったという。
ただ、名前をつけるのにひと苦労あったとされている。というのも、工事開始時、キングズ・クロス駅にはすでに11番線まであったのだが、よりによって、新設プラットホームは1番線の隣に設置されることになり、「12番線」として続き番号にすると、1番線の隣が「12番線」となり混乱を招くことが懸念された。全プラットホームの番号を改めるか、あるいはヨーク通りに面していることからY番線とするかなど、様々な提案がなされたが、ひとまず1番線の隣にある0番線ということで決着。工事完了後も、引き続き「0番線」として活用されることになったのだった。なお、「0番線」が存在するのは、キングズ・クロス駅だけではなく、カーディフなどにもあるという。

再開発で生まれ変わったエリア

2001年に隣のセント・パンクラス駅の改修工事が着工するまでは、なかなか開発が進まず、治安の悪い、街娼が立ち、ドラッグが蔓延する地区として悪名を馳せていたキングズ・クロス駅周辺。現在はその面影もないまでに変貌。古い歴史的建物の魅力を最大限に活かし、コンテンポラリーな要素が融合した空間が駅を取り囲むように存在している。同駅周辺には20を超える歴史的建造物があり、それらを巡るウォーキングツアーも定期的に開催されている。
その中でも特に有名なのが歴史的ホテル、「グレート・ノーザン・ホテル(Great Northern Hotel)」だ。1854年に開業。100室の客室を有し、当時は最先端だった油圧式のエレベーターを配するなど華麗なホテルとして名を馳せた。現在はお洒落なブティック・ホテルとして運営されている。2階にあるレストランの三方の窓からはキングズ・クロス駅の古い駅舎、新しい駅舎屋根、セント・パンクラス駅がすべて見渡せるようになっている。日曜日の昼下がりに、ゆったりとサンデー・ローストに舌鼓を打てば、往年の優雅な旅行客気分も味わえそう。
駅西側に出て、リージェンツ運河の方に向かう遊歩道を歩いた先には、色やリズムを変えて人々を楽しませる噴水がある。その広場を取り囲むようにして林立するのが、お馴染みルイス・キュービットの建築による穀物倉庫と操車場だった建物「グラナリー・ビルディング(The Granary Building)」だ。現在では、ファッションデザイン分野で世界的に有名なセントラル・セント・マーチン芸術大学やオフィス、ロンドンの人気レストランが入っている。夏には、この広場でマーケットやスポーツのパブリック・ビューイングなど様々なイベントも催されるので、ご家族やご友人と連れ立ってお出かけいただきたい。
ところで、野生の植物が生い茂る公園が近くにあることは案外知られていない。旧石炭置き場が1984年に、ロンドン・ワイルドライフ・トラストというチャリティ団体が運営する公園としてオープン。めずらしい野生の動植物に親しむ場所としてだけでなく、都会の喧騒を忘れる静かなオアシスにもなっている。運河に浮かぶモダンなビューポイントからは自然と古い建物群を同時に眺めることができる。園内のカフェではこだわりのオーガニック・コーヒーも味わえる。
今後も着々と開発がすすみ、魅力を増すキングズ・クロス駅。グルメやショッピングを楽しむだけでなく、歴史と自然が豊かで、フィクションの舞台としても親しめる同駅エリアは1日かけて『探検』したいロンドンの身近な名所といえるだろう。

フライング・スコッツマン

キングズ・クロス駅を語るときに、「フライング・スコッツマン」の存在を抜きには語れない。1850年ロンドン・エディンバラ間が鉄道で結ばれ、1862年には特急列車が走るようになった。この特急が「フライング・スコッツマン」だ。午前10時にキングズ・クロス駅を出発し、10時間半後の午後8時半にエディンバラに到着するスケジュール。当初はトイレも食堂車もなく、途中駅のヨークやニューカッスル駅で乗客は用を足しに走り、食事を済ませたという。1928年にはノンストップ運行も開始。客車にはカクテルバー、映写室、化粧室などが設置され、最先端のサービスが提供されていた。フライング・スコッツマンは第二次世界大戦中、ドイツの爆撃機が飛来する最中でも、キングズ・クロス駅を午前10時に出発し続けた。現在もフライング・スコッツマンという列車名は伝統の午前10時、キングズ・クロス発と午後1時エディンバラ発のNXECの列車に使われ、両都市間を4時間半で結んでいる。

レストラン・ショップ情報(アルファベット順)

リスト内で「M」のつくレストランは中2階にある。店内に飲食スペースのあるレストランもあるが、テイクアウェー専門の店の利用者向けにテーブルとイスがいくつか用意してあるので、ここで食べることも可能(ただし、早い者勝ち。いつも空いているとは限らないので、その点、ご留意を)。

↓画像をクリックすると拡大します↓

キングズ・クロス駅構内図

◆ レストラン・カフェ

M5Benitos Hat メキシコ料理
6Caffe Nero カフェ
21Coffee Dogs カフェ
22Doddle 宅配便サービスショップ
M2Giraffe Stop フュージョン料理
5Leon オーガニック料理
19M&S Simply Food
マークス&スペンサー(食品のみ)
7aPasty Shop コーニッシュ・パイ軽食
M1Patisserie Valerie ケーキ、カフェ
13Pret a Manger サンドイッチ、軽食
M4Prezzo イタリア料理
18Starbucks カフェ
M8The Parcel Yard pub
昔は駅の事務室だった「グレードI」の歴史的建造物を利用したパブ。壁や床材など当時の素材をそのまま再利用。ノスタルジックな雰囲気あふれる落ち着いた空間になっている。特に明るいガラス天井の「中庭」の席はおすすめ。英国内にある駅内パブとしては最大の広さを誇るという。トイレもここなら無料で、混んでない!
7bUpper Crust サンドイッチ
M6Wasabi 和食テイクアウェー
おにぎりが買えて便利。

◆ ショップ

16Accessorize アクセサリー、小物、バッグ
11American Apparel カジュアル衣料
12Boots 薬局
1Harry Potter Shop (詳細は下コラム参照)
9Hotel Chocolat 高級チョコレート専門店
3International Currency Exchange 両替
10Kiehl's 自然派化粧品
4Little Waitrose ウェイトローズ=写真下
17Oliver Bonas アクセサリー、小物、バッグ
14Paperchase 文房具、カード
15TM Lewin シャツ
8WH Smith 新聞、雑誌、雑貨、お土産など

ハリー・ポッターの世界への入口!?

キングズ・クロス駅を一躍、観光名所にしたのが世界的ベストセラー小説「ハリー・ポッター」シリーズだ。ハリーがホグワーツ魔法魔術学校に向かう特急列車の始発駅として登場する。9番線と10番線は主駅舎にもなく、対面式プラットフォームのため、小説で描かれる架空のプラットフォーム9 3/4番線は、両者の間に存在するわけではないが、ファンのために再現された場所では記念撮影を撮る人で、毎日長蛇の列ができる。 ここでは、映画でホグワーツの学生たちが9番線と10番線の間にある壁にカートを押して消えていくという場面を再現。煉瓦の壁にカートの半分が刺さっており、映画と同じシチュエーションの写真を撮ることができる。専属のカメラマンが撮影した写真は隣にあるハリー・ポッター関係の商品を専門に取り扱ったショップで購入可能。衣服や小道具のレプリカなどのグッズも豊富な品揃えだ。特に9 3/4と記されたグッズはキングズ・クロス駅店(ヒースローにも支店あり)の限定品とのことなのでお土産におススメ。

キングズ・クロス駅内で、もっとも混雑しているのが、この9 3/4プラットホームのそばと言える。 同ホームは、ショップの入口の向かって右側にあり、実際にカートの前で写真を撮ってもらうには週末で約45分待ち。9 3/4ショップのスタッフが、ご丁寧にも、スカーフが風に吹かれているように見える演出までしてくれる。また、ひとり旅の場合でもご心配無用。9 3/4ショップのスタッフが撮影した写真をショップで購入することができる。商魂たくましいなぁ、とうなりたくなる場所でもある。

魅力たっぷり! キングズ・クロス駅周辺

キングズ・クロス周辺地図

① キングズ・クロス・スクエア King's Cross Square

同駅の再開発にあたって、駅周辺に広々としたスペースが設けられた。駅の表に面して広がるのがキングズ・クロス・スクエアで、オブジェや旗を立てるポールなどが見られる。写真の奥に見えるのが、セント・パンクラス駅。

② グレート・ノーザン・ホテル Great Northern Hotel

終着駅には必ずといっていいほどホテルがある。鉄道会社の力をみせつける意味で豪華な仕様になっていることが多い。このグレート・ノーザン・ホテルもそうしたホテルのひとつ。多くのドラマを見つめてきたに違いない。

デザートが決められない…という人に
ぴったりの盛り合わせ!
日本人女性なら2人でも十分すぎる量。
入口がややわかりづらいのが残念だが、週末にはサンデー・ローストや、シャンパン1本つきのブランチセットなども楽しめる。バーとして活用するのも一案。
Pancras Rd, Kings Cross, London N1C 4TB www.gnhlondon.com

③ ビューイング・プラットホームVewing Platform

立ち入り禁止となっているスペースがまだまだあるキングズ・クロス駅の裏手。その開発の進展ぶりを少し高いところから眺めてみるのも興味深い。ぜひ、上にあがってみてほしい場所。

④ グラナリー・スクエア Granary Square

繰り返しになるが、キングズ・クロス周辺の再開発ではオープン・スペースがたっぷり用意されている。このスクエアもそのひとつ。
セントラル・セント・マーチン芸術大学 (University of the Arts London Central St Martins) の前に広がるこのスペースでは、昼間および夜間に一定の時間帯のあいだ、噴水による様々なディスプレーが行われ、人々の目をひきつける。暗くなってからのディスプレーはきわめてロマンチック!

⑤ カムリー・ストリート・ナチュラル・パーク Camley Street Natural Park

こんな街中に!と驚くような自然が中に広がっている。雨の後は足場が悪くなるので、泥道でも歩ける靴で出かけたい。なお、冬季のオープン時間はきわめて限られているのでご注意を(11:30~16:00、原則として週末のみ)。
12 Camley Street, London N1C 4PW
www.wildlondon.org.uk/reserves/camley-street-natural-park

⑥ セント・パンクラス・オールド・チャーチSt Pancras Old Church

セント・パンクラス駅の名前のもととなった、聖人にちなむ教会。

セント・パンクラス駅

キングズ・クロス駅と混同している人が少なくない!
キングズ・クロス駅の隣にそびえたつ壮麗なヴィクトリア朝ネオ・ゴシック建築の駅舎=写真右=を見て、こちらがキングズ・クロス駅だと勘違いする人も多いはず。というのもハリー・ポッターの映画に登場するキングズ・クロス駅の外観にはこちらが用いられているからだ。「鉄道界の大聖堂」という名でも知られる、セント・パンクラス駅からはヨーロッパに向かう特急列車ユーロスターが発着する=同左。国際駅ならではなのか、ショップの充実度でいうとキングズ・クロス駅よりもこちらに軍配が上がりそうだ。

有名書店フォイルズや紅茶の老舗フォートナム&メイソンの唯一の支店など英国の有名ブランド店が出店している。駅でショッピングを楽しんだ後は史跡巡りができるのもキングズ・クロス駅とおなじ。駅の名前の由来となったローマの聖人パンクラスの名を奉った教会セント・パンクラス・オールド・チャーチ(St Pancras Old Church) が駅の裏手にあるが、ここはイングランド最古のキリスト教礼拝所の一つとしても知られ、その歴史は11世紀のノルマン征服時代にも遡るとされている。歴史に興味のある方は、一度足を運んでみていただきたい。

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