2012年6月21日

取材・執筆・写真/本誌編集部

作家トーマス・ハーディゆかりの邸宅
サマー・ロッジ
カントリー・ハウス・ホテルを征く

ロンドン市内から南西へ3時間ほど車を走らせたところにある、
ドーセットの小さな村エバショット。
この村に作家トーマス・ハーディとも関わりが深い
「サマー・ロッジ・カントリー・ハウス・ホテル」がある。
古風で趣きのある村にひっそりと佇むこのホテルには、
王族やセレブリティをもひきつける魅力が潜んでいる。
今回は、18世紀に建てられたこのホテルを征くことにしよう。

 

 英国南西部に広がるドーセット。緩やかな起伏を見せる田園地帯には絵に描いたような美しい村々が点在し、世界遺産に登録されている海岸線では、独特の地形の入り江や奇岩などが見られる。ウォーター・スポーツも盛んで、南部の町ウェイマスとポートランドは、7月27日に開幕するロンドン五輪のセーリング競技会場ともなっている。比較的温暖な気候であり、小麦やトウモロコシを中心とした農業や酪農も広く行われている。加えて作家トーマス・ハーディの故郷としても知られており、ドーセットは自然、歴史、食、とさまざまな要素をかね備えたエリアとして、多くの観光客を魅了している。
取材班がこのドーセットのエバショットという小さな村にある「サマー・ロッジ」を訪れたのは、冷たい空気の中にも春が見え隠れする4月の中旬。今にもシカが飛び出してきそうな小道のドライブを楽しんだ後、桜やモクレンなどの花木が咲き並ぶ小さなゲートを抜けると、芝生の奥に上品に佇むサマー・ロッジの姿があった。
写真で見ていたよりも小さく感じられたものの、ガラス張りのコンサバトリーの扉や、ラウンジのテラス戸が開放され、愛犬を芝生に放した宿泊客らがガーデン・テラスでくつろいでいる様子が、サマー・ロッジという名にふさわしい、さわやかな印象を与える。ホテルのエントランスに向かうと、そこは玄関という言葉の響きの方がしっくりくるこぢんまりとしたもので、古い友人宅を訪ねたような懐かしさを喚起させた。
扉を開け、一歩足を踏み入れると、暖炉にくべられた薪の芳しさと、古い家ならではの独特の香りが取材班の鼻をくすぐった。レセプションのすぐ奥にはバーが備えられ、人々の歩みを支えてきた木の床や渋みの増した木製のカウンター、お酒や古書の数々が、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そしてバーを抜けるとその先には、自然光がたっぷり差し込むラウンジが取材班を待っていた。緑あふれる庭へつながる大きな窓、エレガントな調度品、ほんのり暖かい暖炉、移動式キャビネット上のあふれんばかりのリキュールやスピリッツなど。一度座ってしまうと、心地よさのあまり、しばらく動けなくなりそうなソファに深々と腰をおろし、改めてまわりを見回してみる。このラウンジ部分が増築されたのは100年余り前とのことだが、ホテルにいることを忘れさせるような何かがある。それはエントランスでも感じたことだが、実際に暮らす人がとうとうと注いできた愛情が、この建物のそこかしこから伝わってきて、初めて訪れたにもかかわらず、まるで『戻ってきた』ような感覚がわき上がるのだ。
では、どういった人々がこの邸宅を建て、いつくしんできたのか。ここでサマー・ロッジの歴史を紐解いてみることにしよう。





ハーディが建築設計したラウンジ(上、左下)。渋い雰囲気が漂うバー(右下)。