「赤い悪魔」の一員に!?


ダグアウトに次々と座って記念撮影をするツアー参加者たち。
 午後12時半。
ロンドンから車で3時間半ほど走り、オールド・トラフォードに到着した取材班を出迎えたのは、マンチェスターらしい曇天と冷たい雨風。
試合がない日は無料となっているスタジアム専用駐車場に車を停め、見学ツアーに参加するために北スタンドの「ミュージアム&ツアー・センター」と表示されたエントランスへと向かう。北スタンドはファーガソンのマンU監督就任25周年を記念し、昨年「サー・アレックス・ファーガソン・スタンド」と命名された。その名が大きく外壁に飾られ、優勝トロフィーを頭上に掲げるファーガソン監督の姿を写した巨大な垂れ幕が目を引く。
ツアーカウンターに行くと、我々が参加するミュージアム&ツアーの出発時刻は午後2時10分とのこと。集合時間まで余裕があるので、まずはスタジアム内の「レッド・カフェ」へと足を運び、軽くお腹を満たすことにする。そして胃が満足したところで、カフェの向かいにあるミュージアムへ。同ツアーの場合、当日に限りミュージアムの入退館は自由になるが、スタジアム・ツアーの集合場所はミュージアムの出口付近なので、ツアーの出発前に見ておく方が得策だろう。

選手入場用トンネルの内部。左側の壁に設えられたボードの前が、監督や選手がインタビューを受ける場所。
 ツアーでは選手らが憩うラウンジや控室、選手入場用のトンネル、控え選手が座るダグアウト(ベンチ)など、通常は入ることができない場所をまわることができる(所要時間70分、大人16ポンド)。ツアーの最後はファーガソン監督のコメント付き映像で締めくくられ、メガストアで解散となる。
このツアーは30分毎に催行されているが、平日でも世界中から大勢のファンが訪れるため、できれば公式ウェブサイトで事前に予約しておいた方が安心だろう。ちなみに、試合が行われる日はツアーの催行はないので要注意(ミュージアムは入館可能)。スタジアム・ツアーと試合観戦の両方を満喫したいならば、マンチェスターに1泊する必要がある。
さて、取材班が加わったのは30人ほどのグループ。ガイドの男性はジョークを交えた楽しいトークで盛り上げるというよりは真面目に案内するタイプであったものの、写真撮影の時間をたっぷりとってくれるので、記念撮影重視型の人は満足いくまで撮影できる。特に選手控室では、好きな選手のユニフォームの前で撮影を行おうと順番待ちになったが、全員が終えるまでガイドの男性は待ってくれていた。ちなみに、一番人気は今季に新加入したオランダ代表FWファン・ペルシ(29)と香川である。
また面白かったのは、選手入場用トンネルにて、ピッチへと出て行く選手たちの追体験ができること。参加者全員で2列に並び、「ワァ~!! オォ~!!」とサポーターの歓声や拍手がスピーカーから流れる中、アナウンスにあわせて胸を張ってピッチに出るという演出は参加者のテンションを上げるに違いない。

マンチェスター版ビッグベン

 見学ツアーが終了すると、すでに時計の針は午後3時半を指していた。我々は市内取材のため、一路マンチェスター中心部へと向かう。スタジアムからは車で15分ほどの距離だ。
先述したように、マンチェスターは工業都市であったがゆえに「見逃せない歴史的建造物」は決して多くなく、英国の古い街並みを求める人は物足りなさを覚えるかもしれない。そうした中でも、「行っておきたいスポット」を独断で選んでみると、次の4ヵ所になるだろうか。

① タウンホール

ロンドンの自然史博物館を設計した建築家、アルフレッド・ウォーターハウスが手がけた市庁舎。マンチェスターのシンボルでもある付属の時計塔は、「マンチェスターのビッグベン」として有名。

② 科学・産業博物館(MOSI)

1830年に開通したリバプール&マンチェスター鉄道の終着地点、リバプール・ロード駅の世界最古となる駅舎の一部が保存されている。産業革命時代の蒸気機関のほか、戦車や戦闘機も展示。

③ マンチェスター大聖堂とその周辺

中心街で唯一といってよい、英国らしい昔の景観が残るエリア。大聖堂内は数年前に戦闘ゲームの舞台に使われ、物議を醸した。

④ ナショナル・フットボール・ミュージアム

今年7月にオープンした6階建てのミュージアム。イングランド代表が優勝した1966年のW杯決勝戦で使用されたボールや、元アルゼンチン代表ディエゴ・マラドーナが『神の手ゴール』を決めた際に着用していたユニフォームなどが展示されている。

この他に、アートに興味のある人は、ラファエル前派の作品が多数収蔵されているマンチェスター市立美術館や、エジプト美術のコレクションで知られるマンチェスター大学付属博物館などをお勧めしたい。中心部は歩いてまわることが可能な広さだ。


英国らしい古い街並みの面影を残した、マンチェスター大聖堂の周辺。

興奮渦巻くキックオフ


タウンホールの時計塔では、見学ツアーが催行されている(£9.95)。
 滞在2日目、いよいよ本取材のハイライトとなるオールド・トラフォードでの試合観戦である。対戦相手は、今季から宮市亮(19)が所属しているウィガン・アスレチック。前日とは一転して、マンUの勝利を予言するかのような快晴の下、取材班は再びスタジアムに赴いた。
先頁のコラムでもご紹介したが、今回購入したのは「MATCHDAY VIP―Red Cafe Pre-Match」という、試合前にレッド・カフェでシャンパン付きの3コースミールをいただくホスピタリティ・チケット。キックオフは午後3時なので、少し余裕をみて午後1時にレッド・カフェに入ると、すでにテーブルはほぼ満席の状態であった。マンUのユニフォームをまとった「気合の入った」グループが目立ち、どうやら誕生祝いや新婚旅行、スタッグ・パーティー(結婚前に行う男性だけのパーティー)といったイベントとして、参加している人が多いよう。
そして取材班が最も気にかけていたコースランチであるが、思いのほか満足いく料理を味わうことができた。我々はスターターにチキン・テリーヌ、メインにラムのロースト、デザートにはクレーム・ブリュレを注文したが、ちょっとしたレストランに勝るとも劣らない味と言えた。

3コースミールのメイン料理「ラムのロースト マッシュポテト添え」。
 食事中にカードマジックの余興があったり、Q&Aタイムがあったり、マンUのマスコット「フレッド」君が登場したりと、とにかく賑やか。そして、最も盛り上がったのがスターティング・メンバーの発表時だ。まるで合格発表を待つ受験生のような緊張した面持ちで、読み上げられていく名前に耳を澄ますが…残念! 香川は控え選手としてベンチ入り。ちなみに、宮市もスタメン出場とはならなかった。
午後2時40分過ぎ、スタッフの案内のもとスタンドに移動。午後3時少し前になると、昨日、我々が疑似体験した入場用トンネルを11人の選手たちが通り抜け、ピッチへと姿を現した。見学時に座り心地を確認したダグアウトには、ファーガソン監督や香川が座っている。一気に彼らが身近に感じられ、声援にも熱が入る。やがて高らかにホイッスルが鳴り響き、スタジアム内は約7万5000人による「UNITED! UNITED!」の大きな歓声に包まれた。

試合開始前にピッチでウォーミング・アップする香川。
 試合は5―0でマンUの圧勝であったが、残念ながらこの日、香川は試合に出場せず、その雄姿をピッチ上で目にすることは叶わなかった。しかしながら、香川のユニフォームを着たマンUファンの姿を見かけたり、試合中に香川の公式応援ソングが合唱されたりするなど、サポーターの間では徐々にその存在が受け入れられつつあることを実感した。
なお、この原稿を執筆している最中に、香川の左膝負傷が報じられた。全治3~4週間とのことで、順調に回復すれば今月下旬にも復帰すると思われる。世界最高峰のチーム内で確固たる地位を築くことは、容易ではないだろう。だが、来年5月、優勝トロフィーとともにマンチェスターの街中を笑顔でパレードする香川の姿を見られることを期待したい。
2日間の取材を終え、我々はロンドンへの帰途についた。オールド・トラフォードがみるみる小さくなっていき、やがて夜の帳に溶け込んでいくのを眺めながら、もう一度「夢の劇場」で試合を楽しみたい、今度こそ香川の活躍を目の前で堪能したいと静かにリベンジを誓う。
世界中から観光客が訪れる英国の代表都市として、見事に蘇ったマンチェスター。ぜひこの機会に、マンチェスターとオールド・トラフォードに足を運んでみてはいかがだろうか。


マンU側のダグアウト。下から2列目の中央に香川、3列目中央にファーガソン監督が座っている。