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ロンドンから1時間 ぶらり美食の街 マーローを征く

■ 「バッキンガムシャーで最も良く手入れされた村(Best Kept Village)」に幾度となく選ばれているテムズ河沿いの街、マーロー。釣り人たちのバイブルとして名高い『コンプリート・アングラー』や、ホラー小説『フランケンシュタイン』が生まれた地であり、また近年では美食の街としても人気が高い。今回は麗しきマーローを征く。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

 澄み渡る青空と、深々とした緑が描き出すコントラスト。それを背景に、街のシンボル「マーロー橋」の傍らには、背の高い尖塔が目を引くオール・セインツ教会、格調高きホテル「コンプリート・アングラー」がたたずむ。テムズ河では水鳥たちが優雅に戯れ、爽やかな風が駆け抜ける度にキラキラと水面が光る。バッキンガムシャーの南西に位置し、ヒースロー空港から西へ約15マイル。マーロー(Marlow)とは、古英語の「湖が干上がった後にできた地」が語源で、実際この地には大きな湖があった。
 「釣りこそが、神が与えた最も安らかで、穏やかで、純粋な休息」――。英国随筆文学の代表作『コンプリート・アングラー(The Compleat Angler or The Contemplative Man's Recreation)』(CompleatはCompleteの旧式の綴り)の著者、アイザック・ウォルトンは釣りをこよなく愛した。同書の大半をマーローにある古い旅籠で書き上げ、後に本書名にあやかって名前を変えたのが、400年以上の歴史を持つ名門ホテル「コンプリート・アングラー」である。原題を直訳すると「釣りの達人、瞑想する人の休息」。記された釣魚術は、350年以上を経た現代では時代遅れでそぐわない部分も多い。それでもいまだに世界中の釣り人のバイブルとして愛され続けているのは、真の釣り人の原点を語る、色あせることのない『釣りの哲学』が説かれているからだ。
 コンプリート・アングラーが世に発表されたのは、清教徒革命やチャールズ1世の処刑からわずか数年後の1653年のこと。本書には釣魚術のみならず、混乱の残る世の中であっても、謙虚な気持ちを忘れず、今の自分の幸せに気付き、感謝することの大切さも語られている。パンデミック後の様々な不安や不満にとらわれがちな我々の心にも沁みる内容と言えるだろう。

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メアリー・シェリーが「フランケンシュタイン」を執筆した家。記念プラークが壁に飾られている。個人宅であるため、室内見学は不可。

マーローでもうひとつの名所が、ホラー小説『フランケンシュタイン』に縁のある「シェリーズ・コテージ」。フランケンシュタインの作者メアリー・シェリーが、詩人の夫とともに1817年3月から翌年2月まで暮らし、同作を執筆した家である。

グロテスクで悲哀に満ちた物語が、なぜこの平和なマーローで生まれたのか。それは、1816年にスイスで行われた「ディオダティ荘の怪奇談義」に端を発する。英詩人バイロンは、メアリーの妹との不倫、異母姉との近親相姦、同性愛疑惑という数々のスキャンダルを抱え、妻からは離婚を迫られ、スイスのレマン湖畔にある別荘「ディオダティ荘」に隠れ住んでいた。そこへバイロンを頼って訪れたのが、同じく逃避行中だったメアリー夫妻と妹の3人だった。長雨が続き、室内で時間をもて余した彼らは、バイロンの「各々でひとつずつ怪談話を書いて披露しよう!」という提案にのる。やがて英国に戻ったメアリーがマーローで完成させたのが、この怪奇談義から生まれた話「フランケンシュタイン」だ。


名所巡りはこの2ヵ所で終了。あとはテムズ河沿いの散策、食事やアフタヌーンティーを満喫しよう。一見普通のパブのような「ハンド&フラワーズ」は、ミシュラン2つ星を有しており、姉妹店「ザ・コーチ」もミシュラン1つ星を獲得。また、水辺を見渡しながら優雅に食事を堪能したい人は、アフタヌーンティーも楽しめる「コンプリート・アングラー」へ行こう。

ウォルトンはコンプリート・アングラーの中で「穏やかなることを学べ(Study to be quiet.)」と語っている。マーローでやさしく穏やかな時間に身を任せてみては?

「Buckinghamshire Best Kept Village」の看板の下には、選出年が飾られている。2015年以降は少しご無沙汰となっているが、「テムズの宝石」と呼ばれる街並みは健在。
マーロー橋の上から、老舗高級ホテル「コンプリート・アングラー」を望む。
テムズ河は「ヘンリー・ロイヤル・レガッタ」で有名な街、ヘンリー・オン・テムズ方面へと続く。マーローでもボート競技は盛ん。
Restaurant
Joke
Henry Q&A
Travel Guide
London Trend
Survivor
Great Britons
Afternoon Tea

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マーロー美食MAP

コンプリート・アングラー

Marlow SL7 1RG
Tel: 0344 879 9128
www.macdonaldhotels.co.uk/compleat-angler
リバーサイド・レストラン
テムズ河に面した、白を基調とする明るい雰囲気のレストラン。テラス席もあり。向かいに建つ教会や河を眺めながら、ゆっくり食事を楽しむことができる。アフタヌーンティー(£30/要事前予約)もおすすめ。

ハンド&フラワーズ

126 West Street, Marlow SL7 2BP
Tel: 01628 482277
www.thehandandflowers.co.uk
英国内で唯一ミシュラン2つ星を獲得しているガストロ・パブ。シェフはトム・カーリッジ。宿泊もできる。

バニラ・ポッド

31 West Street, Marlow SL7 2LS
Tel: 01628 898101
www.thevanillapod.co.uk
T.S.エリオットがロイズ銀行に勤めていた1917~1920年に住み、数々の著書を執筆した家。フレンチ・レストランになっている。

ザ・コーチ

3 West Street, Marlow SL7 2LS
Tel: 01628 401538
www.thecoachmarlow.co.uk
「ハンド&フラワーズ」の姉妹店で、ミシュラン1つ星を獲得。シェフはサラ・ヘイワード。

Kyo Service
J Moriyama
ジャパンサービス
らいすワインショップ
Atelier Theory
奈美デンタルクリニック
Sakura Dental

ブル・イン

The High Street, Bisham SL7 1RR
Tel: 01628 484734
www.bullinnbisham.com
マーローの隣町ビシャムにある、老舗ガストロ・パブ。やや重めのクラシックなフレンチ・スタイル。

Travel Information 2022年8月23日現在

アクセス
車:ロンドン市内からM40を使って車で行く場合は、オックスフォード方面に走り、ジャンクション4で下り、あとは道路標識に従う。所要約1時間。
電車:ロンドン・パディントン駅から約1時間(終点)。駅からハイストリートまでは徒歩で10分弱。



週刊ジャーニー No.1253(2022年8月25日)掲載