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勤勉なスーパースター

 即位からの60年、改めて言うまでもなく、喜ばしいこと、楽しいことばかりではなかった。
その原因のひとつにメディアとの複雑な関係が挙げられる。
エリザベス女王の戴冠式の模様が、英王室史始まって以来初めてテレビで放映され、英国民約2000万人がその堂々とした中にもエレガントさを秘めた女王の姿を、誇りをもって眺めたとされ、メディアと王室の新しい関係が始まった。しかし、メディアは利益優先。時に王室を利用しようとし、また時には敵対するようにもなっていく。
1980年代、「ロイヤル・ソープ・オペラ」という言葉が造られたように、王室のスキャンダルに国民が飛びつくようになり、新聞は「事実であろうとなかろうと構わない」という姿勢で、あることないことをかきたて、購買数のアップに励むようになってしまう。エリザベス女王の子供4人のうち、末っ子のエドワード王子をのぞく全員が離婚したことも、メディアの格好の報道ネタとなった。

 


戴冠式を終えたエリザベス女王と、エディンバラ公。
若かりし頃のエディンバラ公の美男子ぶりがよく分かる。
女王が恋に落ちたのもうなずける?©Library and Archives Canada/K-0000047
 

 

 さらに97年、ダイアナ元妃が事故死を遂げたことに対し、女王の対応が冷たすぎるとしてメディアは国民の怒りを伝えた。同元妃の葬儀の前日、国民を納得させるために、エリザベス女王は自分も深く悲しんでいることを表明するメッセージを生放送で読み上げる、異例のテレビ中継を行い、事態の収拾をはかった。この時の同女王の苦悩を描いた映画『クィーン』で、エリザベス女王を演じた英女優ヘレン・ミレンがアカデミー賞に輝いたことを覚えておられる読者も多いことだろう。
また、第二次世界大戦終結後も、世界各地で紛争が続き、エリザベス女王の心に暗い影を落としていることは想像に難くない。1956年のスエズ危機、82年に勃発し、アンドリュー王子も従軍したフォークランド紛争、91年の湾岸戦争、それに続くイラク戦争、今も犠牲者が絶えないアフガニスタン紛争など、平和を愛する女王が真の意味で心穏やかに過ごせる日がくることを望むのは無理なのではないかと思えてしまう。
しかし、身内のスキャンダル、各地の紛争、低迷する英国経済など、心労のもとは尽きることがないにもかかわらず、エリザベス女王が公務でふさぎこんだ表情を見せることは皆無だ。
交通機関の発達によって世界が狭くなったのをうけ、英連邦はもとより、世界各国を訪れ王室外交を展開するエリザベス女王がこの60年余りで訪問した国・地域は116以上にのぼる。
加えて、600の慈善団体のパトロンを務め、年間430もの国内公務をこなす。



 


今日のエリザベス女王とエディンバラ公。
君主夫妻の婚姻関係の長さでも記録を更新中。


毎日、200から300通の手紙に目を通し、必要な場合は秘書を通じて返事をさせ、赤いアタッシュケースに入れて届けられる公文書を読み、必要箇所に署名。午前中に叙勲を行うこともあれば、各国の要人に謁見することもある。毎週水曜日の午後6時半からは首相と非公開の定期会合を持ち、午後7時半にはその日の議会の審議内容が書類で届く。
国内外で起こっている事象について重要なものは、スコットランドのバルモラル城での休暇中であろうと、週末も関係なく、毎日、女王に伝えられ、女王が執務を休むのは、クリスマスのみというハードさだ。
これを60年間、まじめに、毎日毎日続けてきたエリザベス女王を、強靭な精神力の持ち主といわずして何と呼ぼう。86歳の今も大病もせず、行く先々で笑顔をふりまく。母君のエリザベス皇太后が101歳の長寿であったことを考えると、次のプラチナム・ジュビリー(在位70年)を祝うのも可能かもしれない。
英王室史上では、在位64年という最長記録を保持するヴィクトリア女王(1819~1901)が81歳で没したため、エリザベス女王は、君主としての長寿記録を更新中。在位記録についても、現在単独2位である。このまま、在位記録もぜひ書き換えてほしいと願うのは筆者だけではないだろう。
1977年のシルバー・ジュビリー(在位25年)、2002年のゴールデン・ジュビリー(在位50年)の祝賀行事はいずれも大盛況に終わり、国民に愛されていることをそのたびに証明してみせたエリザベス女王。今年も英国史に残る1年となるよう祈ってやまない。