13歳で恋におちた王女

実際にエリザベス女王が私有財産として持っているのは、サンドリンガム・ハウスとバルモラル城=写真=のみ。バッキンガム宮殿やウィンザー城はトラスト(財団)が管理している。ちなみに同女王の「資産」については非公開。経済誌『フォーブズ』が2010年に「約3億ポンド」と見積もったことがあるという。   王女時代、家庭では歴史一般、語学、文学、音楽を学んでいたエリザベス王女だったが、父ジョージ6世の即位により王位継承権第1位の立場におかれたことを受け、立憲君主制度の歴史、フランス語などが授業に加わった。超一流の講師が教育にあたったことは言うに及ばないものの、王女を急速に成長させたのは、皮肉にも第二次世界大戦だった。
1939年の同大戦勃発直後こそ、エリザベス、マーガレット両王女とも、スコットランドのバルモラル城に避難したとはいえ、1940年にはウィンザー城に戻り、終戦までほとんどをそこで過ごした。「家族は離れ離れになるべきではない」という、母エリザベス王妃の意向が強く働いたといわれている。
近衛歩兵第一連隊の大佐に任じられたエリザベス王女は、16歳の時に初の単独公務を果たしている。また、運転技術、車の修理技術も学んだ。王族の女性メンバーとして、過度に保護されるのではなく、国民と共に戦うことを選んだ同王女の姿は、自立した女性たちの時代がまもなく到来することを予感させたと言える。
バッキンガム宮殿の一部がドイツ空爆の被害を受けるなどしたが、エリザベス王女は家族とともに無事に終戦の日を迎えた。ドイツが降伏し、平和と戦勝の喜びにわく人々が通りを埋め尽くした際、マーガレット王女といっしょに両親に頼み込み、おしのびで、それらの人々にまぎれるという「冒険」を味わったことを、後にインタビュー(エリザベスがインタビューを受けるのは極めてまれ)の中で告白している。
次男のアンドリュー王子を抱くエリザベス女王(1960年、セシル・ビートンCecil Beaton撮影)©V&A Images 終戦後まもない1947年11月20日、フィリップ王子と結婚。フィリップはギリシャおよびデンマークの王位継承権を保持していたが、結婚にさきだち、すべて放棄。また、ギリシャ正教から英国国教会に改宗するなど、血縁関係はあったものの、エリザベス王女がこの「外国人」男性と結婚するにあたり、多くの障害を取り除かねばならなかった。
ふたりが初めて出会ったのは王女がわずか7歳の時。1939年に3度目に再会した時、13歳のエリザベス王女は、長身でハンサムなフィリップと恋に落ちてしまう。以降、文通などで交際を続けるが、当初は母エリザベス王妃もこの結婚に反対だったとされている。英国人でないばかりか、フィリップの姉妹がナチスに協力した貴族に嫁いでいたことから、「ドイツ野郎」と陰口をたたかれることもあったという。資産家であるわけでもなく、未来の英女王の伴侶として「つりあわない」と考える者が少なくなかった。
しかし、エリザベス王女はあきらめなかった。
この選択が間違っていなかったことは、この65年間が証明している。ダイヤモンド・ジュビリーも、エリザベス女王個人の努力だけでは、達成できていなかったかもしれない。物議をかもす、悪い冗談を時折口にすることでも知られるエディンバラ公フィリップ殿下ながら、女王にとって精神的な支えとなっていることは疑うべきもないだろう。

 

木の上で誕生した若き女王

 

 1948年には世継ぎとなるチャールズ王子、50年にはアン王女を出産。王室の女性メンバーとしての責務を無事に果たすかたわら、51年にはエリザベス王女は公務の数も増やすことになる。父ジョージ6世の健康が急激に衰えたためだ。
ジョージ6世がヘビースモーカーだったことも関係していると考えられるが、妻のエリザベス王妃は、望んでなったわけではない国王としての重責が同王の健康をむしばんだと考え、退位したエドワードを長くうらんだとされている。
訃報がもたらされたのは、エリザベス王女がフィリップ殿下とオーストラリア/ニュージーランドへの公式訪問に向かう途中、ケニヤに滞在していた時のことだった。2人は木の上にしつらえられたロッジに宿泊していた。フィリップ殿下にジョージ6世逝去の報がまず伝えられ、フィリップがエリザベス王女にそれを知らせる、気の重い仕事を請け負った。
ある程度の覚悟はできていたとは思われるが、エリザベス王女はまだ25歳。父親を亡くした悲しみもさることながら、いよいよ女王として漕ぎ出す日が、これほど早く来てしまったことへの不安も大きかったに違いない。1952年2月6日のことである。伯父のエドワードが退位を選んでから16年が経っていた。
君主として何と名乗るかと聞かれ、「もちろんエリザベスのままで」と回答。ここにエリザベス2世が誕生したのである。
1953年6月2日、ウェストミンスター寺院で戴冠式が行われた。その10週間前に、祖母であるメアリー皇太后が逝去したが、メアリーは自分の死により戴冠式を延期することのないよう言い残して亡くなったという。
この戴冠式から数えて59年目にあたる今年の6月2日から4日にわたり盛大な祝賀行事が予定されている。詳細は5ページをご覧いただくことにするが、国民、英国在住者、英連邦出身者など、おびただしい数の人々がこの晴れのイベントを楽しむことになるはずだ。

   

ダイヤモンド・ジュビリーに
あわせて見ておきたい!
おすすめDVD

The King's Speech
『英国王のスピーチ』
(2010/118分)

 吃音(きつおん)に悩むジョージ6世(コリン・ファース)と、スピーチ矯正の専門家であるオーストラリア人、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の関係にスポットをあてた人間ドラマ。ジョージ6世の妻、エリザベス(故クイーン・マザー)に扮するのはヘレナ・ボナム=カーター。コリン・ファースは、この作品で念願のアカデミー賞主演男優賞を見事獲得。
 

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The Queen『クィーン』
(2006/104分)

1997年、ダイアナ元妃の突然の事故死に際し、対応が冷たいとして国民の猛反発を受けるエリザベス女王(ヘレン・ミレン)の苦悩と、事態収拾に奔走するトニー・ブレア首相(マイケル・シーン)の姿をえがく。この作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞したミレンは、その前年に、テレビドラマ・シリーズ『Elizabeth I(エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~)』でも主演を務めた。