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色とりどりの花壇を配置


Thomas Philip Robinson
2nd Earl de Grey
1781-1859
 ここで少し、グレイ家が住まいとした建物についても触れておきたい。ジェマイマが亡くなり、数十年が経ったあと、レスト・パークの歴史に更なる彩りを加えた人物が登場した。第2代 デ・グレイ伯爵、トーマス・フィリップ・ロビンソン(Thomas Philip Robinson, 2nd Earl de Grey)がその人だ。「建築屋」とのあだ名をつけられたアマチュア建築家の彼は、それまで暮らした邸宅から200メートル離れた場所に新しい邸宅を築いた。若かりし頃にパリで目にした町並みや建築様式に魅了されていた彼は、すべてにおいてフランス様式を採用。ヘンリーが18世紀初頭にフランスの影響を受けて配置したフォーマル・ガーデンとの調和をはかったと言われている。
現存するのはこの際に建てられたものだ。グランド・フロアの一部が一般に公開されており、トーマスが妻のために設けたという、コンサバトリーや庭園が見渡せるスィッティング・ルーム、家族が多くの時間を過ごしたというライブラリー、歴代当主らの肖像画が掲げられた、威厳に満ちた大階段などを見て歩くことができる。
大階段から一室挟んだその先から花壇、庭園へと続いていくのだが、扉が開かれていると、大階段のある部屋の扉から遠く離れた場所にあるバロック・パビリオンが小さく顔を覗かせる。その佇まいは実際に近くでパビリオンを見るよりも一層美しさが増す。新邸宅設計の際、そこまでを意図していたかはわからないが、邸宅から庭園を見渡すと、トーマスが抱いた庭園への敬意のようなものが感じられる。


イタリアン・ガーデン。
トーマスが妻のために作った花壇のデザインが復元されている。

 トーマスが庭園に残した足跡は、建物の周辺に備えられた花壇に見られる。四季を問わず一年のほとんどがカラフルに彩られたというイタリアン・ガーデンや、19世紀初頭に主流となった典型的なフォーマル・ガーデンで、入り組んだデザインが特徴のフレンチ・パルテールと名づけられた花壇が設けられた。現在修復中のアメリカン・ガーデンができたのもこのころだ。19世紀当時、英国にはそれまで見られなかった珍しい品種の植物が世界各国からもたらされており、北アメリカ原種の植物がレスト・パークをさらに贅沢に飾った。

 

年の修復計画 ―― 新たな章への扉

 グレイ家の栄華の象徴だったレスト・パークだが、1900年以降は悲運が続く。
当時レスト・パークを相続していた第9代ルーカス男爵、オウブロン・トーマス・ハーバート(Auberon Thomas Herbert, 9th Baron Lucas 1876-1916)は、ニューフォレストの別宅に住むことを好み、レスト・パークを賃貸物件として貸し出すようになった。その後、第一次世界大戦中は軍の病院として利用されたばかりか、1916年に起きた火災で、邸宅は病院閉鎖を余儀なくされるほどのダメージを受けた。修復はなされたものの、レスト・パークへの関心が薄れていたグレイ家は、既に手放すことを決めており、1917年に醸造、鉱業界の有力者であったジョン・ジョージ・マリー(John George Murray)が買い取ることになる。ところがジョンが財政難に見舞われると、庭園にあった数多くの木はなぎたおされ、彫刻は競売にかけられるか、あるいはジョンの住まいとした別の邸宅に移された。そして1934年にはとうとう売りに出されることになった。レスト・パークは、「没落」というかつての貴族の所領の多くがたどるさみしい末路をとろうとしていた。


19世紀後半に作られたと言われるローズ・ガーデン。
1904年にガーデニング雑誌に掲載された写真を基に、そのときの姿が復元されている。

 それを救ったのがイングリッシュ・ヘリテージである。限られた予算の中で、できることはそう多くない。それだけにイングリッシュ・ヘリテージは丹念にリサーチを行う。厳しい目を持つ委員たちの心を動かすだけの力が、このレスト・パークには備わっていたといえる。
取材班が訪れた夏には、ダイヤモンド・ジュビリー、ロンドン・オリンピックに沸いた英国を祝う、青、赤、白の花々がイタリアン・ガーデンに並んでいた。500種を取り揃えるというローズ・ガーデンには豊かな香りを漂わせるバラが風になびいており、レスト・パークがたどりつつあった没落の面影を感じさせないほどに整えられていた。
冒頭でも述べたように、この修復計画は20年にもおよぶ大掛かりなものだ。レスト・パークはこれからも日一日と復興を遂げていくことになる。いや、復興ではなく、300年の歴史を踏まえた新たな大庭園としての『進化』と言うべきかもしれない。すでに栄華を取り戻したように感じられるこの庭園を歩きながら、このプロジェクトが完了したときのことを考えると、一体どんな姿に仕上がるのか、そのときが待ちきれない。レスト・パークの庭園鑑賞とともに、新たな歴史が刻まれていく様子を見に足を運んでみてはいかがだろうか。

① バロック・パビリオン
② ロング・ウォーター
③ チャイニーズ・テンプル&ブリッジ
④ アメリカン・ガーデン
⑤ バス・ハウス
⑥ 庭園周囲に巡らされた水路
⑦ 邸宅、花壇
⑧ ビジター・センター