2011年5月19日 No.677

 

取材・執筆・写真/本誌編集部

21世紀型カントリー・ハウス・ホテル
カワース・パークを征く

紳士淑女の集う地として知られるアスコットで、
昨年9月「カワース・パーク Coworth Park」が産声をあげた。
カントリー・ハウス・ホテルを謳いながらも、固定概念にとらわれない、
多方向の特長を打ち出し、新たな可能性を追求する未来型といえそうなホテルだ。
今号ではまだ初々しさが漂う同ホテルを征くことにしたい。

 

未来に挑戦するカントリー・ハウス・ホテル

 カワース・パーク Coworth Park本館の入り口に一歩入ると、まだ新しい木の香りが、取材班の鼻をくすぐった。吹き抜けの広々としたレセプションには自然光がたっぷりと差し込み、真新しい調度品が設えられている。笑顔で迎えてくれたのは、茶色にオレンジ色のアクセントが入ったキャビン・アテンダントのように洗練された制服に身を包んだスタッフたちだった。一般的なカントリー・ハウス・ホテルのイメージであった、年月を感じさせる独特の温もりとはまた違った趣に、新鮮な驚きが湧き上がった。
 昨年9月、アスコットに誕生したカワース・パークは、従来のカントリー・ハウス・ホテルの型にはまらない、新たなコンセプトを掲げている。その仕掛け人は、ロンドンやパリ、ロサンゼルスなどの大都市に、5つ星ホテルを展開する名門ホテルグループ「ドーチェスター・コレクション The Dorchester Collection」。ドーチェスターというと、最大の特徴の一つに、大都市の一等地に構える、その優良なロケーションが挙げられる。それだけに、同ホテルがグループにとって初となる郊外のカントリー・ハウス・ホテルであったため、オープン当時、大いに話題となった。
 また、モダンなデザインという見た目に加え、カワース・パークでは21世紀ならではの取り組みも行われている。ホテルといえば宿泊客の快適さが優先され、大量の水やエネルギーが消費される場所。そのため、どのホテルも熱心に省エネを行っているイメージはあまりない。そんな中にあって同ホテルは、二酸化炭素の排出量を減らすための積極的な姿勢を見せている。ドーチェスターらしい優雅さを損なうことなく、省エネルギーという地球規模の課題へ挑戦していくのだという。

  

東インド貿易がもたらした莫大な富

 総敷地面積240エーカーを誇るカワース・パーク。先日、世界中の人々が目に焼き付けたであろう、ウィリアム王子とキャサリン妃の口づけが交わされたバッキンガム宮殿の敷地全体のおよそ6倍にもなる。テニスコートやクローケー場はもちろんのこと、ポロ競技場まで有しており、これはホテルとしては英国でも他に例がない。
 ホテルの北には、160エーカーの巨大な人口湖として知られる「ヴァージニア・ウォーター」、南には名門ゴルフクラブ「ウェントワース」。また車で10分ほど西へ向かえば、英国王室が毎年6月に主催する「ロイヤル・アスコット」が行われる「アスコット競馬場」が見えてくる。ロンドンへの通勤圏内にありながらも豊かな自然に囲まれたアスコットの町は、ベントレー、アストン・マーチンを始め高級車が行き交い、大きな屋敷が立ち並ぶその様子から、英国のビバリーヒルズを連想させる。

 


薄いミントグリーンの壁に映える、ベージュ系の家具で統一されたエレガントなラウンジ。
絵画、照明、椅子などインテリア小物の多くは個人ベースで活動する
英国職人がデザインしたものを取り入れている。

 

 古くから富裕層が多く住むアスコットに、カワース・パークが建てられたのは、1776年。創始者はウィリアム・シェパード William Shepheardなる人物で、東インド会社の商人だった。東インド会社は、インドとの貿易で英国に巨万の富をもたらしたが、シェパードはあくまでもその組織に属する一商人。その彼が240エーカーもの土地と邸宅をどのように手に入れるに至ったのだろう。
 18世紀後半といえば、東インド会社がフランスとのインドにおける利権争いに勝利し、その影響力を拡大させていた時代。その飛ぶ鳥を落とす勢いの中、会社自らが社員らに、業務以外にも個人的な交易を行うことを許可していたという。つまり、一商人にも億万長者への扉が開かれていたのだ。シェパードの恵まれた待遇に加え、群を抜く商才が見事に花を咲かせた結果というわけだ。

 


四柱式ベッドの置かれたスイートルーム「Arbuthnot Suite」。
メタル製の四柱は、小鳥が一休みする木の枝をモチーフにデザインされており、
モダンな印象ながらも、どこか温かみが感じられる。

 

 20世紀前半には第17代ダービー伯エドワード・スタンリー Edward Stanley, The 17th Earl of Derby(1865~1948年)の所有となる。ダービーと聞いて察知された方も多いだろう、クラシック競馬3冠の一つである「ダービー・ステークス」(日本では「イギリス・ダービー」とも呼ばれる)は、スタンリーの先祖にあたる第12代ダービー伯エドワード・スミス=スタンリーによって創設されたため、その名が冠されている。17代ダービー伯自身も政治家を務める傍ら、競走馬生産者、馬主としても大きな事績を残している。
 さらに1980年代、カワース・パークは、「セルフリッジズ」の現会長であるガレン・ウェストン Galen Weston氏の所有となる。ホテルの特長のひとつである敷地内のポロ競技場は、ウェストン氏の趣味によるものだ。2000年代に入りドーチェスターの手に渡り、70の客室と、200人以上の従業員、それにスパ用の別棟を有する5つ星ホテルとなるに至った。