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愛憎劇から生まれた旋律

 さて、ロイヤル・マイルに戻って緩やかな坂を下っていくと、空洞の王冠を戴いたような姿が印象的なセント・ジャイルズ大聖堂(⑥)に出会う。スコットランド宗教改革の指導者ジョン・ノックスが牧師を務めていた聖堂だ。晩年、彼が住んでいたジョン・ノックス・ハウス(⑦)も現存しており、ロイヤル・マイルで最古の建物として有名。ノックスの家はロイヤル・マイルのちょうど真ん中に位置し、ここが中間地点となる。
そして忘れてはならないのが、ロイヤル・マイルの下に潜んでいる地下都市の見学だ。この閉ざされた迷路を歩くには、ガイドツアーに参加しなければならない。ツアーはいくつか催行されており、見学できる区画も異なるので、事前に調べておこう。
一番人気があるのは「ザ・リアル・メアリー・キングス・クロース」ツアー(⑧)。17世紀中頃のメアリー・キングス・クロースは、多くの商店が軒を連ねる活気のあるマーケット・ストリートだったが、人口が急増し土地が不足したため、この路地の上を塞いで住宅を築き、完全に地下に埋まってしまった。それでも住民たちは変わらずに暮らしていたというが、やがてペストの流行や新たな区画整理により、完全閉鎖された場所である。



サウス・ブリッジ周辺の街の断面図。地下には、
このようにヴォールトとよばれる通廊が張り巡らされていた。

 

もうひとつは、サウス・ブリッジの地下の「エディンバラ・ヴォールト」ツアー(⑨)。19のアーチからなる地下通廊をたどるもので、米国独立戦争時には捕虜収容所として使われたこともあり、ワイン貯蔵庫、皮革工場や居住跡がある。また、墓から掘り出した死体を医学学校に売るための遺体保管所もあったとされ、若き日のコナン・ドイルが医師としてここを訪れたと伝えられている。ちなみに、これらの地下都市は心霊スポットとしても有名なので、暗所・閉所恐怖症の人や霊感の強い人は避けたほうが無難。また、地下一帯は熱がこもりやすいため、水分をしっかりと補給してから参加したい。
いよいよロイヤル・マイルの東端、雄々しいエディンバラ城とは対照的な優雅なホリルードハウス宮殿(⑩)に到着。ここは1540年にジェームズ4世により宮殿となって以降、代々の王族に愛され、現在もエリザベス女王の避暑用の居城として使われている。
この宮殿には、メアリー女王にまつわる悲しい歴史が刻まれている。メアリーは最初の夫、フランス王のフランソワ2世と死別した後、いとこのダーンリー卿と再婚するが、すぐに愛情が冷めて、イタリア人秘書のダヴィッド・リッチオを寵愛するようになった。ある夜、ホリルードハウス宮殿で食事をしていた2人のもとに、夫とともに数人の貴族が武器を携えて乗り込み、リッチオを拉致。彼女の眼前で刺殺するという事件が起こったのだ。リッチオは、なんと56回も刺されたという。1566年のことである。この時妊娠していたメアリーは流産が危ぶまれたものの、3ヵ月後にエディンバラ城で無事に次期国王を出産した。
余談だが、この宮殿は「結婚行進曲」で知られるドイツの作曲家、メンデルスゾーンにもインスピレーションを与えている。1829年、同地を訪れたメンデルスゾーンは、廃墟となった礼拝堂跡でふいに旋律が湧き上がってくるのを感じ、すぐに書き留めたという。それが名曲「スコットランド交響曲」の始まりの旋律である。

 



かつては戴冠式や王族の結婚式が挙げられていた、
ホリルードハウス宮殿内にある礼拝堂跡。